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鬼ごっこ

「すっかり元気になったわね」

「ああ。健太郎のおかげだな」


 パイロット四人は仲良く通路を歩いていた。

 健太郎から精神安定剤をもらってから、みるみるうちに体調は回復していった。しかし、食事のたびに戻していたせいで体力を消耗しており、もう一週間余分に入院した。

 ほぼ毎日お見舞いに来てくれたシトラには足を向けて寝られない。


「ところでどこ向かっとるん?」

「? ああ、肩慣らしだ。ちょっと轟龍に乗ってくる」


 一瞬エンの質問が理解できず、空は首を傾げた。

 というかお前らはどこに行くのか分かっていないのについてきてたのか。


「いやいやいや、無理やろ。シミュレーションでも倒れたぐらいやのに、実際に飛ぶなんて無謀や」

「大丈夫だって。オレだし」


 エンが首を横に振る。しかし空はまったく根拠にならない言い分を持ち出し、彼女を説得する。

 もちろんちゃんとした根拠もある。健太郎の精神安定剤とシュテルンを受け入れたことだ。

 今の空は戦闘機に乗ったぐらいで体調の変化は起こらないだろう。シュテルンの円盤と戦うようになったらどうなるかは分からないが。だからこそどこまでだったら問題ないのか調べたいのだ。


「ダメよ許可できないわ」

「大丈夫だって。信じてくれよ」

「アンタ、忘れたわけじゃないわよね。アタシは誰も失いたくないの」


 鼻先が触れる距離まで詰め寄られて、シトラの綺麗な碧眼に睨まれる。

 近いし離れたい。鼓動が早まっているのは彼女に聞こえていないだろうか。

 だが、離れるわけにはいかない。


「信じてくれ」

「――っ」


 空は真っ直ぐ見つめ返す。シトラの息をのむ音が聞こえた。


「ん」


 イリーナの肯定的な声が聞こえて、我に返ったのかシトラは勢いよく空から離れた。


「イリーナ本気で言うとるんか?」

「ん」

「空は完治した。纏う雰囲気が違うやって? まあ確かに声に色はあるけども」


 自覚はなかったが、空は人間に戻っていたようだ。シュテルンがしたとは考えにくいから健太郎のおかげだろう。


「だろ? 俺はもう大丈夫だって。心配なら一緒に飛ぶか?」


 最後の一言に、最強の三人は目をぎらつかせた。




~~~~~~~~~~~~~




『空大丈夫?』

「ああ。頭痛はするが、問題ない」


 虹色の視界だということを除けば、いたって普通に戦闘機を操縦できる。目覚めてから初めての操縦に正直不安を抱えていたがまったくの杞憂だった。三千年経とうが体は覚えているらしい。


『無理しないでよね』

「分かってるよ」


 心配性だとは思うが、実際に声に出すほど空は恩知らずではない。

 シトラは色々と気を砕いてくれた。心配もかけたし世話にもなった。どうして文句が言えるだろうか。


「なあ、三人にお願いがある」

『ん?』

「鬼ごっこしないか? 俺が鬼やるからさ」


 飛んでも問題はなかった。となると、次は戦闘時に近い機動を試すべきだろう。

 空の提案に、最強の三人組はしばし黙り込んだ。


『ふーん? 状況は見て話をした方がいいわよ』

「なんだよ俺に負けるのが怖いか?」

『上等……!』


 シトラをけしかける心得はある。挑発すると、彼女は簡単に挑発に乗った。


『あーあ、シトラが挑発に乗ってしもうた。ウチが負けるの確定やん』

「全員を三十秒追えれば俺の勝ち。それ以外なら負けってルールでいいからさ。それならエンも楽しめるだろ」

『三十秒やって? 随分長い時間やな』

『ん』


 エンとイリーナの声も、若干刺々しくなる。

 戦闘機での戦いは一秒が生死を分ける。一秒間で約六八〇メートルも移動するのだ。人間の反応が間に合う世界じゃない。

 隊列を組んでいるならまだしも、縦横無尽に飛び回る戦闘機を三十秒も追い回すなんて不可能だ。


「やるのか? やらないのか?」

『ええで挑発に乗ってやろうやないの』

『ん』

「じゃあ今から開始な」


 空の言葉が終わるよりも早く、三機は散会した。空もすぐ後を追って舌なめずりをする。

 結果は空の勝利に終わった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

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