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「ウミカノン」

◇◇ ウミカノン ◇◇


 私はこの季節が好き。一斉に木々が芽吹いて山が、森が、谷が、若葉色に輝く季節。

 本格的な梅雨入り前のまっさらな風に吹かれていると、何かが始まる……始まってほしい気がして心がなんだかムズムズするからだ。

 三年生になってやっと南校舎に移ることができた。この高校は海を見下ろす丘の上に建っているにもかかわらず、南校舎からでないと海を見ることができない。なんてもったいないんだろうと思うけど、ここの生徒でそんなことを気にするのは私だけだ。

 私がこの青ケ崎に越して来て三年が過ぎた。父の仕事の関係もあったが、一番の理由は母が気に入ったホスピスが近くにあったから。

 母は末期癌で医師からは余命半年と宣告されていた。でもここへ来てもうすぐ三年、母の病状は落ち着いている。

 学校が終わると自転車を飛ばして母に会いに行くのが私の日課になっていた。

「若葉ー! おばさんとこ行ったら帰りにウチに寄れってオヤジが言ってた。魚持って帰ってもらえって」

「いつもありがとう! カンナのお父さんにはいただくばっかりで申し訳ない」

「いいっていいって。鯛やヒラメなら感謝のし甲斐もあるけどさ、雑魚ばっかで申し訳ないのはこっちの方だよ!」

 カンナは中学からの親友だ。むこうは私のことを親友だとは思っていないかも知れないが、ひとりだけ違う制服を着てクラスで浮いていた転校生(しかもさっさと帰ってしまう)の私に初めて声をかけてくれたのがカンナだった。

「ねぇ、浜崎さんちってさ、何やってんの?」

 それがカンナの第一声だった。

 私と父が住むことになったのは『青ケ崎海洋生物研究所』という私設の研究所だ。大学で海洋生物の研究をしていた父が、どうしてもとここに赴任することを望んだらしい。

 確かに自然に囲まれ海にも近いこの場所は、じっくり腰を据えて学問に取り組むにはもってこいの環境だった。

 そして自分の余命を知っている母は近くに眺めのいいホスピスがあることを知り、見学に来たその日のうちに入院の手続きを済ませてしまった。

 だからうちは今、父子家庭なので嫌でも私が家事をしなければ家じゅう大変なことになってしまうのだが、私だって年頃の女子高生だ。たまにはお洒落して友達と遊びに出掛けたい時がないと言えば嘘になる。

 母の看病は嫌ではなかった。むしろ母に会って、その日の出来事や父への愚痴なんかを聞いてもらえることが嬉しかったから。

 父の研究内容には以前から興味がなかった私は、本当に父がどのような仕事をしているのかわからなかったのでカンナの質問に対して、

「さぁ、何やってんだろ?」と、素直に答えたところ、それが彼女にはウケたらしい。

 カンナの家は地元で漁業を営んでいる。お父さんはベテランの漁師で、いつも獲れたての新鮮な魚を分けてくれた。カンナ自身はそんな家があまり好きではないらしく、早く家を出たいと言うのが口癖の生活指導室常連少女だった。

 そんな彼女だからこそ私に声を掛けてくれたのかも知れない。本人曰く、

「気になってただけ。だってナンチャラ研究所なんてさ、いかにも胡散臭そうじゃん」だとか。

 私はその胡散臭いナンチャラ研究所にカンナを招いて、彼女の疑惑を取り払い親友になったと思っているのだ。


 病院に着くと詰所の看護師さんたちに挨拶をして母の病室へ向かう。

 あぁ、今日も病院から母の容態が急変したという知らせが学校に来なくてよかった安堵感と共にドアを開けると、ベッド脇の椅子に座り窓の外を見ている母の姿があった。

 母は体調の良い時、必ず海を眺めている。以前住んでいた場所は雑居ビルしか見えないマンションだったので、(生きている)今のうちに一秒でも長く美しい景色を見ておきたいと言って……。

「お母さん、ただいま」

 入院先に来て「ただいま」は変だけど、母の顔を見るとそう言ってしまうのだ。

「おかえり、若葉。もう毎日来なくてもいいって言ってるのに。三年生になったんだから受験のことも考えないと」

「考えてるもん。進学するつもりないし、卒業したら就職するから」

「またそんなこと言って! お父さんには相談したの?」

「だって、お父さん忙しいし……」

 それに、今お母さんに会っておかないと時間がないじゃない!

 母がこの景色を記憶に留めておきたいと思っているように、私だって少しでも長く母との思い出を記憶に留めておきたいのだ。

「お母さんは大丈夫だから。なんだか最近、若葉が結婚して可愛い孫の顔を見るまで生きられそうな気がするの」

「やだ、お母さんたら変なプレッシャーかけないでよ」

「贅沢かしら」

「ううん、ここへ来てから海の神様が味方してくれてるのよ。きっと!」

 夕食が運ばれて来たので、また明日来る約束をして病院を出た。


 カンナの家へ寄ると、おじさんが発砲スチロールの箱いっぱいに魚を入れて待っていてくれた。

「いつもありがとうございます」

「いやぁ、今日も小アジばっかりで悪いけどなぁ」

「新鮮だからとっても美味しいです。私の下手な料理の腕で調理される魚には悪いけど」

 そして母の具合を尋ねられ、いつものように私のことを偉い偉いと褒めてくれた後、それに比べてカンナのやつは……と、話の流れが一人娘の不満へと方向を変えるのだ。

 今日もカンナはまだ帰宅していないらしい。こんなに心配してくれる親がいてくれるって羨ましいことだよ、カンナ。

 自転車を押して研究所の裏門から入ると、自宅の台所に通じる勝手口がある。人の出入りが多い表はめったに利用しない。その方が気楽だったし、忙しい父の邪魔にならなくて済むからだ。

 夕飯の支度が整うと父のケータイにメールで知らせる。父は食事時間が不規則なので、この連絡方法はいつものことだ。当然、親子の会話は無くなるし、顔を合わせるのも一週間に数回ということも珍しくない現状で進路の話などできるわけがない。

 今日も一人で夕食を食べようとした時、ケータイのメール着信音が鳴った。見ると父からだ。

<一緒に食べよう>

 なんだぁ? 今日にかぎって気持ち悪いなぁ。

 父の茶碗にご飯をよそっていると、膝のあたりが擦り切れた作業着にボサボサ頭の父が入ってきた。

「お久しぶりです。お父様」

 嫌味を込めた挨拶をする私に、

「そうだな、久しぶりだな。学校の方はどうだ? 友達とは上手くやっているのか?」

 ほんっとうに、相変わらずなんだから!

