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まだまだ子供

 深夜のシミュレーション室は、機械音だけが滞在していた。

 草木の眠る丑三つ時となると、さすがに人はいないようだ。今は緊迫した戦況ではないのも関係しているのかもしれない。いや、シトラたち三人だけが違うのであって、エイロネイアの一般兵はいつ来るか分からない最終決戦にやきもきしているとは思う。


「よく来てくれたな」


 夜中限定であるが一人になれる場所を新たに見つけた空は、入口から顔を覗かせるイリーナを笑顔で受け入れた。


「ん」


 彼女は不機嫌そうな顔になっている。いつも通りの真顔だが、空は彼女の気分を正確に読み取った。


「騙されたって、俺はそんなつもりはなかったぜ?」

「ん」

”物騒な内容の手紙だから警戒した”

「マルサンマルマル、シミュレーション室で待つ。どこが物騒だってんだ?」

「ん」

”新聞の切り抜きじゃなかったらね”

「まあ確かに、我ながら凝った出来だと思うよ」


 イリーナがふぅと小さく息を吐いた。

 彼女の手にあるのは、元いた世界のドラマで見た脅迫文のような手紙だ。新聞の切り貼りって結構面倒なのだと空は痛感した。共感覚対策に行ったが、もう二度としない。


「イリーナ。率直に言って、俺をどう思う?」

「ん?」

「とぼけるなよ。異変に気付いているんだろ?」


 首を傾げるイリーナに、空は冷めた視線で射抜く。

 イリーナの共感覚は見ただけで人の感情を読み取れる。言葉足らずでも、空が何を聞いているのかは理解できるはずだ。


「んー」

「言いにくいか?」

「……ん?」

”……それを聞いてどうするの?”


 言い淀むだけで空としては答えに等しいんだが、わざわざ言う必要もないだろう。せっかくだ、ちゃんとイリーナの口から聞きたい。


「答える理由がないって言いたいところだけど」

「ん」

”じゃあ私も答えない”

「だよな。フェアじゃないよな」


 分かっていた。空が聞くということは、空が話さなければならないのだと。

 イリーナだって盲目に慕ってくれてるわけではない。疑いもするし敵視だってする。ネオン教授みたいに共感覚そのものに干渉しなければ、イリーナは疑うことしかできないだろう。


「オレはお前の意見を聞きたい。聞いて、その後どうするのかは分からない。だけどきっと、イリーナなら俺の求める答えを出してくれると思った」

「ん?」

”シトラやエンは?”

「イリーナだから、最強の共感覚だから頼りたいんだ」


 真っ直ぐに彼女の赤い瞳を見つめた。

 本当ならイリーナにだって話はしたくない。だが、それだとオレが満足しない。

 シュテルンが持っていない視点だからこその意見が、イリーナにはあるはずだ。


「んーん」

「教えられないだって? なんでだよ」

「ん」

”何かしようと企んでいるから”


 イリーナがわずかに目元の筋肉を動かして、空に半眼を送る。


「やっぱり分かるか」

「ん」


 イリーナは一度頷いた。筒抜けらしい。

「でも、探り合いはまだまだだな」

「ん?」

「オレは、俺本人に言えないような状態になっている。それさえ分かれば決心がつくってことだ」


 正確に言うなら、引き返す道がまた一つ潰えたという気分だが。


「それに、俺の異変はオレが一番分かってる。大方オレがシュテルンに見えているんだろ?」

「……ん」

「ときどき、か」


 イリーナは言いにくそうに頷いた。

 シュテルンを受け入れてからだろう。一度は人間に戻れたが、ただ同期が遅れていたからだと思った方がいい。

 空は緩やかに、人間ではなくなっていく。


「ありがとな。結局教えてくれて」

「ん!?」

「まだまだ子供だな」


 ハッとしながら口元を押さえるイリーナに空は苦笑した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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