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上等!

『来たか三人とも』


 通信が入ると同時に、紅龍、蒼龍、黄龍が展開している前方の空間に歪みが生じた。

 歪んだ空間の中から姿を現したのは、黒く巨大な機体。なぜ飛んでいるのか疑いたくなるような禍々しい機体には当然通信の主である空が乗っている。


「通信を許した覚えはないわ」

『シナスタジアシステムは共感覚があれば誰でもできる。強力なら割り込みぐらいできるんだよ』

『それは知らなんだな。今までシュテルンで使うヤツおらんかったし』

『ん』


 イリーナならできそうなものだが、今までシナスタジアシステムを使うシュテルンがいなかったためにできるのかどうか確証がない。

 すべて終わったら色々と実験と化してみるのも楽しそうだ。シトラも自分の相棒の技術については知らない部分のほうが多いから、全部を解明しようとしたらさぞ時間がかかるだろう。


『さてと、始めようか』


 巨大機の後部ハッチが開く。


「エン!」

『すまん遅れた! 予備動作がほとんどあらへん!』


 シトラは攻撃に特化したエンの名前を呼ぶが、どうやら攻撃チャンスが一つ失われたらしい。責めはしない。シトラもほとんど反応できなかった。


『わざわざ隙を晒すわけないだろ』


 巨体の割に黄龍と同じかそれ以上の速度で攪乱のために動き始める。

 生意気な。その程度の回避行動で逃げ切れると思っているのだろうか。


「イリーナ!」

『ん』


 掛け声一つでシトラの意図を正確に把握したイリーナが的確にコクピット目掛け機銃を撃ちつけていく。

 彼女の共感覚は強力で、見ただけで相手の感情を読むことができる。そこから応用すれば、相手の動きの先読みだって不可能じゃない。


『チッ。驚かせやがって』


 空は舌打ちして回避のパターンを増やしてイリーナの機銃から逃れ始めた。先読みしても機体の性能差で無理やり避けている。スマートではないが確実な手段だ。

 コクピットなら装甲も薄いかと思ったが、残念ながらその期待は甘かったらしい。チラリと見た限りでは傷一つ付いていなかった。


『ほらほら! 構ってくれへんと拗ねるで!』


 空がイリーナの猛攻をしのいでいる間に、エンは超火力で小型の戦闘機を落としていく。いくら高性能でもミサイルの一撃には耐えられないらしい。無数には無数を使うことで数はドンドンと減っていく。