「お父さん、学校のことよりまず先に聞くのはお母さんの事でしょう?」

「ん、ああ。母さんの具合はどうだい? 元気そうか」

 元気じゃないから入院してるんですけど。

「最近は調子いいみたい。食欲もあるって」

「それは良かった。近いうち見舞いに行くよ」

 何回その約束は破られたことか。

「お父さんの研究って、そんなに忙しいものなの? 大学にいた時はそうでもなかったじゃない。ここへ来てからだよ、お母さん可哀想だよ」

 本当にここへ来てからというもの、父は身なりに気を使わなくなるほど重要な研究に没頭しているらしい。

「すまないと思っているよ。明後日、必ず見舞いに行くと母さんに伝えといてくれ」

「わかった、必ずだよ。それより、お父さんには滅多に会わないからスルーしてたけど、私の手料理おいしいの? おいしくないの?」

「もちろん美味いに決まってるじゃないか。まぁ、母さんの足元にはまだまだ及ばないがな」

「ひっどーい! もうお父さんの分は作らないから!」

「悪かった悪かった、冗談だよ」

 料理に関しては自分でもわかっているだけに悔しい。でも、久しぶりに親子の会話らしい会話ができた気がして少し嬉しかった。


「おはよう、カンナ。昨日おじさんにもらった魚おいしかったって伝えといてよ」

「小アジでしょ? あんなのフライか酢漬けにして食べるほか料理法ないじゃん」

「そんなこと言わないの! それより昨日また遅く帰ったの? あんまり親に心配かけちゃダメだよ」

 カンナの凄いとこは、いくら前日に夜遊びしても翌日必ず登校していることだ。成績も決して悪い方ではないし、いったいいつ勉強しているのかと不思議に思う。

「浜崎さん、おはよう!」

「お、おはよう……ございます」

 なぜ敬語になるんだ? 若葉。

 私に声をかけてくれたのは学級委員長の岡田一歩くんだ。男子生徒の中で私に超えをかけてくれるのは岡田くんしかいない。

 岡田くんは女子の間で密かに行われている学年末イケメンランキングで現在六連勝に輝いており、そろそろ殿堂入りにするべきだという意見が出ている人気者だ。しかも運動神経抜群で秀才とくれば、声をかけられて緊張しない女子の方がどうかしている。

「おい、カンナ。また最近おじさんたちに心配かけてるそうじゃないか」

「うるさいなぁ、イッポには関係ないだろ」

「イッポじゃない! かずほだ!」

 もとい、緊張しない女子もいた。

 信じられないことだが岡田くんとカンナは幼馴染で、カンナが横道に逸れようとするたびに軌道修正してくれるありがた迷惑なヤツ(カンナ談)らしい。

「カンナも浜崎さんを少しは見習え」

 え?

「はは~ん、イッポのやつ若葉に気があるとみた」

 岡田くんが行ったとたんカンナが突拍子もないことを言うので、まだ言い足りなかったお説教を飲み込んでしまった。

「なななななに言ってんのよカンナってば! 岡田くんは委員長としてクラスメイトを気遣ってくれただけだよ!」

「若葉こそ、なに動揺してんのよぉ」

「してないよ!」

 少女漫画に出てくる王子様みたいな岡田くんに冗談でもそんな風に想われてるなんて言われたら気にならない方がおかしいよ。てか、気になっちゃうじゃん!

 でも私の家庭環境のことはカンナ以外には話したことがないので、まさかカンナがしゃべるはずはないから、きっと彼女のご両親経由で聞いたのかも知れない。

「バイトしてんだよ、イッポ」

「えぇ!?」

「大学に行くための学費貯めてんの。あいつんち弟がいるからさ、両親に苦労かけたくないんだって。泣かせるわ~」

 なんか感動。私の中で、また岡田くんのいい人レベルが上がった。

「K大の理学部めざしてるらしいよ」

「すごいね。でも岡田くんなら絶対大丈夫だよ!」

「しかも生物学科」

「へぇ!」

 本当に勉強が好きなんだ。

「へぇ~、じゃないってば。若葉ンとこに就職するために決まってんじゃん!」

「またまたぁ」

 始業のチャイムが鳴ったので話はそこで終わったが、カンナの目は笑っていなかった。カンナこそやけに岡田くんの進路について詳しいのは、幼馴染だからってわけでもないような気がするんですけど。


◆ ◆ ◆


 今日は夕方から天気が荒れるって聞いてたけど、まだ昼前にもかかわらず今にも泣き出しそうな空模様だ。天気予報もあてにならない。

「タイミングわるーい! 今日に限って時化(しけ)るなんて」

 空を見ながらカンナが心配そうに言った。風も強くなってきたようだ。

「おじさん、漁に出てるの?」

「今日は『ウミカノン』の日じゃん」

「あ、そっか。もうそんな時期なんだ」

 『ウミカノン』とは海の神様のことで、今日は地元の漁師たちが海の神様に感謝と漁の安全を祈願する年に一度のお祭りの日だった。お祭りといっても山車や御神輿が出るわけでもなく、屋台が並ぶわけでもない。地名の由来になった青ケ岬の下にある祠の前にお神酒や供物を供え、持ち回りで当番になった地区の総代が祝詞をあげて終わるだけの内輪の行事だ。

 地元の漁師たちはウミカノンの存在を本当に信じている。ふしぎなことに翌朝には供物がすっかり無くなっているというのだから、きっとウミカノンが持って行かれたに違いないと当たり前のようにささやかれた。

「カンナはウミカノンを信じてるの?」

 前に一度聞いたことがある。

「信じてないわけじゃない。だって親父は見たことあるって言うし」

 漁師の間でウミカノンを見た、遇ったという話はよく聞く。どんなに他の漁場が不漁の年でも、ここの漁場だけは大漁だとか、まだ漁船にレーダーや無線が設置されていない時代には遭難した船を港まで案内してくれたとか、溺れた子供が助けられたとか、ウミカノンにまつわる話は尽きることがない。

