3 聖女でも戦えます
ブクマ&評価、ありがとうございます。
神様から全魔法使用のスキルをもぎ取った私は、攻撃魔法も使えるようになった。
なので練習がてら、学校では魔法使いのように存分に使いまくっている。
好きな魔法は植物を操って足留めしたり、隠蔽を使って気配を消してその場を去る、という技だ。ちなみに、治癒魔法は一切使わないようにしてきた。使えるのは神殿の神官や聖女ぐらいだからだ。
もちろん、火や水、風を扱うこともできるし、熟練の魔法使いしか使えない雷や空間も使える。魔法の使い方は精霊に聴いた。彼ら(彼女?)は丁寧に教えてくれた。精霊は小さくてかわいい者や、人間と同じ大きさの者もいた。年齢や性別という概念はないらしい。私と会話できる事が嬉しいらしく、なんでも手伝うよ~といってくれた。
精霊って基本見えないんだよ…。私には常に見えてるので、昔は誰にでも見えてると思ってた。
会話を口にすると独り言を言ってるみたいにみえていたらしい。
「マリーちゃんは妖精さんとお友達なのねぇ」
と、微笑ましく見られてたのはそれが原因……それって、前世の時と同じように中二病みたいに思われてたってことじゃん!
学校に入る前までに、必死に「念話」を習得した。
精霊の中でよく話す子は「リース」だ。誰が私に魔法を教えるかを決めるのに彼らの間で一悶着あったらしい…。
リースは精霊の中でも知識が豊富で、様々な事を教えてもらった。
精霊も魔法もある、さらに聖女の力や記憶もある……、チートすぎる……。
闘う聖女最強伝説……なんちって。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の争奪戦もまた何かやらかしてくれるのかい?」
「あら?レイは期待してくれてるのかしら?」
「そうか、ならば期待に応えねばな…」
「ははは、去年は大変だったからな、先輩たちも面白がってるし」
「ふふふ」
「はははは」
「くっくっく」
火花をちらしながら、見つめあう3人。
5日間かけて学年ごとに行われる争奪戦。学年ごとなので、5年生が1年生を狙うといった実力差別の弱肉強食はない。争奪戦のルールはシンプルだ。先生方が学院中に用意した魔物を退治しながら、他のパーティも倒していく。最後に残った者が勝利だ。最期まで残ったチームには栄誉が与えられる。
また、ポイントランキングもある。パーティや魔物にポイントが降り分けられている。獲得ポイントが一番多い者には、卒業後にある1年の徴兵免除か、一年間の学費免除のどちらかが褒章だ。
通称、学費争奪戦。
王族や貴族には学費は大したことがない。だが普通学校ではなく、試験を受けてこの上級学校に入った一般市民の子は、高い学費に苦労するという。なので、冒険者ギルドに登録して、クエストをこなしてお金を稼ぐ子も多い。
能力があるのに地位に邪魔されることなく、実力を磨けるように…と、実力主義のミエリア学園の方針により、一般市民もこの上級学校に通うことができている。高い学費が免除となれば、食いつかないわけがない。貴族が多いので、仲良くなってコネを…と目論む者や、普通学校では学べない高位教育を求めて受験する者もいる。
この争奪戦は5月に行われ、自分の実力を測り、チームとしての能力、自分の適性を見極めることができる重要なイベントなのだ。
一昨年の争奪戦は、キースを補助し、強敵となるレイ達を上手く誘導して躱し、他のチームと戦わせ疲弊させ隙をついた。結果、生き残りとポイントの両方の優勝をかっさらった。
マリテーヌは魔法を駆使して、手当たり次第に魔物を足止めし、キースがその魔物にとどめを刺していく。
魔物を横取りされたチームがその間にマリテーヌを襲うも、攻撃魔法を巧みに使い蹴散らし、それをキースも援護する。圧倒的すぎて、先生方は頭を抱えた。
一時期、本当に聖女なのか?と疑われた。昔の聖女は、攻撃魔法がなかったからね。だからといって自分から、「私が聖女です!」とはもちろん訂正しない。リスクが大きすぎる。なので、その噂に手を加えて、聖女ではないらしい、という噂に変化させた。これで誰も私が聖女だと気づくまい。
去年はパーティ対戦に焦点を絞り、目に入ったパーティを次々と力押しで倒し、残ったレイ達のパーティと本気で戦った。お互いのチームは傷や流血でボロボロになり、最後はキースとレイの剣による一騎打ちになった。緊急の必要性がない場合は、治癒を使わないと自分のルールで決めているので、私は大人しく二人の戦いを見守った。剣をぶつけながら超速で動き回る二人を目で追うのがやっとだった。
……何故か目で追えていた……これって神様がいってたサービス…?
この軍配はレイに上がった。王族なのにここまで戦えるってすごくないか?
生き残り戦は負けたが、ポイントでは1位を獲得した。
去年負けたことにより、キースと私は補助魔法を研究してきた。相手が王族だからと手を抜くつもりはない。
頑張れキース!闘いはキミに任せた!
え、私?…私は魔法ではなく頭脳で攻めるのだ!今回はいろいろ道具も使っちゃうよ!
