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「宇宙の眠り姫 ~後篇~」

◇◇ 宇宙の眠り姫 ~後篇~ ◇◇


 暗闇に波の音だけが聞こえてくる。今夜は新月なので星がきれいだ。

 痛む足を引きずって、ユカはいつもの場所へやって来た。そこは数メートルほどの砂浜が岩場に挟まれて、ちょっとした隠れ家のようになっている。ユカはそこをプライベートビーチと呼んでいた。

 初めてこの砂浜を見つけた時は、あらゆるゴミが吹きだまりのように打ち寄せられ悪臭も酷かった。だが、ひと目でここが気に入ったユカは痛む体で少しずつ少しずつゴミを取り除いていったのだ。カップめんの容器やコンビニ袋、空き缶、ペットボトル、海藻に魚の死骸など一ヶ月かけて処分した。その中でもいちばん厄介だったのが釣り糸だ。細いわりに丈夫で切れにくいため、ユカはそれにひっかかって何度もこけた。集めたゴミは、持参した指定のゴミ袋に入れてゴミ置き場に捨てることも怠らなかった。

 そうやっているうちに掃除そのものがユカにとっての神聖な儀式になり、ゴミがあろうが無かろうが掃き清めるそれは今でも続いている。

 ユカが初めて彼女と出会ったのは、今日のような月の出ていない夜だった。

 いつものように痛む脇腹を押えて砂浜にうずくまっていた。もしかしたら肋骨にヒビが入っているかも知れない。左ひざもズキズキと痛む。きっと玄関から走り出た時、転んだ拍子に花壇の植木鉢にぶつけたからだ。

 今夜はこのままここで夜を明かそう。帰ったら酷いめに遭うのはわかりっている。だって、まだいつもの半分しかユカを殴っていないのだから。

 真っ暗闇の中で波の音を聞きながら、ユカはシロを抱きしめて泣いた。シロは名前の通り白い犬のぬいぐるみだったが、今では汚れて灰色になっていた。シロのおなかにはファスナーが付いおり小物入れになっている。その中にはユカの宝物が入っていた。

「お母さん……」

 ユカはそこから一枚の写真を取り出すと、涙で濡れた頬に押しあてた。写真に写っている女性はユカの母親だが、その姿はまだ若くユカを産むずっと前のものだ。

「おかぁさぁぁん !」

 波の音に勇気づけられ、さっきより大きな声で呼んでみた。

 ちゃぷん─────……。

「だれ?」

 人の気配がしたのであたりを見まわしたが暗くてよくわからない。だが、ユカ以外の人間が近くにいることは確かだった。

「だかいるの ?」

 今度は静かに問いかけてみた。まだ相手が敵なのか味方なのかさえわかっていないのに、不思議とユカに恐怖心は無かった。すると、

『……近くへ行ってもいいですか ?』

 突然、ユカの頭の中に言葉が飛び込んできた。それは聴覚で理解した言葉ではなく、脳のひだに直接触れるような優しい女性の声だった。

「い、いいですけど……」

 少しびっくりしたが断る理由もないのでそう答えると、ユカの周りに漂っていた磯の香りが急に強まり隣に誰かが座る気配を感じて身構えた。

『どうして泣いているんですか ?』

 心配しているような、慰めるような感情が伝わってきた。

「お母さんのことを思い出してたの」

『今はいないのですか ?』

「うん……死んじゃったの」

 あたし、夢を見ているのかなぁ。うん、これは夢に違いない。自分が母を想うあまり夢の中に出てきた女の人と話しているんだ。だって、声に出してしゃべっているのはユカの方ばかりなんだもの。

『あなたと同じ子を知っています。その子もお母さんがいませんでした』

「ほんと? その子も泣いてた ?」

『泣いたこともあると思います』

 なんだかヘンなの。自分の夢に知らない子の話が出てくるなんて。そう思ったが、ユカは聞かずにおられなかった。

「なんて子? この近くの子 ?」

『マモル』

「なぁんだ、男の子か」

 ユカはちょっとがっかりした。男の子ならユカのようには泣かないと思う。男の子なら父親に役立たずなんて言われないと思う。男の子なら殴られないと思う。殴られても殴り返せると思う……男の子なら。