 容姿については人間によく似ているが体が鱗で覆われていることと、髪と目の色が深い緑色でその目に至っては白眼(はくがん)がないという。

 海の神様には申し訳ないが、聞いただけでは不気味だというのが正直な感想だ。ただ、アンデルセンの人魚姫の姿を想像すればメルヘン的だと思えないこともない。

 

 下校間近になって、いよいよ本格的に天候が荒れてきた。

 駐輪場でレインウェアを着ていると、担任教師が走って来るなりこう言った。

「落ち着いて聞け、浜崎。お母さんがたった今、亡くなられたそうだ」

 ハ? ナニ言ッテンノ、先生ノクセニ意味ワカンナイ……。

「急ぎなさい! 先生の車で病院まで送って行くから」

 気がつけば、私はレインウェアを着たまま先生の車に乗っていた。

 病院へ着いても車から降ろした足が思うように動かない。担任に付き添われてなんとか病室までたどり着くと、ドクターと看護師が一斉に私を見た。

「お気の毒です」

 ベッドには母によく似た女性が、眠るように横たわっていた。

「先生は駐車場で待っているから……ゆっくりでいいからな。お母さんにお別れを言ってあげなさい」

 ダカラコノ人ハ、オ母サンジャナイッテバ……。

「死亡時刻は午後四時十分でした。容態が急変してからあらゆる処置を施しましたが……残念です」

 違ウ! 知ラナイ人ダ! ココハオ母サンノ病室ジャナイ! オ母サンハドコ!?

 母を捜しに行こうとする私の腕を掴んで看護師が言った。

「あなたがしっかりしなくてどうするの若葉ちゃん! 頑張ったお母さんを褒めてあげなさい!」

「……おかあ……さん……?」

 そこには確かに母がいた。

「い、いやーーーっ! お母さん! おかぁさぁぁぁーーーーーんっ!!」

 自分でもこんなに声が出るのかというくらい泣き叫んだ。叫んでも叫んでも二度と母の目に私は映らないのだとわかった時、父の姿がないことに気がついた。

「父は? ……父はどこです!?」

「それが、お父様には連絡がつかな……」

 看護師が言い終わるが早いか病室を飛び出すと父のケータイへ電話を入れた。しかし何度かけなおしても圏外だった。

 なぜこんな時に父はいないのだ! どうして見舞いに来るのが明日は良くて今日ではダメだったのか……どうして、どうして!

 母の死のショックと父への怒りで気が狂いそうだった。

 ひとりは嫌だ。登下校……広い教室……夕食のテーブル……もうひとりになるのはたくさんだ!

 誰でもいい、破裂しそうな心を受け止めて欲しい。

 病院を出ると行くあてもなく走り続け、走っていないと何かに押し流されてしまいそうで怖かった。


 一体どれだけ走ったのか、気づくと暗い海岸に佇んでいた。

 荒れ狂う風と波、痛いほどにたたきつける雨音がまるで私を呼んでいるかのように聞こえ、一歩また一歩と波打ち際へ足を向かわせた。

「お母さーーーん! 淋しいよぉーーーっ! お母さ……グホッ!」

 海水を飲んだが苦しくはなかった。人混みの中を歩いているかのように波がドンとぶつかってきては私の体を沖へ沖へと運んで行く。このまま母のもとへ行くことができればいいとさえ思った。もう一度、母の声が聞きたかった。

 急に音がしなくなったのは、きっと海中に沈んで行ってるからだろう。重力を感じない手足の感覚と静けさが心地よかった。

 だが次の瞬間、突然何かが私の体を引っ張った。と同時に静かだった身の周りに波の音が蘇ってくる。どんどん引きずられていく足元に砂を感じた私は、朦朧とする意識の中で誰かに抱きかかえられていることに気がついた。

 こんな時間に、しかも嵐の海辺に自分以外の誰がいるのだろうと思うのが精一杯だ。

(お母さんなの?)

 顔がよく見えないのは意識を失ったせいだろうか。

 潮の匂いがする。ここは……まだ海の中?


 どれくらい時間が過ぎたのか、意識を取り戻して跳ね起きた私の目の前には光の球が浮かんでいた。

 これは、なに?

 いつ間にか風は止み、あたりは静かな波の音だけが聞こえる普段の浜辺に戻っていた。

 ただ、この光の球をのぞいては。

 そして、光の向こうに私が見たものは……鱗?

 そこには、まるでモルフォ蝶の羽色のように美しい鱗を身にまとったヒト(?)が眠っていた。そのヒトの髪は長く緑色をしていて、無防備に投げ出された手の指のあいだには水掻きのようなものが付いている。

「ウ、ウミカノン?」

 私の声に気づいたのか、鱗のヒトは静かに目を開けるとエメラルドのような緑の目でまっすぐに私を見た。


◆ ◆ ◆


 エメラルドのような美しい緑色をしたその目には白眼(はくがん)が無く、感情が読み取れない。

 それだけでも異形のモノに違いなかったが、おぞましさや恐怖は全く感じられず、それどころか吸い込まれるような緑の眼は微塵の汚れもなく神々しい光を宿しており、私は目をそらすことができなかった。

 歳は同じくらいだろうか。性別があるとすれば少年のように見えるが、その美しい顔立ちは穢れを知らぬ少女のようにも見える。

「わたしを……助けてくれたんですね?」

 ウミカノンは、そっと私の頬に手を伸ばすと、

『無事デ、ヨカッタ』

 突然、頭の中に言葉が入ってきたので驚いたが、それがあまりにも自然で優しい感情だったので私はまた母の事を思い出して泣きたくなった。

 私は夢を見ているのだろうか。人類が宇宙へ飛び立つこの時代、ウミカノン=人魚が存在するだなんてどうして信じられるだろう。

 そうだ、これは夢に違いない。だとしたら母の死も夢の中の出来事で納得がいく。

 自分にそう言い聞かせるように大きく深呼吸して目を閉じると、今度はゆっくり目を開けた。

 最初に見えたのは光の球だ。そして、その光に照らし出されているのは緑の目をした美しい顔だった。

 これは、夢なんかじゃない!

