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戯言のために

 空を囲うようにしてエイロネイアの従業員が銃を構える。

 ほとんど素人のようだ。いくら逃がさないためとはいえ、円形に広がったら同士討ちになると思うんだが。スイは気にならないのだろうか。


「おいおい随分と少ないな。敵の頭首を相手にしてるんだ。もっと気合い入れろよ」


 兵士の数は十人ほど。あまりに長話をしていたから位置がバレたんだろう。急いで準備したのは何となくわかるがそれにしたって少なすぎる。


「分かってるくせに言ってくれるな」

「ああそうか。俺がまとめて潰したんだっけ。そりゃあ悪いことをしたなあ」


 銃を持った人間の練度も低くて当然か。戦える人間のほとんどは既に救済したのだから、訓練を受けていない人間ばかりになるのも仕方がない。


「コイツ!」

「待つんだな。恐らく何らかの対策を取っているからな。下手に刺激はしないことだな」


 怒りに任せて引き金を引こうとした一般人を、スイは一言で押しとめる。

 さすがのカリスマだ。分けてほしいぐらいである。


「当然だろ。丸腰で敵の本拠地に乗り込むかっての」


 まあ武装といってもこっちには厨二感満載の黒コートにスタンガンぐらいしかないわけだが。銃撃戦になったら間違いなく無傷では済まないんだが。

 空は内心で流れる滝のような冷や汗をニヒルな笑みで覆い隠した。男は度胸だ。


「なぜ戻ってきたのかな?」

「答えてもいいが、その前にコイツを何とかしてくれないか? レディをいつまでも硬い床で寝させるわけにもいかないだろ?」


 空は足元で気を失ったまま倒れているシトラを指差した。

 イリーナのときみたいに空が運んでもいいのだが、周りで銃を構えている連中とスイは許してくれないだろう。


「何か企んでいるのかな?」

「んな小さいことするかよ。ほら、この通り」


 空は両手を頭の上に置いて、手出ししませんアピールをする。

 アピールしているにもかかわらず、空を取り囲んでいる連中はスイを含め警戒を緩めなかった。あわよくばダッシュで逃走と企んでいただけに残念でならない。


「どうしますか?」


 取り囲んでいる連中の内、もっともスイに近い位置にいる人間が空を睨んだまま口を開く、


「言う通りにするんだな。シトラも大事な戦力だからな」

「そーそー。おざなりな扱いはやめた方がいいと思うぜ」

「君は黙っておいてほしいんだな」

「へーい」


 スイに怒られた空はニヤニヤしながら、内心ではビクビクしながら指示を仰いだ人間から目を逸らす。

 空を睨みつけたまますり足で近付く人間は、手が届く位置まで接近するとシトラの足を思い切り引っ張った。


「へぶっ」


 乱暴な扱いをされたシトラが気絶したまま変な声を出した。


「もっと大切に扱ってやれよ。モテねえぞ?」

「喋るなと言わなかったかな?」


 肌を刺すようなプレッシャーを叩き付けられるが、空は軽薄な笑みを浮かべたままだ。信号機との対戦のおかげでプレッシャーには耐性がある。


「怖いね。前会ったときとは別人みたいだ」

「銃口を前にして減らず口を叩ける君に言われてもな」


 内心では震え上がっているぞ。


「俺がこの船に来た理由だったな? 単純な話だよ」


 シトラがしっかりと運ばれていったのを確認して、空は頭の上に置いておいた腕を下ろす。


「降伏しろ。お前らに勝ち目はない」


 空に向けられている銃口がわずかに揺れた。


「優しいんだな。わざわざそんな戯言のために首を晒してくれるなんてな」


 空はスイに触れてはいない。だから彼の感情を正確に図れない。

 だがそれでもスイの期限が悪くなったのは何となく理解できた。


「お前らの主要戦力のほとんどは壊滅した。俺も一時期はエイロネイア側だったからな。戦える人材があとどれぐらいかは把握しているつもりだ」


 戦える人間はあと数人。彼女たちがどれだけ努力しようと、空に勝てる保証はない。

 正直言って、エイロネイアがまだ存在していることが不思議でならなかった。創設者はいない戦える人間もいない。壊滅したという状況だ。まだ諦めていないのはただ意固地になっているだけだと空は考えていた。

 希望があるわけでもないだろうに。


「答えはノーだな」


 スイは空の予想通りの答えを出した。


「まだ日本を守っていた三人が残っているからな。勝機はまだあるな」

「信号機の面々か。話は聞いてるだろ?」


 シトラに話はした。司令官代理であるスイに報告が行っていない可能性は低い。


「俺はあの三人を単機で倒せる。切り札が通用すると思うなよ」


 空の実力を知らない人間でもシトラたちの強さは知っているからだろう。

 銃を持っている人間たちが目に見えてざわめきたつ。


「寄せ集め感満載だな。敵の前で動揺を露わにするなんて」

「狙っているくせに白々しいな。そして、だからどうしたのかな?」


 空が呆れていると、一人だけ空の実力を把握していたスイが力強く問いかけてきた。


「君はまだ彼女たちを甘く見ているな。彼女たちがなぜ三人で一つの国を任されていたのか、その理由を知らないからな」

「――ほぅ?」


 信号機の能力を本人たちよりも知っている空は、片眉を上げて興味を示す。


「彼女たちの真の強さはその成長速度にあるんだな。一か月前の三人と今の三人が同じだとは思わないことだな」

「戦場に出ていないからな。腕が鈍っているとか?」


 茶化してみるが、誰も反応してくれなかった。


「彼女たちは必ず勝つな。三人の勝利の女神がボクたちに微笑んでるからな」

「面白い。なら明日を楽しみにしていよう」


 空は不敵に、それこそゲームのラスボスのように笑う。


「シュテルンは明日、最後の攻勢に出る。今まで小出しにしていた全勢力をもって文明を滅ぼそう」


 空自らエイロネイアに来た目的は、この宣言のためだ。

 人類にとって最後の一日を突きつけるために、危険を犯してまで空はステラに現れた。


「もちろん俺も出る」

「ならボクたちのやることは一つだな」


 スイも口角を吊り上げる。女性と見間違うほどの中性的な顔が空と同じ表情になる。


「迎え撃つから覚悟するんだな」

「ああ、せいぜい抵抗しろ」


 用事が済んだ空は空間に歪みを作り、自らその中へ飛び込んだ。

 後に残るは歴戦の猛者と銃を持っただけの一般人だけだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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