一匹残らず
すべてを奪われた。
家族を奪われた。幸せを奪われた。仲間を奪われた。恩師を奪われた。
そして、アタシの大切な人も奪われた。
アタシはすべてを奪われた。
だから次は、アタシが奪う番だ。
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緑の髪の少年がマイクを取って一礼する。
彼の後ろには白い菊の花が並んでおり、健太郎の大きな写真が飾られている。少年の前には黒スーツの人たちがずらりと並び、全員が沈痛な面持ちになっている。
「皆さま。お忙しいなか来ていただいたこと、エイロネイアを代表してお礼申し上げます」
そしてスイはもう一度礼をした。
「馬渕健太郎はエイロネイア総司令官として私たちを導いてくれました」
手紙を広げて、スイは読み上げていく。
「そして、志半ばで倒れました」
感情はほとんど乗っていない棒読み。だがそれは、溢れる感情を抑えているがゆえだ。
「シュテルンは未だ落ちていません。我らの空を跋扈し、同胞を狩っている」
上を見渡して、スイは静かに告げる。
「私は、スイ・ジュンシンは、司令官の意思を継ぎたい」
何人かが驚きの表情を浮かべるが、反論する者は誰もいなかった。
「エイロネイアを強固な組織にし、どんな害虫にも揺るがないようにしたい」
その野望は、人類なら誰もが抱いているものだった。
「シュテルンを一匹残らずこの世から滅ぼす」
その宣告は、人類なら誰もが望むものだった。
「この場にいる皆さまのほとんどが、私と同じ思いを抱いているはず」
スイの言葉の通り、健太郎の葬式におとずれていた人間たちは頷く。
「どうかボクに、シュテルンを滅ぼすための力を貸してください」
頭を下げるスイは、その場にいる全員に受け入れられた。
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次回は今日午後12時更新予定です。