 (どどどうしよう! こんな夢みたいな話、カンナは信じてくれるかしら? それか、あんたなにバカなこと言ってんのって笑うかな? でも、現に、これは、絶対、夢じゃない!)

 でもアレ? 人魚って足あったっけ???

 自分でもわけのわからない言葉がひとしきり頭の中を駆け巡ったが、ふとこの人魚には脚があることに気が付いた。脚は鱗に覆われており、つま先の部位がヒレ状になっていることを除けば人間と良く似た形をしている。童話や物語に出てくるオーソドックス(?)な人魚とは明らかに違っていた。いや、もしかしたらこの形体はオスの人魚だからか? ああ、また混乱してきた。

 でも、なんて綺麗なんだろう。

 ヨーロッパではその美しい容姿と歌声で人間を惑わせて海中へ引きずり込むという伝説がある。確かにこんな美しい顔で、眼で見つめられたら……見つめられたら……。

『夜ガ明ケル。行カナクテハ』

「あの! また会ってもらえますか?」

 どうやら私、人魚に惑わされたらしい。

 人魚は自分の首に掛けていた首飾りを外すと、私の手の中へそれを置いた。

 首飾りは丸く削った二枚貝を合わせただけの簡単なものだったが、それが何よりも人魚からの返事に思えた。

 そして私は一度だけ手を振ると、すぐに見えなくなってしまったモルフォ蝶の羽色に輝く鱗の残像をいつまでも波間に捜し続けた。

 

 夜が明ける頃、私は岩場にひとりでいるところを消防隊員に発見された。

 父はたいそう憔悴した様子で昨日病院に行かなかったことを何度も私に謝ったが、結局どこへ行っていたのかは教えてくれなかった。だが人魚と出会った後の私にとっては、父がどこで何をしていたのかなんてもうどうでもいいことだった。

 カンナは岡田くんと見舞いに来てくれたのはいいけれど、私の顔を見るなり号泣しなだめるのが大変だった。

「若葉のバカ! 今度死のうなんてこと考えたら絶交だからね!」

 カンナってば涙と鼻水でグチャグチャになった顔で怒るものだから、図星だったけど笑ってごまかすことができた。

 人魚に会ったことは、ふたりには黙っていることにした。夢ではなかった証拠に私の手にはしっかりと貝の首飾りが握りしめられていたが、このことは自分の中だけにしまっておくべき大切な出来事だと思ったからだ。


 母の葬儀が終わり少し落ち着きを取り戻した頃、私は再び人魚のことを思い出していた。

 美しい緑の眼や優しい仕草の一つ一つを思い出すと胸が締めつけられるようで苦しかった。こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだったが、これが誰かを好きになることなんだと理解はできた。

 人魚に会いたい!

 母に相談できないのが悔しくて淋しかった。

 救助されてから初めて人魚と出会った海岸へ行ってみると、そこは青ケ岬のすぐ近くだった。百メートル以上はあるかと思える断崖絶壁を見上げながら、ふと、あの日あの嵐の中でウミカノンの神事は行われたのだろうかと思った。だから彼はここへ現れたのだろうか、と。

 私たちがいた岩に囲まれた砂浜には、そこだけ海藻が敷き詰められた場所があり、それを見つけたらまた悲しくなった。

「ウミカノン、お願いです。もう一度会いに来てください」

 海に向かって声に出してみたが、いつまで待っても人魚は現れてくれなかった。


 しばらく休んだ後、私は復学した。クラスメイトたちは担任から母親が亡くなったことを聞いたらしく優しく接してくれた。

 学校が終わると病院へ行くことがなくなったかわりに、あの海岸へ通うのが日課になった。たとえ人魚に会うことができなくても、そこに佇むだけであの夜を思い出すことができたから辛くないと言えば嘘になるが、ひとかけらの希望は持ち続けた。

 そして水平線に陽が沈む頃、凹んだ気持ちとともに家路につくのだった。

「若葉、学校の帰りに毎日どこへ寄り道しているんだ?」

 父と食事を共にするのは母が亡くなる前日以来のことだ。

 父は誰から聞いたのか、私がまっすぐ帰宅していないことを知って心配しているようだったが、特別な場所になった海岸へ行くことを寄り道呼ばわりされたことにカチンときた。

「どこだっていいじゃん、べつに」

「休んでいた分の勉強はついて行けてるのか? もうすぐ期末テストじゃないのか」

 この人は何を急に親らしく振舞い出しているのだろう。母が死んで親は自分だけになったから? 少しはプレッシャーを感じているのだとすれば今さらである。

「ごちそうさま」

 席を立とうとした私に父が言った。

「あの日……あの嵐の日、誰かに会ったのか?」

 心臓が跳ねた。父がなぜそんなことを聞くのかわからなかったが、あの夜のことは誰にも踏み込んで来てほしくない聖域だったので知らずと声が荒くなり、ずっと聞けなかったことが口をついて出た。

「お父さんこそ、あの日どこへ行ってたのよ! ケータイも通じないような辺境にでも行ってたっていうの!?」

 私は自分を守るように父を責めた。

「あの日は……あの日わたしは、ウミカノンの神事に出席していたんだよ」

 と、父は言った。


◆ ◆ ◆


 若葉の父、浜崎努がこの青ケ崎海洋生物研究所を赴任先に選んだのにはわけがあった。

 彼は普段の仕事の他にプライベートで、かなり前から研究している対象物の手掛かりがこの地にあると突き止めたからだ。

 それは本当に水面下で密かに調査され、データ収集から分析に至るまでの研究が努ひとりの手で地道に行われていたので、研究資料が外部へ漏れる危険はほぼ無いといってもよかった。そしてこの研究は公表するために行っているのではなく、あくまでも努が自分のためだけにエネルギーを注ぎ続けている調査に他ならなかった。

 彼は<ホモ・アクアティクス>つまり、人魚について調べていたのだ。

 きっかけは、努が小学生だった頃にさかのぼる。


 努の故郷は日本海に面した小さな港町だが、夏は海水浴客、冬になれば名物のカニ料理を目当てに訪れる観光客でにぎわう町だった。実家は代々旅館を営んでいたので年中多忙な両親は、早く努が結婚して旅館を継いでくれることだけを願っていた。

