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報告が遅れた

 夜分遅いこともあり、空はとりあえず仮眠室を覗くことにした。

 健太郎の生息地域は艦橋か自室同然に使っている仮眠室かのどちらかだ。そして今は夜遅く。さすがのハードワーカーも仮眠をとっていると判断した。

 念のため護身用に拳銃を持ってきたが、使う機会はないだろう。


「あっいたいた。健太ろ――」

「そんなの嘘ですっ!」


 仮眠室の開け放たれた扉から光が漏れている。十中八九健太郎がいるのだろうと思った空は陽気な声を出した。被せるように聞こえてきた声に脊髄反射で入り口近くの壁に張り付く。

 前にも同じようなことがあった気がする。そういえば声も似ているし、間違いなく勝気な彼女もいるのだろう。空は部屋に入らないほうがよさそうだ。

 壁に張り付いて中の会話を確認するなんてスパイのようだと、空は一人苦笑した。


「こんな笑えない冗談を言うわけないだろう」

「だって有り得ないじゃないですか! 空がシュテルンだなんて!」

「――っ!」


 とうとう行くところまで行ってしまった疑惑に、空は息をのんだ。


「有り得るとも。シトラも見たことがあるだろう? シュテルンの機体に乗っている人間を」

「それは、ありますけど」


 初陣で空を錯乱させた真実。シュテルンの中にも人間のパイロットがいて、空たちは立場上人殺しをしているという現実。

 シトラは割り切っているのか、尻すぼみに同意した。


「教授が裏切ったのも知っているだろう?」

「当然です」

「なら、空が教授と同じ裏切り者になっていないとどうして言い切れる?」


 シトラは反論できなかった。


「イリーナから報告があった。空とシュテルンの見分けがつかないそうだ。どうして報告が遅れたんだ?」

「それは、確証が不明だからです」


 シトラの理由は強情に絞り出されたもろいものだった。

 イリーナを問い詰めるべきではなかったか。空への疑惑が決定的になるチャンスを与えたのは、多分そのときしかないはず。

 空は自分の判断が間違いであったと痛感した。


「共感覚で判明したとのことだが? 君たちが命を預けている共感覚はその程度のものなのか?」

「そんなことは――」

「ならどうして報告が遅れた」


 言葉を被せて責める健太郎に、シトラは黙り込んでしまう。


「シトラ、仲間を大事に思う気持ちは確かに理解できる。俺もお前も一度失った身だ。ありがたみは痛感しているだろう」


 両肩に手を置き、健太郎は目を逸らそうとするシトラを真っ直ぐ見つめる。


「だが全員を救うことなどできない」


 無慈悲な言葉に、シトラの肩が小さく跳ねる。


「俺は司令官として、エイロネイアを率いる者として、最少の被害で最大の利益を生めるよう常に選び続けてきた」


 話を聞いているだけの空でも、健太郎の言葉には説得力と重みを感じた。

 健太郎はエイロネイアの戦力を増強するため、スイを筆頭に部下の何人かをネオン教授に提供した。他にも似たようなことをしているのだろう。健太郎は常に選び、エイロネイアを発展させてきた。


「お前もパイロットのリーダーを名乗るのなら切り捨てろ。空は殺さなければならない敵だ」


 空がシュテルンである以上、敵として対応しなければならない。つまりは抹殺だ。

 健太郎の判断を、殺される立場の空は合理的だと評価した。

 情のかけらを感じさせない決断。ウジウジと悩んでいた空にはとても真似できない。


「できません。まだ空がシュテルンだという確証はない」

「まだ言うか」

「本人から直接聞き出します。だからそれまで手は出さないでください」


 シトラはまくしたてるように言葉を並べて、仮眠室から走り去った。

 空は隠れていたとバレるとかなり焦ったが、走り去る彼女はまったく余裕がなかったらしく気付かれなかった。安堵したというか、悲しいというか。


「若いな。それに覚悟も見える」


 彼女の背中を眺めながら、健太郎は独り言を呟く。


「いるんだろ空」

「やっぱり気付かれてたか」


 なんとなくそんな気はしていたので、空は苦笑しながら仮眠室に入る。

 さあ、今度はシュテルン同士で話そうじゃないか。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は明日午前8時更新予定です。

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