勇者の言い分と言い訳とまさかの出来事
魔王を倒した所までは良かった。
ただ、師匠に「一応、奥義だから教えますが使用すると国が一つ消し飛ぶくらいの威力がありますし、周りに居る人も危ないので絶対に使用しないで下さい」と言われ、「そんな馬鹿な(笑)」と話半分しか聞かず笑い飛ばした後、師匠にしこたま殴られた思い出の奥義の内の一つを使ってしまったのが間違いだった。
言い訳させて貰えるなら魔王が予想以上に強く、中々倒しきれなくて少しめんど…焦ってしまったのと…後は…そう!仲間達も疲弊し始めていたので早急に戦いを終わらせなければと言う思いやりが奥義の使用を決断させたのだ!
断じて「奥義を使わなければ魔王を倒せなかったんです」と師匠への言い訳もばっちりだしとか、奥義を使わなくても魔王は倒せそうだけど、時間もかかりそうだし億劫だな…とか、使ったことの無い奥義を使ってみたい!とか、そんな事を考えていた訳では無いんです。
本当です。
信じて下さい。
そんな話はさておき。
一番の間違いは奥義発動の際、魔法陣を通常より多めに掛け、必要の無い龍脈の力を魔力に掛け合わせ奥義を改良して放ってしまった事だろう。
あれは本当に凄かった。
しこたま殴られてボロボロの俺に師匠が「ほんとに絶対使わないで下さい」と念を押しただけの事はあった。
確かに普通に使用しただけでも辺り一面消炭になってたと思う。
だからこそ前もって仲間達には離れて貰い、魔法やスキルでガチガチに守っておいたのだが。
何もしなくても強力な破壊力なのに調子に乗って手を加えてしまった奥義は発動した瞬間に、このままでは世界が滅んでしまうかもしれない…という恐怖をもたらした。
全身から冷や汗が止めどなかったし。
「世界を救う為に戦ってきた勇者が最終的に世界を滅ぼすなんて、飛んだ笑い話だと思わないかい?」と思わず目の前に居る魔王に気安く語りかけ、互いに笑い合ってしまいそうな程度には正気を失いかけた。
まあ言わなかったけれども。
今にして考えてみれば、世界を滅ぼす程の威力とは思えないし……
よくて世界の三分の一が廃墟になるくらいで……
嫌…半分かもしれません…
それ以上の可能性も無くはないですが…例えそうなったとしても、この世界の人々はそんな事に負けず、前を向いて力強く生き、復興と今まで以上の繁栄の未来を勝ち取っていけたでしょう!世界は絶望の中からも希望を見出し、前に進んでいけるの意思を持っているのだと私は信じています!
お前が言うなって話であるのは自分でも分かっているから物を投げないで!
それに、奥義発動した瞬間にこのままではやばいと気付き、自分と魔王の周辺に結界を幾重にも張り巡らせ、奥義の発動をキャンセルしたので結局は世界は無事だったのだし、そんな中途半端な奥義でも魔王は倒せたので終わり良ければ全て良し!と言う事でここはひとつ何とか。
だって魔王の脅威から人々を守り、世界を滅ぼす(かもしれない)奥義からも人々を守り、二つの意味で世界を救ったと言っても過言では無いと思うのです……流石に無理がありますね…
この話はここら辺で終わりと言う事で…
魔王討伐最大の誤算は、奥義のキャンセルと余波の所為で俺まで立っているのがやっとの重傷を負ってしまった事だろう。
それと長かった闘いが終わって気が抜けてしまったと言うのもあった。
まさかその隙をついて仲間の一人に後ろから刺されるとは思ってもみなかった。
歳が一つ上で聖騎士の一番付き合いの長かった親友が泣き笑いの表情で「魔王さえ倒してしまえば、御偉方にとってお前の存在は邪魔でしか無いんだとさ」と掠れた声で呟いていた。
本来なら刺されたぐらいでは、そこまでのダメージは受けない筈なのに、自分の奥義で軽く瀕死な状態と、刺された剣に途轍もない量の術式やら呪いやらが掛けられていた所為で、どうしようもない状態だった。
この闘いが終わったら家に帰ってしばらくの間はゆっくりダラダラして。その後、料理屋とか居酒屋を開いて適当に面白おかしく暮らしていく予定だったのにな…むしろ此処からが俺の新たなるスローライフの始まりだっ!と計画してたのに。
親友よ…きっとお前の事だ思い悩んだな違いない。
どうせその御偉方とやらに人質でも取られてたんだろう。
綺麗な彼女に、可愛い妹とかいっぱい居るもんな。
ほんとに羨まし…いや、憎々…いや、駄目だこれ以上この事を考えてたら呪いで道連れに殺してしまえそうだ…少しでも頼って貰えたら一緒に助け出したり出来たと思うんだけど。
ただ、人質が彼女や妹だった場合、もしかするとぐちぐちお前に対する僻みや嫉みなどで助け出す間煩かったかもしれないけどな。
あれ?それが嫌で相談されずに刺されたのかな?
親友の行動に呆気にとられ、唖然とした表情の仲間達が居る。
どうやら知らなかったようだ。
剣が抜かれたようで立っていられずに倒れ込むと、仲間達が近寄って来たて治療魔法やエリクサーなどを掛けてくれるがもう手遅れだった。
このままだと親友も危ないだろうとみんなに告げる
「きっとあいつもこんな事をするだけの理由があったはずだから、話を聞いて助けてやってくれ」意識が遠のき始める。もう一言だけ言わねば。
「俺とお前の仲だ気にすんなよ」親友に向け最後の言葉を絞り出した。
視界が暗転して何も聞こえなくなった時。「お前も不憫な奴よの」と凛とした女性の声が聞こえた気がした。