 努が小学五年生になった年、担任になったのが他県から赴任してきた野原かの子という女性教諭だった。

 かの子先生は若くて美人でスタイルもよく、穏やかで優しくめったに叱ることがないので、あっという間に生徒たちからの信頼を得て人気者になったのだが、ただひとつ残念なのは左目にしている眼帯が美人を半減させている点だった。

 ひとりの女子が眼帯のことを聞くと「ものもらいがなかなか治らないから」と言っていたが、先生の眼帯は努が卒業するまで外されることはなかった。

 だが一度だけ、努は眼帯の下に隠された秘密を見たことがある。

 それは体育の授業中、努が投げたドッヂボールのボールがかの子先生の顔面を直撃してしまった時だ。顔を押えてしゃがみ込んだ先生を見て、努に対する非難の声が一斉に女子たちから浴びせられたのは言うまでもない。

「大丈夫よ。これくらいへーき、へーき」

 先生はそう言って体育の授業を続けたが、痛々しいくらい鼻が真っ赤になっているのがわかった。

 休み時間、謝りそこねた努がかの子先生を探していると、先生は手洗い場で眼帯を外しタオルで顔を冷やしているところだった。その時チラリと見えた左目に驚いた努は、ついに声をかけることができず教室へ駆け戻った。

 かの子先生の左目は、白眼(はくがん)のない緑色をしていたのだ。

 見てはならないものを見てしまったという思いはずっと努につきまとい、自分でもわざとらしいくらい先生と距離を置くようになってしまった。みんなから見れば、きっとドッヂボールの一件を反省しているように映っていたかも知れない。


 中学に進学して自転車通学をするようになり行動範囲がぐっと広がった努は、隣町の図書館へ行って緑の目について調べ始めた。もしかすると特異な目の病気かも知れないと思ったからだ。が、それらしき文献は見つからず諦めかけた時、かの子先生と再会したのだった。

 先生はあいかわらず美しく(といっても、まだ一年しか経っていないのだが)、左目の眼帯もそのままだった。

「浜崎くん、久しぶり」

 見上げていた先生の顔が、いつの間にか自分と変わらぬ高さになっていることにも動揺したが、何より再会してしまったことに後ろめたさを感じて言葉が出てこなかった。

「あのね、先生ね、またよその学校へ行くことになったの」

「えっ」

「それまでにもう一度、浜崎くんと話がしたいと思っていたのよ」

 努とかの子先生は海の見える公園のベンチに腰かけると、お互いこの一年にあった出来事を報告し合った。努は部活動のことや英語が難しいことなどを話し、かの子先生は最後の担任になった六年生のことや先日の卒業式で号泣してしまったことなどを話してくれた。

「次はどこの小学校へ行くんですか?」

「T県のS市よ」

 ここと同じく海に近い町だった。

「浜崎くん。五年生の時、先生にボールぶつけたの覚えてる?」

 ついに話が核心に触れようとしていることを努は感じた。

「……すみませんでした。ずっと謝れなくて」

「浜崎くんあの日、先生の左目を見たんでしょ?」

 さらりと聞かれた質問に努が答えられずにいると、

「もう一度、見たい?」

 かの子先生は努の返事を待たず左目の眼帯に手をかけると、ゆっくりとした動作でそれを外した。

 眼帯の下から現れたのは確かにあの時見た緑色の目、白眼(はくがん)のないエメラルド色の目が真っすぐ努を見つめていた。

「どう思う? 気持ち悪い?」

「いえ、とても綺麗だと思います」

「ありがとう」

 努が正直な気持ちを言うと、かの子先生は嬉しそうに笑った。その笑顔がまた一段と美しかった。

「これはね、人魚の目なの」

「にんぎょのめ?」

 誰にも言わないという約束で、かの子先生は話してくれた。自分が何者で、日本中の海岸線を回り何を探しているのかを……。


◆ ◆ ◆


「浜崎さん、今日もこれからどこかへ行くんだ」

 終礼が終わりいつものように若葉がそそくさと帰り支度をしていると、声をかけてきたのは委員長の岡田一歩だった。内心「どこだっていいじゃん」と思って、あれ? 岡田くんに声かけられたのに嬉しいと思わない自分に気づいて驚いた。

「別にどこも。もう病院に行くこともないし、家に帰ってのんびりしてるよ」

「……でも、家とは反対方向へ行くよね。毎日」

 ウザい。

 私は質問に答えるかわりに態度でそれを示すと教室を出た。いくら学級委員だからって、プライバシーの侵害だ。

 岡田くんの視線が、いつまでも私を追ってくるのがわかった。

 海岸へ着くとあの場所へ行き、祈るように海へ向かってささやくのが儀式のようになっていた。

(会いたい会いたい会いたい会いたい……)

 自分の中で、そっと人魚に名前を付けた。凪いだ海のように穏やかで優しい『ナギ』

「ナギ、聞こえますか? 私のこと忘れてしまったんですか?」

 言葉にすると涙があふれてくる。私はナギのこと、忘れたくても忘れられないのに。

 今日も陽が沈んでいくまでその場を離れることができず、西の空に宵の明星を見つけてやっと立ち上がろうとしたその時、

『泣イテイルノハ、ナゼ?』

 忘れもしない、ナギの優しい声が突然頭の中に入ってきた。

「やっと……やっと会いに来てくれたのね!」

 海面から現れたナギの体は、夕焼けが鱗に反射して黄金色に輝いていた。なんて神々しい姿なのだろう。

『キノウ、約束シタカラ』

「昨日!? あれからもう一週間以上過ぎたんだよ……!」

 浦島太郎……竜宮城にたった数日いただけなのに、陸に帰ると何十年も時が過ぎていたという昔話。

 あれは本当に昔話なんだろうか? もし、人間と人魚の時間軸にズレがあるのだとしたら? ナギの一日が私にとっては十日だったとしたら……。

 それでも、ナギにすればちゃんと翌日会いに来てくれたことになるのだから、忘れられたわけじゃなかったんだ!