 そんなことを考えていたら、なんだか急に眠くなってきた。夢の中なのに眠いなんて、やっぱりヘンなの。

「また出て来てくれる ?」

『はい。明日、同じ時間にまた会いましょう』

 あまりにリアルな夢だったので、ユカは次の日もプライベートビーチで眠ることにした。そんな都合よく夢の続きが見られるわけないと思ったが、やはり女性は夢に出て来てはくれなかった。

 だが、ユカは毎晩砂浜に足を運んだ。

 そして、やっぱり夢だったんだとあきらめ納得した十日目のこと、その声は海の方角からユカの頭に飛んできた。

『こんばんは。今日は泣いていませんね』

 薄い月明かりの中、その女性(ひと)は打ち寄せる波間に佇んでユカを見ていた。まるで何も身にまとっていないシルエットだが、よく見ると全身がキラキラとした何かで覆われているのがわかる。

『近くへ行ってもいいですか ?』

 初めて会った時も、同じ言葉をかけてくれた。最初からそんなものは無かったが、ユカに恐怖心を与えないための気遣いが感じられ嬉しかった。

 女性がゆっくり近づくにつれ、磯の香りが強まる。なんて心地よい香りなんだろう。

 ユカの近くに来た女性の容姿はとても不思議で、全身を輝かせているものは鱗だとわかった。濡れて滴を落とす髪は長く艶めき、女性の顔立ちは薄明かりの中にあっても美しいことがはっきりと見てとれた。

 二十歳前後だろうか。全く似ていないのに、なんとなく写真の母を彷彿とさせユカは胸の奥が熱くなるのを感じた。

 これは夢じゃない。本当に女性は存在したのだ。

「ずっと待ってたのに、なんで来てくれなかったの ?」

『ずっと ?』

 逆に不思議そうなリアクションをされ、ユカは少しムッとした。

「あれから十日だよ ! 次の日って約束したのに !」

 抗議しなが涙が出てきた。夕方、父親に殴られた時にできた傷に涙がしみて頬が痛む。

『ごめんなさい。マモルも同じことを言ってました。私たちの一日は十日だと』

 一日が十日 ? なにそれ、意味わかんない。

「あたしユカっていうの。お姉さんは名前なんていうの ?」

『レイリー』

 その日からレイリーは毎晩ユカに会いに来てくれた。レイリーは海の中に住んでいるという。そこには大きなお城があって、たくさんの仲間がいるらしい。ユカもそのお城に住むことができたらどんなにいいだろうと思った。

 ある日、いつものようにユカがプライベートビーチへ行くと、ひとりの老人が浜辺に座っているのが岩の陰から見えた。この夜はちょうど満月で、雲ひとつない空から降り注ぐ月光に照らされて水平線まで見渡すことができるほど明るい夜だった。

 人の砂浜に勝手に侵入するなんて、どこのじいさんだ!? と、鼻息荒くユカが岩場から出て行こうとした時、老人の陰にレイリーの姿を見つけてユカは固まった。

 レイリーがまるで恋人のように老人に寄り添っていたからだ。結局この日、ユカは浜へ下りることなくとぼとぼと家へ帰った。

 次の日も老人は浜辺へ来ていた。レイリーの姿がないところを見ると、まだ来ていないらしい。ユカは岩場に隠れてしばらく様子を見ていたが、約束の時間になってもレイリーは現れない。

 まさかあいつがレイリーにこの浜へは来るなと言ったのだろうか ? 美しいお前が強情で可愛くないと実の父親に嫌われ学校にも行かせてもらえず、薄汚れたぬいぐるみを抱いた醜いガキなんかに会う必要はないとレイリーに言ったのだろうか。

