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ゲームクリアの報酬が異世界転生なんて聞いてない

「凄かったわよ演説」

「せやな。さすが戦争の首謀者やっただけはあるわ」

「ん」

「やめてくれよ。恥ずかしかったんだから」


 右手にシトラ、左手にエン、背中にはイリーナが抱き着いた状態で、空はため息を吐いた。

 最終決戦が終わり空の身柄を確保されてから、三人はずっとこの調子だ。彼女たち曰く手錠代わりということだが、食堂で鉢合わせたスイがニヤニヤと楽しんでいたからまず間違いなく彼女たちの独断だ。

 初めこそ抵抗したが、肉体を強化した空でも簡単には振り払えなかった。今では慣れたのもあってか何も思わなくなってきた。感覚がマヒしている自覚はある。


「三人はいいのか? 世界を渡ればもう二度とこの世界には帰ってこれないんだぞ?」


 今日の空はシュテルンとしてあの天と地が真っ青に染まっている何もない空間に帰ることになっている。

 現在アガペが一人で事務処理をしているが、環境が激変したこともあり作業が追い付いていないらしい。あの全国生中継でエイロネイアとの仕事は一区切りついたから、向こうが連絡があるまで空も本業に専念する必要があった。

 シトラ、エン、イリーナの三名もついてくると知ったのは今朝のことだった。


「アタシの家族はそっちにいるんでしょ? なら行かない理由はないわ」

「ウチも家族と離れられるしなあ。あの人たちがシュテルンの意見を聞くとは思えへんし」

「ん」

”戦わないのなら居場所がない”


 三人はどうやらこの世界に未練はないらしい。一応生まれ育った世界なんだし、もう少し躊躇ってもいいのではないだろうか。二度と自分の生まれ育った世界に戻れない空が言えたことではないが。


「そういえば全員複雑な事情があるんだったっけ」

「空ほどじゃないわよ」

「せやな」

「ん」

「だよなあ。シュテルンの総体とエイロネイアの栄誉顧問を同時にするなんて思わなかったぜ」


 総体である空は当然シュテルンのトップ権力者だ。だが、今の空はかつての敵対組織に意見を述べる立場も獲得していた。


「兄さんに感謝やな。利用価値があるなんてもっともらしい理由を思いついて」

「んーん」

”多分ずっと前から考えていた”


 司令官代理から正式に司令官へと昇格したスイの話によると、人類救済組織となったエイロネイアだが、同じ信念のもとで活動していたシュテルンからアドバイスを貰ったほうが何かと都合がよくなるそうだ。まあ、改善の方法が正しいかどうかを聞ける相手がいれば気が楽なのは間違いない。

 会話の際に握手したことでスイの感情を読んだが、彼は妹たちを悲しませないためにあれこれと裏で手を回していたらしい。貸し一つと言われたから、どんな要求をされるのか想像するだけで今から怖い。


「どっちでもいいわよ、そんなこと」

「せやせや。ウチらにはもっと大事なことがあったんや」


 シトラが一言で切り捨てて、エンも同意しているのかうんうんと頷いている。


「大事なこと? それは俺が手伝えるようなことか?」

「もちろんや。むしろ空やないと解決でけへんで」


 空が首を傾げていると、エンはいたずらっ子のような楽しそうな笑顔になる。

 なんだか嫌な予感がした。


「両手どころか三つも花があるわけやけど、空はどれを選ぶん?」

「はっ?」


 オーケー。何を言っているかさっぱりだぜ。

 空は嫌な予感が的中した、聞くんじゃなかったと後悔しながら、三人の拘束をちゃっかり抜け出した。


「だーかーらー、ウチら三人の中で誰を選ぶん? ウチも空が大好きやねんけど」

「ん」

「えっ? 嘘だろマジで今決めないと駄目か?」


 エンは相変わらずの茶化すような笑みを浮かべているし、イリーナもいつも通り表情筋は微動だにしていない。

 だが、空の共感覚によると二人は本気で返事を待っているらしい。


「当然よ。今すぐ結論を出しなさい」

「シトラまで、というか何怖がってるんだよ」


 シトラに触れたから、彼女の瞳に恐怖の色が浮かんでいるのはすぐに見破れた。


「怖がってないですぅー! 空のくせに!」

「おっと危ねえ!」


 シトラが照れ隠しに強烈なビンタをお見舞いしようとするが、こっそり自由を勝ち取っていた空は一歩下がって彼女の一撃を回避する。

 そして全力で逃走した。


「あっ待ちいな」

「誰が待つかよ! どの選択肢を選んでもバッドエンド確定じゃねえか!」


 シトラを選べば照れ隠しの一撃とエンたちの嫉妬を一身に受ける。そしてまた怒ったシトラにコテンパンにされるだろう。他の選択肢なんてもってのほかだ。答えた時点でコテンパンにやられる未来は避けられない。


「このヘタレ!」

「んっ!」

「何とでも言え!」


 シトラとイリーナの怒りを空は背中で受け止めた。




 ゲームクリアの報酬が異世界転生なんて聞いてない。苦労もしたし苦悩もした。辛いこともたくさんあった。


 ――でも。

 今思い出してみると、それはそれで悪いものではなかった。

 だって三人に出会えたのだから。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


これで『ゲームクリアの報酬が異世界転生なんて聞いてない!』は完結となります。


また別の話でお会いしましょう。

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