『会イタカッタ』

 心から伝えていることがわかる嘘いつわりのないナギの気持ちが私の中へ流れてきたので、

「私もよ」

 今度は私から手を差し伸べた。

 触れたナギの頬は冷たかったが、ずっと想い続けていた緑色の目は暖かく輝き私を映していた。


 次に会えるまでの時間は恐ろしく長く感じられたが、絶望の中で待ち続けた日々を思えば我慢もできた。

 私は自分の名前をナギの目の色にたとえて「若葉」と教えた。

『若葉、オ母サンテ何?』

 初めて出会った日、私は亡くなった母を想って海に向かい「お母さん」と何度も叫んでいたのだ。そのあまりに切ない叫び声に気づいたナギが海中から浮上すると、私が溺れていたところへ遭遇したという。

「お母さんは、私を産んで育ててくれた人だよ。ナギのお母さんはどんな人なの?」

『オ母サン……イナイ。子供ハ、ミンナデ育テルモノ』

「そっか。じゃあ、お母さんがたくさんいるんだね」

 羨ましかった。母に人魚のことを話したらなんて言っただろう。きっと信じて理解してくれたに違いない。だって、私のお母さんだもん。

『ダイジョウブ。ワタシガ若葉ノオ母サンニナルカラ、モウ泣カナイデ……』

 うん、ありがとう。もうナギがいるから淋しくないよ。

 私を抱きしめるナギの体が震えているのか、それとも私が震えているのかわからない……けれど、ナギの心臓の鼓動が聞こえる。私と同じ人間なんだ。ただ、生きている環境が違うだけの。

『若葉ノココ……アタタカイ』

 私のファーストキスは、海の神様からの贈り物だった。


◆ ◆ ◆


「若葉ちゃ~ん! アンタ、男ができたっしょ♡」

「な、なななななに……!?」

「ほーら、図星だ。耳まで赤くなっちゃって、若葉ってわかりやす~い♪」

 自称、恋愛番長のカンナは近ごろ挙動不審な行動の私に男の影が見えるという。

 確かにナギは男といえば男だけど……。

「誰よ、白状なさい。まさかイッポじゃないよね?」

「ちがうよ! いいじゃん、誰だって」

 まさか相手がウミカノン(人魚)だと言えるはずもなくごまかしたものの、それでカンナが引き下がるわけがなかった。

「あたしが思うに……他校の生徒だと思うんだけど、ビンゴ?」

「……ビンゴ(と、いうことにしておこう)」

「いや、違うね! このカンナ様の目をごまかそうなんて百年早いわっ」

 なぜわかるのー!?

「……なーんて、冗談だよ。最近の若葉、よく笑うようになったから嬉しいんだ。あたしは若葉が元気になってくれればそれでいいんだよ~だ」

「カンナ……」

「しかし、気の毒なのはイッポだな」

 なぜさっきから岡田くんの名前が出てくるんだ? もしかして、岡田くんを少しでもウザいと思ったことがカンナにバレたのかな。

「ああ見えて一歩のやつ、執念深いからデートの時は気を付けた方がいいよ。どんな邪魔するかわかったもんじゃない」

 まさか岡田くんがナギと私の間を裂こうとするなんて考えられなかったが、こうやってカンナと交わす恋バナってやつがこんなにワクワクして楽しいものだなんて思ってもみなかった。

「どこで知り合ったの? もしかしてナンパ……なわけないよね?」

 カンナの質問攻めが炸裂。はい、ナギは命の恩人なんです。

「どんな男なの?」

「優しいヒトだよ」

「同い年?」

「……たぶん」

「顔は? イケメン? 背は高いの?」

「まぁ……そう、かな」

「Aは? もちろんAくらいはしたんでしょ???」

 カンナ、鼻息荒いってば!

「…………………………うん」

「ほぅ、では最後の質問です。ズバリ…………………………Cまでいっちゃいましたかー!?」

「…………………………」

「な゛な゛な゛あぁぁぁぁぁーーーーーー♡♪☆♀♂!!!」

 この「な」に濁点の叫び声は、カンナが悶絶して椅子から転げ落ちた際に発したものだった。

 私がひと言も答えていないにもかかわらず。


「なんだってぇ! それじゃ、次に会えるのは十日後ってこと!?」

 私とナギの会える条件が十日に一度だと知ったカンナは、信じられないという顔で怒り出した。

「もしかして遠恋!? だったら男の方が時間つくって会いに来るのが誠意ってもんでしょーが!」

「カンナ、声が大きいよ」

 遠距離恋愛といえばある意味そうかも知れないけれど、十日後が翌日のナギにとっては無理な頼みだ。

 次に会えるのは、一週間後の満月の水曜日だった。

「若葉が好きになった人だから悪い人じゃないと思うけど、なんかあったら絶対あたしに相談してよね」

「なんかって、たとえば?」

「浮気とか」

 それは考えてもみなかったことだが、人魚にだって女の子がいるはずだ。ナギに彼女がいたとしても(今はいないにしても)全然おかしい事ではない。しかもお互い同じ時間軸の中で生きているのだから……。

 そう考えたらちょっと凹んできた。

 父とは言い争いをした日から、ほとんど口をきいていない。後ろめたいことは何もしていないのだから、こっちにだって意地がある。

 あの嵐の日、父が出席していたウミカノンの神事は結局途中で打ち切られたそうだ。

 皆はその時、沖に不知火(しらぬい)を見たという。

 不知火とは九州の八代海で旧暦八月一日の深夜、海上に現れる蜃気楼の一種だ。だからあの嵐の中で不知火が発生すること自体あり得ないし、当時は悪天候と神事の日ということで、沖へ出ていた漁船などなかったはずだ。

 不知火……きっとそれは、ナギが作ったあの光の球に違いない。


 そして待ちに待った水曜日。

「それ、今日じゃないとダメなの?」

 岡田くんがカンナと私に卒業アルバムに載せる写真の選考を依頼してきたのは昼休みのことだった。

「頼みます! 明日の編集会議に間に合わせるには今日中じゃないとダメなんだ!」

「若葉は帰りなよ。あたしとイッポでやるからさ」

 今日はナギと会える貴重な日だと知っているカンナは、私に気を使って帰らせようとしてくれている。

「二人じゃ無理無理! 枚数が多過ぎるよ~」

「イッポ、この際だからはっきり言うけどね、いくら若葉に横恋慕してるからって人の恋路を邪魔するなんて男らしくないよ!」

 は? 今なんて言ったのカンナ? ……岡田くんが誰に横恋慕してるって???