 もしそうだとしたら……許せない。なんの権利があって、あの老人にそんなことができるのか。

 まだそうと決まったわけではないのに、ユカは怒りと悲しみと悔しさのあまり頭が真っ白になった勢いで岩場から飛び出すと、仁王立ちになって老人を見降ろした。すると、老人は最初からユカがそこにいることがわかっていたかのようにこちらを振り仰ぐと、静かに手招きをしたのだ。

「ここをこんなに綺麗にしてくれたのは君かい ?」

「……」

「ありがとう。レイリーもとても喜んでいたよ」

「おじいさん、レイリーのなんなの ? なんでレイリー来ないの!? おじいさんが来るなって言ったの !?」

 老人は優しく笑うと、幼いユカがわかるように言葉を選びながらレイリーの事を話し始めた。

 人魚─────? 

 いつだったか、母親が読んでくれた絵本の中に出てきたのを覚えている。だが、絵本に描かれていた人魚は足の部分が魚だった。夜目でしか見たことがないけど、レイリーにはちゃんと人間のような足があったではないか。

 老人とレイリーは昔からの知り合いで《レイリー》と名付けたのも自分だと言った。

 ユカにとって老人の話は途方もなく、特にわからなかったのが(今でも理解できていないが)、人間と人魚に流れる時間の違いについての説明だった。

 人魚の一日は、人間の約十日目にあたる。なので、毎日会いたいというユカの希望をかなえるためにレイリーは二時間四十分毎に海の底からやって来ていたというのだ。この数日、何度も何度も海と浜辺を往復した結果、レイリーは少し疲れてしまったらしい。

「だから休ませてあげないとね。君はいい子だからわかってくれるよね」

 老人は、そう言って優しくユカの頭を撫でた。

「……もしかして、おじいさんがマモルなの ?」

「そうだよ。レイリーから聞いたんだね」

 いつか明るい時間に三人で会いたいねと言ってマモル老人と別れたが、そしたら自分の体にある傷やいつも父親に罵倒されている醜い容姿を見られてしまうから嫌だなとユカは思った。でもそんな思いとは反対に自分はどう思われても嫌われても構わないから、陽の下でちゃんとレイリーを見てみたいという思いがユカの中に湧いてくるのだった。月光の下でもあんなに美しいのだから、明るいところで見たらもっと美しいに違いない。

 だが、次に逢った日にあんな悲劇が起ろうとは、誰が想像しただろう。


 突然、髪の毛をつかまれ薄い布団から引きずり起こされた。「痛い」という間もなく、台所の流し台へ背中から叩きつけられる。背骨が軋み反射的に反り返ったところへ、ノーブローとなった腹めがけて蹴りが入った。近ごろ父の攻撃パターンがわかってきたユカは、自分なりに出来るだけダメージが少ないよう逃げるのだが、そう毎回うまくいくはずもない。

 特に今日は、夜になると家を抜け出すユカに不信感を抱いていた父親がひつこく問いただしてきたのでシカトすると、髪をつかまれたまま引きずられトイレの中に閉じ込められた。白状するまで家からは一歩も出さないという。

 今夜は体力が回復し元気になったレイリーと久しぶりに会う約束をしているので、何がなんでも浜へ行かなければ !

 夕方になると、いつものように父親は行きつけの飲み屋に繰り出して行った。

 いつもなら父親が食べ残した食事を口にしてから家を出るのがユカの日課だったが、今日は体ごとトイレの便座に縛り付けられているのでどうすることもできない。なんとかロープを解こうとしてみるが、もがけばもがくほど腕に食い込み痛みが増すばかりだ。

(今日は会えないかも知れないな……)

 ユカがあきらめかけた時、自分の尻のあたりにロープの端が一本垂れ下がっているのに気が付いた。体をひねって後ろ手にされている手でなんとかそれを掴み引っ張ってみると、あれほどきつく両手を縛っていたロープが何の抵抗もなくするすると解けるではないか。まったく、なんて詰めが甘い父親だろう。