「今度こそレイたちをギャフンと言わせてあげるんだから!楽しみにしてなさいよ!」
「それは楽しみだね。マリーの魔法は面白いものが多いからね~」
「そうなの?」
「だって属性ほとんど使えるんでしょ?そんな魔法使いは見たことがない。キミは魔女なんじゃないか?っていう噂もあるぐらいだよ」
「…聖女の次は魔女…次は女神にでもなるのかしら?」
「ははは、ほんとキミは面白いよ。もしそうなったら、女神の加護でも頂こうかな?」
「あら、私の加護は高いわよ」
「…お金取るんだ?」
「ふふ、女神なら貢がれてなんぼでしょ?」
貴族らしからぬレイと私の会話に、苦虫を噛んだような顔をするキース。レイは王子と思えないぐらい気さくで、話していて面白いので、つい言葉遊びをしてしまう。キースは無駄話は苦手らしく、遊びが始まるといつも黙ってしまう。
「……おい、争奪戦はどうするんだ?」
「ふふ、キース。いつもの場所にいきましょう?」
「…わかった」
キースと一緒に教室を出ようと扉を開くと、金色の影がササっと現れた。
「お待ちなさい、マリテーヌ!今日も兄さまを誘惑してくれましたわね!」
左手を腰にあて、右手で私を指さす影。今年入学してきた2つ下のレイの妹姫のキャロル殿下だ。レイと同じく黄金の金髪を腰まで伸ばして、大きな空色の瞳で私を睨んでいる。
入学してきてから、何かと私に因縁をつけてくる。私はグルウェスト家の一番下なので、妹が出来たみたいでかわいがっている。
「キャロル殿下。今日も可愛いですわね」
「!…そうよ、わたくしは可愛いのですわ!兄さまもそう思いますわよね!」
「あぁ、そうだね、キャロルは可愛いね」
「兄さまっ!……マリテーヌ!今日こそはわたくしに負けて、潔く兄さまから離れると良いですわ!」
礼を取りながらキャロル殿下に微笑む。怒りながらもかわいらしいお顔にほっこりとする。
あぁ、かわいい…お姫様って無条件にかわいいよね、撫で回したい…。無礼になるからしないけど。
前世からの合計年齢は50になるのだ…思考がおばちゃん化しても仕方あるまい…。
王様の子息は、第一王子のアレクシス、第一王女のユーフィア、第二王子のレイオール、第二王女のキャロルの4人兄弟だ。アレクシス殿下は18となり、次の王となるべく陛下の補佐をしている。ユーフィア殿下は16で、すでに隣国へと嫁がれている。
側室も5人ほどいるらしく、その子供たちも学院に通っている。
いっぱいいるので、正妃の子以外は、私は把握できていない。
何気にハーレム大国だよね、この国。子孫を残す義務がある王族や貴族は仕方がないんだろうけど…。
ちなみに、逆ハーはほとんどない。
「良いですかっ、マリテーヌ!わたくし、あなたの態度について、常々思うところがございますの!今日こそはわたくしの話を聞いてもらいますわよ!」
「…親愛なるキャロル殿下、これからマリテーヌとの約束がありますので、彼女を連れて行ってもよろしいでしょうか?」
キースが丁寧にお辞儀しながら、キャロル殿下へと微笑む。途端に真っ赤になるキャロル殿下。
そう、キャロル殿下はキースをお気に召しているのだ。が、それを面と向かっていうわけにもいかず、キースと唯一パーティを組んでいる私に、難癖をつけているだけなのだ。恥ずかしいのか兄であるレイを理由にして、私に向かってくる。
キースもわかってやってるんだろうな~…これは。
キースにくってかかることもなく、キャロル殿下は「ふ、ふん。キース様がそういうなら仕方ありませんわ。今日の所は許してあげます。さっさとお行きなさいっ!」と、素直に解放してくれた。
こういう素直な所は好感が持てる。キースに嫌われたくないからなんだろうけど、その口調は逆効果だ。
キースは剣などの実技が学年で一番強い。強い男に魅了された女子は、振り向いてもらおうと必死にアプローチをかける。婚約者、ひいては愛人でも良いとその座を狙っていい寄っている。以前、私に愚痴ったことがある「飽きもせずキーキーわめく女が嫌いだ。断ってもしつこく寄ってくる」と。「大変だね~」と返しておいた。
学校にいるからには学業に専念するべきだ。とか言ってた。意外と真面目…。
貴族は成人後に結婚する家が多い。学生時代に縁を結び、家を護る。そういった家の繋がりを作るのが大事だという人もいる。だが、この学院は能力を伸ばす為の学校だ。純粋に能力を伸ばしたいと励む若者が多いのだが、令嬢達は学院卒業のステータスが欲しいだけの子もいて、派閥やクラブがよく衝突していた。
いつもの場所…。
初めてキースに会ったあの校舎裏だ。樹木が茂り、建物の陰に入ると周りからは見えなくなる。一応、パーティ用の隠蔽と音声遮断の魔法を使って、作戦などはいつもここで話し合っていた。あ~でもない、こ~でもないと打ち合わせと確認を終えて、学院内にある学生寮へと戻る。
今度の争奪戦も楽しみだ。普段使わない魔法や技の組み合わせを試せるのだ。やられる側は大変な目にあうが、行事イベントには、神殿から治癒魔法が使える神官も派遣されてくるので、多少のケガも大丈夫である。
「ふふふ」とにんまりしながらクッションを抱き込んでソファでゴロゴロしていたら、侍女のベルから「お嬢様、みっともないですよ」と怒られた。