サヨナラ
「探したじゃない。どこ行ってたのよ」
「……」
甲板に向かう途中でシトラに遭遇したがスルーして、空は早足で歩いていた。向かう先は甲板。空の敵しかいないこの船から逃れるため一刻を争っていた。
「ねぇちょっと? 無視しないでくれる?」
「悪いシトラ。また今度にしてくれ」
無視されたからか額に青筋を浮かべながら追いかけてくるシトラ。口を開かないようにしていた空だったが、仕方ないと諦めて彼女を拒絶する。
「はぁっ? ってちょっと今は夜中よ。どうして轟龍が」
「答えられない」
空と一緒に甲板に出たシトラが、信じられないとばかりに足を止めた。
なるほど健太郎はこの事態を予想していたようだ。パイロットさえ揃えばいつでも飛び立てる状態の轟龍がそれを物語っている。
戦闘機が夜間飛行に優れていないことは知っているはずだろうに。
「――待ちなさい」
シトラの命令通り、空は足を止めた。
「これは命令よ甲破空。振り向きなさい」
「断ったら?」
「背中を撃つ」
銃を構える音がした。無視すれば本当に背後から撃たれるだろう。
仕方なく、本当に仕方なく空は、健太郎に駆け寄ったときについた血まみれの姿が見えるよう振り向いた。
「っ。何したのよ」
「答えられない」
「命令よ」
息を呑むシトラを、空は無表情で眺めていた。
「司令官を見てこい」
「なっまさか」
「話は済んだな」
想定外の言葉に動揺し、銃口を下ろすシトラ。
空はその隙を見逃さず、ヒラリと身軽に轟龍に乗り込んだ。
「待ちなさいよ空! アンタまさか本当に裏切――」
シトラの声は轟龍の奏でるエンジン音でかき消された。
『サヨナラだ』
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