 攻撃手段を一つずつ潰していくのは大事だ。いくら高性能でも武装の数は無限ではない。


『なるほど。それがお前らの作戦か』


 空が三人の目的に気付いたのか忌々しげに呟く。

 気付かれたのなら隠す必要はない。


「エンはそのまま小さいのを落として気を引いて! イリーナはその隙に攻撃を! 狙うのはエンジンと翼よ!」

『了解!』

『ん!』


 シトラは指示を出しながら、自分は二人のフォローに専念する。

 基本的には蒼龍が撃ちこぼした小型戦闘機を墜としていき、隙があれば空の機体を攻撃する。


『困ったな。パターン以外の動きをされると対策を練り直さないといけなくなる』


 空はイリーナにだけ集中することもできず、エンを妨害することもできず後手に回っていた。


「今がチャンスよ! 徹底的に叩きましょ!」

『分かっとうよ!』

『んっ』


 シトラが檄を飛ばすとエンとイリーナの攻撃はますます激化していった。

 二人がシトラにはない長所で存分に暴れるのは初めて見た。スイの訓練方針は正しかったようだ。二人とも生き生きしているように感じる。


『なるほど。シトラを後方に回して指揮に特化させるか。優秀な軍略家が本領発揮すると何倍も厄介だ』

『巨大機の後方より反応!』

『先に落としてしまおう』


 不穏な通信が入ってきて、シトラは反射的に操縦桿を力いっぱい引き寄せた。


「くっ!」


 見えない距離からレーザーが飛んできた。操縦桿を触らなければ間違いなく全弾食らっていた。

 目視どころかレーダーにも攻撃してきた相手は映っていない。どんな精度をしてるんだまったく。


「上等! エン、反応は!?」

『三百! なんて精度や。ウチのミサイルの倍は射程が長いで!』


 三人の中で一番レーダーの感知範囲が広いエンに聞いて正解だった。でも正直聞かなかったほうがよかったかもとちょっと後悔した。

 射撃精度が優れているということはそれだけシュテルンの技術力が高いということだ。地力の差を見せつけられたような気がした。


「了解! イリーナ、弱点は見つかった!?」

『んーん』

「じゃあ野暮な羽虫を落として!」

『ん』


 黄龍が黄色い閃光となって、遠くからレーザー攻撃を行った相手を落としに向かった。

 現状三機の中で一番速度が出るのはイリーナの機体だ。そしてエンの射程範囲外である以上、イリーナに頼るしかない。


『これで鬱陶しいのはいなくなった』

「アタシたちなら余裕ってわけ? 舐めてくれるわね」

『舐める? 正当な評価のつもりだが?』


 空中で、しかも音と同等かそれ以上の速さで戦闘を繰り広げているというのに、ガコンという重い音がはっきり聞こえた。

 シトラが視界の端で捉えたのは機体先端部が二つに割れ、中から巨大な砲門を出現させている機体の姿。エイロネイアのパイロットたちを呑みこんだ悪魔の兵装を構えている姿だ。


『超振型強制転送射出装置ウェルカムトウマイワールドスタンバイ』

「エン狙える!?」

『無理や! 空の攻撃が激しゅうて手が離せへん! 違うときに責めてほしかったで』


 エンは結構余裕なのかもしれない。


「ならアタシがって言いたいけど、まだイリーナは落としきれていないし」


 シトラを狙って、まだ不可視のレーザー攻撃は続いている。直感と経験で避け続けているが回避に専念しなければいつ直撃してもおかしくない。故に大きな隙を晒しているのに攻撃できる状態ではなかった。


『お前らがどれだけ回避に専念しようと、まとめて薙ぎ払ってやるよ』

『んーん』


 空の不穏な通信を否定するように黄色い流星が現れる。


「イリーナ!? どうして戻ってきたの!」


 黄龍はスピードを一切緩めず一直線に空の機体へと飛び――


『ん』

”もちろんこうするため”


 空の機体に体当たりして大爆発を起こした。


『何!?』

「『イリーナ!?」』


 自爆すると思っていなかった空は驚き、実戦で自爆を実行したイリーナにシトラとエンは悲鳴をあげる。


『ん』

”大丈夫”


 彼女から通信が入り、白いパラシュートが視界に入った。

 どうやら自爆の直前で脱出していたようだ。通信しているのは、携帯型に小型化されたシナスタジアシステムを使っているからだろう。


「脱出したの? よかった」

『ん』

”安心してないで聞いて”


 シトラが安堵の息を漏らしていると、イリーナからお叱りの通信が届いた。


『ん』

”あの飛行船の装甲は戦闘機をぶつければ落とせる”

『なんやて? 自爆せいっちゅーことか?』

『ん』

”勝つためにはそれしかない”


 確かに自爆なら空に勝てるだろう。

 現にイリーナに砲門を潰された空の機体は黒煙を上げている。砲台も片付けられなくなったのか出したままだ。

 イリーナの言う通り、勝機はある。


「……分かったわ。勝つためなら」


 シトラは苦い顔でイリーナの意見を聞き入れた。

 たった今彼女は勝利への道を示した。空という強敵が相手なのだから、勝ちを躊躇わないほうがいい。空の機体の様子からして、後一機自爆すれば彼の機体は落ちるだろう。

 だが自爆するということは当然ながら機体を失うということだ。空と同じ機体がもう一機出てきたらどうする。そうでなくても今世界中でシュテルンが侵攻を始めている。一機でも救援は多いほうがいいはずだ。

 機体を失うことには、どうしても抵抗を感じてしまう。


『ちょい待ちシトラ』

「何?」

『ウチが行く。火薬の量は蒼龍の方が多いんやからな』


 それは確かにそうだが、後のことを考えれば最大火力を誇る蒼龍を失うのは痛すぎる。


『後は任せたで』


 シトラが止めるよりも早く、蒼龍は巨大敵機のエンジン部へと突っ込んだ。

 大爆発が起き、紅龍が衝撃で揺れる。


「エン! よかった、無事みたい」


 あまりの衝撃に生身では耐えられないのではと心配になったが、視界端に映った白のパラシュートに心底安堵した。

 黄龍、蒼龍という大きすぎる損失と引き換えに、エイロネイアは勝利した。後は残党処理に行くだけだ。

 シトラは操縦桿を握った。もちろん方向転換し世界中で戦っている仲間の手助けをするためだ。


『アガペはここまで予想していたっことか』


 聞こえてきた通信に、シトラの体は硬直した。

 視線だけを前方で小さな爆発を続けている黒い機体へと向ける。するとその瞬間を狙っていたかのように、爆発から逃れようと飛び出す見慣れた黒い機体の姿があった。


「轟龍……!」

『さあ最終ラウンドと行こうぜ最強』


 空はまだ負けていない。

 シュテルンとエイロネイア。どちらが最強なのか雌雄を決する時が来た。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は明日午前8時更新予定です。

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