「ご、誤解だ! カンナとは比較にならないくらい浜崎さんへの好感度が高いのは間違いないけど、僕は誓ってそんな卑怯なことはしない。浜崎さん、信じてくれ!」

 なんか話の方向が変な方へ行きかけたので、ナギに会う約束の時間ギリギリまで岡田くんの手伝いをすることにした。

「えーっ! 彼氏、ケータイ持ってないの!?」

 人魚が持っているはずもない。

「今時めずらしいにもほどがあるよ。それじゃ、遅れるってこと伝わらないじゃん」

 大丈夫。ナギはきっと待っていてくれるから。

 時計を見ると一時間の遅刻だった。でも、ナギにとっての一時間は数分ってことになるのかな?

「二人とも、ありがとう。後は僕ひとりでやるから、もう帰ってもらってかまわないよ」

 海岸まで自転車を飛ばしても十分はかかる。

 すっかり陽も暮れて波の音だけが聞こえる砂浜を歩きまわって捜したが、不知火の光もナギの姿も見つけることはできなかった。



◆ ◆ ◆


「え、あれから会ってないの?」

 学校も夏休みに入り、私が遅刻してナギに会えなかった日から二度目の十日、つまり二週間以上が過ぎてもナギは現れなかった。

「彼氏の家に連絡は? したの?」

「ううん……」

「なんで!? まさか固定電話も無いってんじゃないでしょーね!」

 きっと約束を破った私のこと、怒って嫌われたに違いない。ナギはちゃんと会いに来てくれたのに……ナギにとって数十分でも遅刻は遅刻だ。

「な、泣かないでよ若葉~、きっと何かの事情で来られないんだってば。それによ、もし遅刻が原因でバックレたんだとしたら男として小っちゃ過ぎるっつーの! そんなヤツこっちから振っちゃえ振っちゃえ!」

「カンナ……慰めになってない」

 どうすればいいんだろう。もう一度、ナギに会って謝りたいのに。

 海岸には毎日足を運んだが虚しいだけだった。もう二度と、あの美しい眼を見ることも優しい手や輝く鱗に触れることもできないのだろうか。母とナギ、二人も失ってしまった私はこれからどうすれば……。

 明日からもう海岸へ来るのはやめよう。無理かも知れないけれど、ナギのことは夢だったと思って忘れるんだ。

 そう心に決めた日から学校にいても、家にいても、何も手につかず家事すらしなくなった私をなぜか父は叱らなかった。そればかりか、食べることさえ忘れてしまった私の分の食事までも作ってくれた。レトルトパックを温めただけのものではあったが。

「お父さん……ごめんなさい」

 台所へ入って来た父はいつもの作業着姿で、膝の部分が破れたままだった。

「その膝のとこ、縫ってあげるから脱いで」

「ん? ああ、ありがとう。脱衣カゴに入れておくよ」

 少しづつでも出来ることから始めなければ、本当に心が停止してしまいそうだった。それに早く元気を取り戻さなければ母が悲しむ。

 父が風呂に入っている間に縫っておこうと作業着を手に取って他にも破れていないか確かめようとした時、キラリと光るものが床に落ちた。

「……これは」

 鱗だ。モルフォ蝶の羽色に輝く、忘れもしないナギの鱗だ! でも、どうしてここに……?

 ナギはここ(研究所)にいるの!?

「ナギッ!!」

 職員がいるのもかまわず所内の部屋という部屋を探したが、ナギはどこにもいなかった。

「若葉」

 最後の一部屋である所長室のドアノブに手をかけた時、後ろから父の声がした。

「お父さん! ナギはどこにいるの!? ナギに何をしたの!!」

「……ついて来なさい」

 父はそれだけ言うと、私を研究所の裏にある車庫へ連れて行った。こんなところにナギがいるというのだろうか。

 車庫の一角にある作業場まで来ると、車体の底面を整備するために入るピットの下を指さして父は言った。

「人魚は、あの扉の向こうにいるよ」

 見ると、そこには小さな鉄の扉があった。


 その部屋は資料室のようだった。そのほとんどが人魚に関する書籍や雑誌や切り抜きで溢れかえっており、正面にあるのホワイトボードには赤いマーカーでいくつもの印が付けられた地図と海図が貼られていた。地図はこの地域のものだった。よく見ると、赤い印はナギと会った海岸にも付けられている。

 そして、隣の部屋の水槽の中にナギはいた。

 ナギは私を見つけると、エメラルド色の目を輝かせ安心したように笑った。

「ナギ! 大丈夫? 酷いことされなかった?」

『若葉ノオ父サント、話シテタ』

「話を?」

 父には聞きたいことが山ほどあったが、その中でも一番に聞きたいのはなぜナギがここにいるかということだ。

「この前の満月の水曜日、わたし宛てに匿名で手紙が届いた。書かれていた時間に指定された場所へ行ってみると彼がいたんだよ」

 それじゃ、誰かがナギのことを父に密告したというの!? いったい誰が? 何の目的で?

 会いたいばかりに警戒心が欠けていた私は、その誰かに後をつけられていたに違いない。自分に対する怒りと密告者に対する怒りが入り混じった感情を父にぶつける他なかった。

「それでお父さんはナギを捕まえたのね! 自分の研究のために!」

『チガウ、若葉。若葉のオ父サンダカラ来タ。自分カラ来タ』

「そんな……ナギは自分からこんな狭い水槽に入ったって言うの?」

「若葉、わたしの話を聞いてほしい」

 父はそう言うと、自分が子供の頃に出会った教師がきっかけで人魚の存在を知り、捜し求めるようになったこと。それはウミカノンと呼ばれ、昔から人魚と深い関わりを持つ人々がいる地域を突き止めた結果、この海域に人魚が実在すると確信したからこそ大学を辞めここに赴任したことなどを話してくれた。

