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絶望を

『イヤッハー! ざまあみやがれェ!』


 ゴンザレフは慣れない異国の地で雄たけびを上げた。

 数だけが取り柄の円盤たちを殲滅し終わった。一日に一度しか出てこないから今日の仕事はおしまいだ。帰ってビールが飲めるぜヒャッホウ。

 楽しそうで何よりだ。通信から見えた色に、空は口角が吊り上がるのを止められなかった。

 空がスロットルレバーを倒すと空間に歪みが生じた。


『な、なんだよあのプレッシャーは!』


 新しい空の機体、超巨大轟龍の突然の登場に有象無象のエイロネイアパイロットが目に見えて動揺していた。

 そういえば日本勢、シトラたち信号機の面々や空以外は轟龍を見たことがないはずだ。動揺するのも仕方がない。練度が足りないとがっかりする必要もないだろう。


『落ち着けビビるな! 図体がデカいだけの的だ!』


 ほら、落ち着きを取り戻した戦闘機たちが一斉にミサイルを撃ってきたし。

 無数のミサイルは命中し、巨大轟龍を爆炎と轟音と黒煙が包み込む。

 最低限の飛行ができる程度までスピードを落としていたから避けられなかった。まあ避けるまでもなかったけど。

 空は視界をふさぐ鬱陶しい黒煙から逃れるため、操縦桿をわずかに動かす。

 黒煙から姿を現した轟龍には傷一つついていなかった。


『無傷だと!?』

「当然だろ。シュテルンの最終戦力なのだから」


 通信から聞こえてくる声に、空はオフラインで言い返した。

 出撃してから初めて気付いたが今回の戦場は海上近くだったらしい。レーダーにはいくつもの空母が映っており中には見慣れたものがあった。


「ああ、そこにいるのか。よく見とけよ」


 海面に広がっている空母の一つから、空がよく知っている四人の気配を感じ取った。

 どうやらエースパイロットたちは高みの見物と決め込んでいるらしい。


「これがお前らが倒すべきラスボスだ」


 通信のスイッチはオフのままだ。普通に考えれば彼女たちに聞こえているわけがないし、空はとても痛い奴みたいになっている。

 だが多分、確証はないが四人には届いただろう。というか届いていないと困る。


『クソクソクソッ! 落ちろよ!!』


 空がよそ見をしている間も有象無象からの攻撃は続いていた。しかし決定打は一つとしてなく、無駄に弾を消費しているだけだ。


「雑音がよく聞こえるようになったのは困りものだな」


 共感覚を手に入れたので轟龍にもシナスタジアシステムを搭載している。有象無象の通信がダダ漏れなのは、まさかシュテルンが通信を傍受しているとは思っていないからだろう。確かに半自動で動く円盤たちは聞こえてきた通信によって行動パターンを変えるなんて高度な処理はできない。だが空は違う。

 空はため息を吐いてから操縦桿を握り締めた。うるさいので黙らせることにした。


『おい動き出したぞ気を付けろ!』

『知るかよ! 有効打を与えないと勝ち目がない!』

「有効打? おいおい、いくら何でも練度が低すぎないか?」


 空は操縦桿に新たに取り付けられたスイッチを押す。

 機体後方のハッチが開き、蒼龍のように小さな流線型の物体を射出する。


「敵との実力差ぐらい読めよ畜生ども」


 流線型の物体が有象無象が操縦している戦闘機のコクピットに張り付く。


『うわっうわぁー!!』

『メーデーメーデー! 敵のミサイルが――――――』


 通信越しに、かなりの数の叫び声が響き渡った。


『いやミサイルじゃない! あれは小型の戦闘機だ!』

「戦闘機というか自立戦闘用ビットだ。ほらどうした? 俺は動かないぞ」


 空が射出したのは小型の円盤に近しいものだ。自動で人間を収穫し救済していく。

 円盤との違いはサイズと容量だ。小型化することで撃墜を避けやすくしたが、代償として人一人しか運べなくなってしまった。円盤一機で十人は運べるから、容量の差はかなり大きい。


『落ち着け! あの小さいのは大型機から出てきた! なら本体を先に落とせば――』

『どうやって落とすんだよ!! 歯が立たないんだぞ!?』

『どこかに弱点があるはずだ! 全方位から攻撃すれば必ず道は開ける』

「おうおうたくましいもんだ。一瞬で優位性が奪われても余裕ってか」


 空にとっては有象無象で名前を覚える価値もない連中だとしても、そこは歴戦を潜り抜けてきた猛者たちだ。劣勢と混乱の渦に叩き落とされても希望を失っておらず、まだ挽回できると思っている。実に微笑ましい。


「ならもう一つ絶望を見せてやるよ――準備は?」

『受け入れ態勢は既に。いつでもどうぞ』

「頼もしい限りだ」


 アガペとの通信を満足した表情で切り、空は操縦桿横に新しく取り付けられたスイッチを押した。

 がしゃんというロマンあふれる音が鳴り、巨大轟龍の機体前方が二つに割れる。そして機体内部から姿を現したのは、戦闘機の全長を上回る口径の砲門だった。


『――――――えっ』

「超振型強制転送射出装置ウェルカムトウマイワールドスタンバイ」


 有象無象の困惑を無視して、空は呟く。

 超巨大砲に青い光が集まっていく。


発射ファイア


 空が呟いて引き金を引くと、青い光が有象無象パイロットたちをまとめて薙ぎ払った。


「……ま、こんなものか」


 光りが消え、比喩ではなくすべてが消滅させるという戦果に、空はつまらなそうに鼻を鳴らした。


「じゃあ今日は帰るよ。次を楽しみにしてるぜ信号機」


 多分これも届くだろう。

 空は虚空に空間の歪みを作り、最強のシュテルンは歪みの奥へと消えていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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