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重たい信頼

 知らない天井が――ではないか。二度目だし。

 空はカーテンで仕切られたベッドで目を覚ました。


「何が……ああ吐いた後倒れたのか」


 記憶を漁って、何故医務室に運ばれたのか思い出す。

 シミュレーション機で見たあの光景は何だったんだろうか。前にエンが言っていた通り、シュテルンに改造でもされているのだろうか。もう誤魔化しようがないぐらい、空はシュテルンと同調しているのだろうか。


「空、大丈夫?」


 背筋に走る冷たい感覚に震えていると、金髪の少女が顔を覗き込んだ。

 気付かなかった。警戒能力も低下しているようだ。まだ安静したほうがいい。


「おう。起き抜けに美少女の顔が見れたからな」

「アンタが心にもないこと言うときって結構余裕ないときよね?」

「えっなんだって?」

「とぼけるの下手過ぎじゃない?」


 シトラが責めるように目を細めた。

 失敬な。常に美少女だと思っているとも。本人には言わないし態度にも出さないだけで。


「本当に何もなかったの?」

「……」


 シトラの問いかけに、空は答えることができなかった。


「シュテルンと繋がってから、アンタはおかしくなった。アタシは知らなかったけどエンもイリーナも異変を感じてる。二人と話はしたんでしょ?」

「したよ。二人にも同じことを言われた」

「やっぱりね。アタシが一番遅かったなんて気に入らないけど」


 こめかみを押さえて、シトラが不満げに息を吐く。

 エンは音に色を感じるから話をすれば異常に気付く。イリーナは相手のオーラが見えるから見ただけで異変に気付く。

 シトラが気付けなかったのではない。二人が早かったのだ。


「何があったの? それとも二人みたいに言えない?」


 シトラの瞳は答えを求めていなかった。

 エンが何度か聞いて、けれども答えてくれなかったことを話したのだろう。そうでなければ、猪突猛進のシトラが一歩引いた聞き方なんてするはずがない。


「……今まで」

「ん?」

「今まで信じていたものが実はまったく違っていたら、シトラはどうする?」


 なぜ彼女に聞いてしまったのか、空も分からない。

 信頼しているからかもしれない。シトラなら空の悩みにも簡潔な答えを返してくれると期待しているのかもしれない。もしかすると信号機のリーダーにだけは打ち明けるよう、シュテルンが裏で操作しているのかもしれない。


「何それ?」


 空本人も分からない問いに、シトラは苦笑しながら首を傾げる。


「悪い忘れてくれ」

「そうねアタシなら、自分の信じる道を進むと思うわ」


 だが、優しい彼女は空の真意を図りかねないながらもちゃんと答えてくれた。

 やはり簡潔だ。シトラらしい。


「ていうかアタシにその質問はちょっとおかしくない? 見ての通り、アタシは答えを出しているんだけど」

「そっかシトラの家族は――」


 助かったのか、と言いかけて止める。

 彼女は家族をシュテルンに奪われた。殺されたと思っていてもおかしくない。だからこそシトラは今エイロネイアにいる。


「ええ。だから最強をやってるのよ」


 最強集団のトップを務めている。

 すべては復讐のために。


「空。アンタはアタシとは違う」


 感情の昂りを抑えるように、シトラは熱い吐息を漏らした。


「まだ何も失っていないし、何より頼れる仲間がいる」

「なか、ま」

「まずは自分が正しいと思える何かを見つけなさい。そしてアタシたちに助けを求めなさい。大丈夫。アタシはアンタを信じてる。きっと間違ったりしないわ」


 はにかむ少女を、これほど頼りに思ったことはない。

 最強の少女が認め、肯定してくれた。自分にこそ正義があると、シトラは言ってくれた。

 空が欲しかったのはその言葉だったようだ。求めていたものがもらえて、涙ぐみそうになった。


「重たい信頼だな」

「それが仲間というものよ。いい勉強になったでしょ?」


 そう言って、シトラはニコリと笑顔になる。

 笑顔が眩しくて、空は憎まれ口の一つも叩けなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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