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轟龍

「お疲れ様です」


 見慣れた幻想的な空間で、見慣れたら幻想的ではない気もするが、アガペが頭を下ろした。


「出迎えご苦労。っていうかいつまで主従ごっこをするつもりだ?」


 空が彼女の正体に気付いていると知っている。復讐の仇相手にお辞儀をするのは精神衛生上よくないのではないだろうか。


「いつまでも何も、私は空様の専属メイドです。お気に召しませんか?」

「そうじゃないっていつも助かってるよ」

「それで、いかがでしたか?」


 どうやらアガペはあまりこの話題に触れられたくないようだ。強引に話を変えられた。


「改良された轟龍のことか?」

「今更ですが新たな名前が必要かもしれませんね」

「必要ないよ。見た目は変わってもあれは轟龍だ」


 あの機体のサイズが膨れ上がったのは轟龍に色々外部からくっつけたからだ。それでメルセデスと同じデザインに落ち着かせるのだから、改造した人物はよほどメルセデスが大好きだったのだろう。


「かしこまりました。出過ぎた真似をお許しください」

「妙に距離を感じるなぁ」


 主従を謳ったかと思えば今度は一歩引いて謝罪する。

 無理しているなら本当に主従ごっこなんてしなくていいからな。面倒だけど総体として働くし。面倒だけど。

 恐らく言っても頑なに拒むだろうから、空は聞かれたことだけに答えることにした。


「使い勝手は文句なしだ。轟龍を元にしているだけあってよく馴染む」

「それは安心しました。予定変更したかいがあるというもの」

「だけど今のままじゃダメだな。改善は可能なのか?」


 アガペの瞳に、少しだけ興味の色が浮かび上がる。


「善処します。具体的にはどのように」

「仕方がない部分はあるが、やっぱり動きが鈍いな。装甲に頼りすぎている点も気に入らない。雑魚ならまだしも、信号機相手に通用するとは思えない」


 空は攻略者だ。自他共に認める最高のパイロットだ。

 だからこそ言えるが、今の轟龍では信号機に敵わない。

 攻撃が通らないぐらいで負けるような相手なら、総体はわざわざ空を育て上げなかった。彼女たちは絶対に対抗策を打ち立てるはずだ。


「ただでさえ今日の出撃で手の内は見せてしまったわけだしな」


 空が出たのは改良型轟龍の試運転と人類側へのデモンストレーションのためだ。

 お前らがどれだけ抵抗しようが勝てない敵が出てきたぞ、大人しく降伏しろ。

 エイロネイアを通して、圧倒的な戦力を見せつけられた一般人に絶望を叩きつけるためだ。

 だが、その代償は手の内を晒すという大きなものだった。


「かしこまりました。では装甲を若干薄くしその分を機動力に回します」

「助かる。どれぐらいかかる?」

「一週間ほどかと」

「分かった。ああそれと、そっちはどうだった?」


 一週間で改良できるのか。元の世界だともっとかかったような気がするんだが、どれだけアガペは優秀なのだろう。

 彼女がいてくれて助かる。これは本心だ。ブラック企業的理念で言えば、彼女がどんな気持ちであろうとなくてはならない。

 ブラック企業みたいだから空は嫌なのだが。


「回収率は百パーセントです。多数のガラクタを同時に回収する点は修正しなければならないと思いますが」


 戦闘を一撃で終結させた超巨大砲塔からの特大レーザー。

 シュテルンの目的は人類の救済だ。もちろん、殺したわけではない。

 レーザーに当たった人間を強制転移させるための装置だ。つまり装置さえあれば片っ端からレーザーを当てて人間を移すことができる。

 ただこちらはシュテルンの超技術があっても改良は簡単ではないらしい。転移させる対象を選べない以上、むやみやたらと撃ちまくるわけにもいかない。


「全員の生存を確認しました。既に移住の手続きへと進んでいます」

「実験は成功か」

「はい。しかし考えましたね。敵性パイロットの救済を目的にした兵器なんて」


 いやいやこっちはアイデアしか渡していないのに一か月で運用可能レベルまで作り上げたシュテルンの方が凄いだろう。

 改良型轟龍に搭載された奥の手は、シュテルンの総体になった直後に空が考えたものだった。


「簡単な話だ。邪魔をするのならその障害を先に排除すればいい。目的の延長線上に過ぎないんだから、先に回収してしまえば楽になるだろ?」


 円盤だと逃げられるし墜とされる。

 ならば攻撃手段として転移させられたらどうだろうか。どうせ遅かれ早かれ転移させなければならないのだ。邪魔ものを先に移してしまえば、抵抗も物理的に減っていくだろう。


「それにエイロネイアは今戦力を集中させているわけだしな」


 シュテルンが計画し健太郎が実行して、エイロネイアのほとんどは日本に集結している。

 今回の出撃でパイロットのほとんどを奪っただろう。もしかすると、後四機しか残っていないかもしれない。


「もう誰一人として犠牲にはしない。俺が総体オレになったときに決めたんだ」


 空の言葉に、アガペは一瞬だけ黙りこんだ。


「それでは空様の意思に沿った調整をしますので、失礼します」

「ああ、任せたよ」


 空が告げるよりも早くアガペは音もなく消えた。この空間の外に出たのだろう。どこに行ったのかは空もよく分からない。


 便利すぎるよなぁ。ここは。

 空はもうこの世界から抜け出せないのだろうと自覚して、一人苦笑した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

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