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またここ

「空!」

「ん? どうしたシトラ」


 歩いているとシトラに呼び止められた。

 空に追いついた彼女は膝に手をついて息を整える。かなり走り回ったらしい。肩が上下していた。

 どうでもいいが、汗だくの美少女が荒い呼吸をするのはとてもいいものだと思いました。ありがとうございます。


「何ほっつき歩いてんのよ! 心配するじゃない!」

「いいだろ別に。体がなまってんだから」

「言えてるわね。最近は出撃もないし」


 情緒不安定なのだろうか。

 空は不安になった。色々心労がたまっているのかもしれない。出撃できない鬱憤がたまっているのもあるだろう。今度スイに話をしておいたほうがいいかもしれない。


「? 何か用があったんじゃないのか?」

「そうだ思い出した! ちょっと付き合いなさい」


 首を傾げる空の袖を、何かを思い出したらしいシトラが掴む。


「はっ? おい引っ張るなよ」

「いいの! どうせ自分が今いる場所も分かってないんでしょ?」

「帰り道ぐらいは覚えてる」


 ムッとして空は言い返した。ステラの構造とか覚えていないが、方向音痴ではないのだ。シトラの先導がなくても部屋に帰れる。

 振りほどこうと暴れるが、シトラは自分の体を絡ませることで空の腕をガッチリと拘束した。


「ここは女湯の真ん前。男禁制のエリアよ」

「……マジか」

「まあこの時間に入る人はいないし、空に限ってそういうことしないとは思うけど。盗撮用のカメラを仕掛けたなんて言われれば反論できないわね?」


 小悪魔のように微笑みながら、実に恐ろしい勘違いを話すシトラ。

 船の構造が分からないのは確かだ。だが、そんな言い訳が通じるのだろうか。通じない可能性が高いだろう。分からないのなら一人で出歩くなと怒られるのがオチだ。


「分かったよ従う。だからせめて腕を組むのは止めてくれ」

「なっ!? 引っ付かないでよ!」

「お前がくっついてきたんだろうがっ!」


 顔を真っ赤にして突き飛ばすシトラに、空も不満を露わにして叫んだ。




~~~~~~~~~~~~~~




「またここか……」


 空は呆れたように呟いた。

 どこに連れていかれるのかと期待していたら、シトラはシミュレーション室に案内した。

 ええ、予想はしていましたとも。どんな楽しいことが待っているのかと思ったりしてないとも。期待なんてしませんよ。ええまったく。

 空は深いため息を吐いた。シミュレーション室にはエンとイリーナも待機していた。その表情に若干の緊張が含まれていると共感覚を持っていない空でもすぐに見抜けた。


「空、久しぶりに戦いましょっ?」

「言葉が物騒じゃなければ惚れたかもな」


 まったく残念だ。いい笑顔も物騒な言葉で台無しである。


「そんなのどうでもいいから」

「はいはい。戦乙女ヴァルキュリアの仰せのままに」


 空は苦笑して、自分専用となったシミュレーション機に乗り込み、起動ボタンを押した。

 そういえば、起きてから初めてか。

 シュテルンと接触して以来、空はシミュレーション機に座らなかった。とてもそんな気分にはなれなかったからだ。

 全方位に描写されるモニター群。すっかり見慣れたはずの真っ白い空間が展開される、はずだった。


「――っんだよこれ」


 空の視界に映っているのは極彩色の空間。初めて見る光景は目だけで捉えている風景ではないのだと直感で理解した。


『準備はいい?』

「今までなかっただろ。共感覚は」

『空?』


 シトラの声が届かない。視界がグルグルと回っており、音は反響して内容が聞き取れない。

 空は突如として込み上げてきた胃液を我慢できずに吐き出した。


『アカン中止やシトラ! 空が吐きおった』

『嘘でしょ!?』


 誰かが喋り、誰かが驚いたような声を出しているのは辛うじて分かる。だが意識を保つことすら難しそうだ。視界が段々と暗くなっていく。


『お前はもう戻れない。オレを受け入れない限り』


 酩酊する意識の中、空と似た誰かの声が確かに聞こえた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は明日午前8時更新予定です。

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