 自由になった手で腰と足のロープも取り去ると、ユカは急いで浜辺へ向かった。

「レイリーッ!」

 岩場から身を乗り出して手を振ると、先に来ていたレイリーもユカに大きく手を振り返した。

 よかった。もうすっかり元気になったようだ。知らなかったこととはいえ、レイリーに無理をさせてしまったことを一番に謝らなければならない。そして、これからもずっとお友達でいて下さいとお願いするのだ。

 そんなことを思いながらレイリーに近づくユカの横を大きな影が追い抜いて行った。

「なんで……!?」

 影はまっすぐレイリーに向かっている。そして、振り上げられた影の手には鈍く輝く金属バットが握られていた─────。

「お父さんッ、やめて ! レイリー逃げて─────ッ !!」

 ユカと一緒にやって来た人間をまさかレイリーが敵だと思うはずもない。ユカのただならぬ叫び声を聞いて、近づいて来る男が危険人物だと理解できた時はすでに遅かった。

「こんのォ、バケモノめ! よくも娘をたぶらかしやがって !」

 身をひるがえして逃げようとするレイリーの右肩を最初の一撃が襲った。止めようとしがみついたユカを跳ねのけると、男は次の一打をレイリーの頭上めがけて振り下ろした。

 父ははじめからユカを尾行するつもりで、わざとロープが解けるように仕組んでいたのだ。その罠に自分はまんまとひっかかってしまった。

自分のせいだ自分のせいだ自分のせいだ─────!!

「ぐぁ、は……ッ!」 

 突然、妙な声を発し男の体が傾いた。気付けばユカの手にはひと固まりの石が抱えられ、足下には頭から血を流した男が倒れているではないか。そして辺り一面きらきらと光る鱗が散らばっており、それは暗い海へと続いていた。

「レ、レイリィ……!」

 暗い海に向かって呼びかけてみるが、聞こえてくるのは波の音だけだ。

「ごめんなさい、ごめんなさいレイリー」

 誰か助けて ! レイリーを助けて ! マモルおじいさん !

 近くの海洋生物研究所に住んでいると言っていたのを思い出して、ユカは走った。サイズが合っていない靴は脱げて裸足になったが、かまわず走り続けた。

 これは夢だ。これこそが夢でなければならない。願わくば目覚めた時、嫌なことだけ記憶の中から消えていますようにと泣きながらユカは祈った。


          ◆ ◆ ◆

 

《あんでるせん号》から伸びる光の糸をたどって行くと、そこにはひとつの棺が浮かんでいた。棺の側面には赤いペンキで×印が書かれている。

「初めまして。レイリー」

 棺の中で眠るレイリーは美しく、額にかかる緑色の髪はゆるいカーブを描いて細いうなじの後へ広がっている。小さな顎の近くには少し微笑んでいるような唇が、あどけないあくびをして今にも目を覚ましそうだ。

 そして閉じられた瞼の奥に隠されているのは、一度見たら忘れられないほど美しい色をしたエメラルドグリーンの瞳。白眼(はくがん)の無い宝石のような眼だ。

 祖父は生前、俺に遺言を残していた。自分が死んだらレイリーの棺と一緒に外宇宙へ飛ばしてほしいと。このことは祖母も承諾済みだし大勢いる孫の中で、なぜ俺を選んだのかもだいたい想像がついたので快く引き受けた。レイリーは人魚というだけでなく、祖父母にとって特別な存在だったから。

 あの後、祖父がどうやってユカの父親の死体を片付けたのかはわからない。おそらく海にでも沈めたのだろう。そして、レイリーの遺体が魚たちに食べられる前に引き上げ、棺に納めて宇宙へ飛ばした。彼女の棺が外宇宙へ出ないようにする仕掛けを作るくらい祖父には朝飯前のことだ。

