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にいちゃん

『シュテルンを滅ぼすための力を貸して下さい』

「……」


 テレビから流れる司令官代理の姿を、シトラは冷めた目で眺めていた。

 健太郎の葬式で行われたスピーチを見るのは何度目になるだろう。連日連夜映像が使われているから、もう見飽きてしまった。創設者の後を継いだ女性と見間違うほどの若き美少年はそれだけ話題性があるのだろう。

 シトラにとっての司令官は一人だけであり、それは緑髪の少年ではない。


「どこ行ったのよ空」


 彼女は今町中を一人で歩いていた。

 健太郎を殺したのは空で間違いないようだ。拳銃に彼ら二人の指紋がベッタリとついていたようだ。エイロネイアの見解では、空が健太郎の拳銃を奪い発砲したとなっている。

 エイロネイアとシトラは空の捜索を開始した。彼には聞きたい話がたくさんある。

 だが、空の痕跡は見つかっていない。健太郎が死んでから一か月が経とうとしていた。


「ありがとーっ」


 小さな女の子の声が聞こえたほうへ反射的に視線を向ける。身の丈ほどのぬいぐるみを両手で抱える女の子がゲームセンターから出てきた。誰かに取ってもらったのか、喜びの表情に感謝の念が混ざっている。


「そういえばアタシも空に――」


 彼と初めて遊んだときもUFOキャッチャーで景品を取ってもらったっけ。今も枕元に飾られているぬいぐるみを帰ったら撫で回してやろう。


「おう。また困ったら兄ちゃんに言いな」

「――――はっ?」


 そんな誰にも言えない決意は、女の子を見送りに出てきた黒髪の少年によって吹き飛ばされた。


「バイバーイ!」

「ばいばーい――さてと、他は何が欲しいんだ?」


 取り囲むように周りには子供たちがいて、子供たちに引っ張られる形で店内に戻っていく。

 予想外の再会に目を丸くしていたシトラは、彼を追って慌ててゲームセンターに入った。


「にいちゃんにいちゃん僕これが欲しい!」

「おっゲーム機か。わりかし難しいんだけどなぁ」

「……とれないの?」

「兄ちゃんに任せろ」


 ショボンとした顔の子供に心強い微笑みを返し、彼は子供から受け取った銀色のコイン三枚、恐らく現金三百円、をUFOキャッチャーに投入した。


「こうやって、こうやって、こうっと」


 ガチャコン。

 子供たちの期待と不安が入り混じった視線のプレッシャーにも負けず、彼は一発で最新ゲーム機を仕留めてみせた。


「わぁーっありがとーっ」

「お安い御用さ。んじゃあそろそろ帰るかな」

「えぇーっ!」


 子供たちの大合唱に、彼は苦笑を浮かべる。

 このまま逃がしてなるものかとシトラは彼の死角を利用して近付いた。


「気が向いたらまた手伝ってあげるって」

「そんなこと言わないでよ」

「悪いな。またの、機会に……」


 背後から声をかけると、ちゃんと顔を見て接しようと心掛けているのか彼は振り向きながら答え、そして固まった。


「久しぶり空。随分と楽しそうに遊んでるじゃない」

「シトラ、どうしてここに」


 シトラとの再会は想定外だったようで、彼、甲破空の顔は引きつっている。


「なになにー? この人おにいちゃんの彼女ー?」

「わぁー、きれいな人ー!」

「かかか、彼女!?」


 突然の第三者、それもゲームがとても上手いおにいちゃんの知り合いで十人中十五人が振り返る美貌の持ち主、の登場に子供たちから歓声が上がった。

 シトラも子供の誤解にまんざらでもないようで、顔を真っ赤にして茹で上がる。


「あっあはは見つかっちまったな。悪いな彼女が来たから行かないと」

「デートぉー?」

「ませてんなー。ほら、散った散った!」


 空は子供の反応に苦笑して、手を二回叩いた。

 子供たちは楽しそうに笑いながらわぁーっと走っていく。ゲームセンターで走るのはマナー違反だが、空もシトラも咎めようとしなかった。


「じゃ、俺たちも場所移そうぜ」


 空の提案にシトラは赤い顔で頷き、二人はゲームセンターから出て行った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

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