 すべての作業が終わった後、祖父はユカにひとつの頼みごとをした。自分の命がそう長くはないことを知っていた祖父は、死んだ後に遺言を実行してもらうべく孫の璃久に会ってほしいと。

 そうか、何度も母からあった通信は祖父の死を伝えるものだったのか。

 祖父母の願いを知らない両親は、遺言のために俺がこんな仕事に就いたなんてことを知ったらどんな顔をするだろう。もちろんそれだけがすべての理由ではない。宇宙(ここ)から眺める海が俺はいちばん好きだという理由もある。

「さて、と」

 そろそろ祖父の棺が発射される時間だ。


 ユカはシロを抱きしめた。今はペタンコになったシロのお腹にはマモル老人の遺言が入っていた。ユカはそれをリクに渡すと張りつめていた緊張の糸が切れたせいか、猛烈な睡魔が襲ってきた。だが、今眠るわけにはいかない。ちゃんと二つの棺が並んで外宇宙へ旅立っていくのを見届けるのだ。マモル老人の妻、奈緒夫人のためにも。

 

 俺がユカから受け取ったのは、二枚貝を丸く削って合わせたものだった。貝の中心には小さな穴が開いていて、以前はそこに紐が通されていたらしい。

 俺は手順通りレイリーの棺の側面(偶然にもちょうど×印の真ん中だ)にある窪みに貝をはめ込むと変化を待った。しばらくすると地球に向かって貝の穴から漏れ出した一筋の光は道しるべとなり、祖父の棺をここへ連れて来るだろう。あとは並んだ棺にプロペラを付けて外宇宙へさよならだ。以上、これで俺の仕事はおしまい。


『で、あの子の身元わかったの ?』

「俺の姪っこだった。しばらく帰ってなかったからな、それでわからなかったんだ」

 嘘がバレバレだということは、モニターのサトミの顔を見ればわかる。

『……それじゃあ、清掃作業の社会科見学に来た姪子さんにサトミお姉さんからよろしくって伝えておいて。お・じ・さ・ん』

「チッ」

 父親の次はおじさんかよ、俺はまだお兄さんって歳だぞ。と、心の中で愚痴ったつもりが、

「だいじょうぶ。あたしリクのこと、お兄さんって呼ぶからサ♪」

 ユカにはすっかり見透かされていた。

 兄というのはあながち嘘ではない。ユカは地球へ戻り、俺の両親の養女になることが決まっていた。家を出たきり戻って来ない親不幸な息子を待つよりはずっと有意義だ。

 父は娘と腕を組んで歩くのが夢だったと言い、母はもう一度子育てができると喜んだ。そしてユカは二度と開かないようにファスナーを縫いつけ、実母の写真をシロの中に封印した。

「ええなぁリクは。あないに可愛い妹ができて」

 もともと端整な顔立ちのユカ(自分では微塵も思っていないようだが)は、これからもっと可愛くなるだろう。そう考えると、たまには地球へ帰ってみるのも悪くないなと思う。

「ところで、前から聞こう思とってんけど、リクの左の眼ぇてリアルアイなん ? フェイクアイなん ?」

「フェイクだって言ったら ?」

「オレも真似したいなぁと思て。かっこええやん緑の眼ぇて。それに白眼(はくがん)が無いとこもイケてるで。それ、どこに行ったら売ってるん ?」

「忘れた」

「なんやねんそれ ! いけずせんと教えてぇな~」

 俺が産まれた時、祖父母はたいそう喜んだと聞く。なぜなら息子である父やその兄妹たちには人魚の血を引く身体的特徴が何も現れなかったからだ。

 この眼のせいで子供の頃からずいぶん嫌な思いをしたのは事実だし、海が嫌いになったのもそのせいかも知れない。だが、考えてみると結局俺は戻っていたのだ。水の無い星の海に。

 その証拠に、ほらどこからか波の音が聴こえてくる。


~ 終わり ~




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