「かの子先生は、ずっと人魚の王国を探していたんだ」

「お父さんは、ここにその王国があるというの?」

 父は何も答えない。答えないかわりに懐かしむような表情でナギを見た。ナギの目の中に先生の姿が映し出されているかのように。 

「それより、いつまでナギをこんなところへ入れておく気なの? 早く出してあげて」

「まだ彼らの体内時計について調べたいことがあるんだ」

 時間軸のことだ。確かに地球の上では太陽の周期に変わりはないはずなのに、海中では違うというのが不思議だった。

「それって、人間と人魚の時間に対する認識というか……感覚の問題じゃないの?」

「いや、どうもそうではないらしいんだ。その証拠に細胞分裂のスピードが人間の数十倍遅いことがわかった。次は遺伝子レベルで調べてみないと詳しいことはわからない」

 数年かかってやっと一つ歳をとる……私と同じ十六歳になるまでにかかる年月を考えると、なんて途方もない時間を費やさなければならないのか。

 それじゃ私がお婆さんになっても、ナギは今とほとんど変わらない姿なんだね。私だけが歳をとっていくんだね……。

 でも、それが人魚を好きになるということなのだ。

「ナギはいつまでここにいるの? 海に帰りたくないの?」

『若葉ト、ズット一緒ニイタイ』

「私もよ」

「それは駄目だ。お前たちが一緒になることは許されない」

「どうして!? 時間軸が違うから? それなら私、覚悟はできてるよ!」

「彼らに流れている時間は人間の時計では計り得ない。傷つくのは若葉、お前だよ」

 そんなことわかってる。わかっているからこそ、今のナギとの時間を大切にしたいと思うのはいけないことなの?

 …………吐き気がする。

 最近ずっと体調が悪いせいか、嘔吐することがしばしばあった。近くのシンクに駆け寄ると、いつものようにほとんど空の胃袋からは胃液しか出ず苦しかった。

『若葉、ドウシタ!?』

 ナギの不安が私に流れ込んでくるのが感じられた。いけない、余計な心配をかけては。

「若葉! お前、まさか……」

 父の反応でわかった。確信は、あった。

 ガラス越しでなければ、父はナギを殴っていただろうか。

 私たちを責めるでもなく無言で部屋を出て行った父が、左目だけに人魚の目を持つかの子先生のことを考えていなかったとどうして言いきれるだろう。

 ナギと私の子供が何をどう受け継いで生まれてくるか、私には不安などなかった。


◆ ◆ ◆


「なんでそんな大事なこと言ってくれなかったのよ!」

 魚を届けに来てくれたカンナに、すべてを打ち明けた。

 母が亡くなった嵐の日にナギと会ったこと、父の研究のこと、密告のこと、そして……私のお腹の中にいる赤ちゃんのこと。

「だって、カンナが信じてくれるとは思ってなかったんだもん」

「若葉、こー見えてもあたし漁師の娘だよ。ウミカノンを信じられなくてどーすんのさ!」

「ごめん……」

 私は迷った末に、カンナをナギに会わせることにした。あの部屋の鍵は父から渡されていたので、いつでもナギの傍にいることができた。

 ナギを見たカンナは躊躇することなく真っ直ぐ水槽へ近づくと、深々と頭を下げて言った。

「あたし、十年前に海で溺れているところをウミカノンに助けていただきました。あの時は、本当にありがとうございました!」

「カンナ、今の話って」

 地元の漁師たちの間で語り継がれているウミカノンの伝説。迷った船の水先案内、豊漁の漁場、そして……溺れた子供が助けられた話。

 ナギはカンナの言葉を優しく受け止めていた。

「若葉、あたし何があっても応援するからね。絶対に負けちゃダメだよ!」

「ありがとう、カンナ」

「そっか、相手がウミカノンならイケメンだってのも納得だわ~」

 久しぶりにカンナとふたりで笑った。そんな私たちをナギは不思議そうに、でもとても優しい眼差しで見つめていた。

 帰り際、カンナは急に真面目な顔で思いつめたようにつぶやいた。

「若葉の親父さんにチクッたの、きっとイッポだよ」

「え、なんで岡田くんがそんなこと」

「イッポはずっと若葉のことが好きだった。だから若葉に彼氏ができたことを知って後をつけたんだ。そうに決まってる」

 ショックだった。あの優等生で人気者の岡田くんが、そんな卑怯なことをするなんて信じられなかった。それに、カンナの言う理由だけで決めつけるには納得がいかない気がする。

「理由はあるよ。イッポはウミカノンを憎んでる。お兄さんをウミカノンに殺されたと思っているからね」

 それは四年前、青ケ岬近くの海岸で発見された男性の水死体と、その周りに散らばっていた銀色の鱗だった。男性の身元は市内の高校に通う岡田一也(当時十八歳)。死因は溺死で鱗は一也が釣り上げた魚のものと判断され、目撃者がいなかったことから釣りの最中に誤って岩場から転落死した事故として処理された。

 だが一也の弟、一歩(当時十四歳)は、人魚が兄を殺したのだと言い張っていたという。なぜなら一也は死の直前、一歩の携帯電話に「人魚を捕まえた」と連絡してきたからだ。

 一歩が現場に着くと、すでに一也は心肺停止の状態で辺りには人魚のものと思われる鱗が散乱していたのだ。

 いくらこの地域の者が人魚をウミカンと崇め、その存在を否定しないからといって、さすがに警察は人魚を殺人犯として指名手配するはずもなく一歩の主張は相手にされなかった。

 それが原因だとすれば逆恨みにもほどがある。

「私、岡田くんに会って確かめてくる」

「あたしも行くよ」


 岡田一歩の家は学校からさほど遠くない高台の新興住宅地にあった。

 兄の死後、悲しみに暮れる両親が海に近い旧市街からここへ移ることを望んだのだという。

 岡田くんは外出するところだったのか、家から出てきたところで私たちの姿を見つけると、やっぱり来たかというような顔でニヤリと笑った。

「今から塾だったけど今日は休むわ。おまえら、僕に用があって来たんだろ?」

 こちらの用件はわかっているとでも言うように、家には誰もいないからと部屋へ通された。岡田くんの部屋は参考書や勉強道具以外の物が置かれていない殺風景な部屋だったが、机の上にある写真立てには彼によく似た男性の写真が飾られていた。

 きっと四年前に亡くなったお兄さんの一也さんに違いない。

「それで話って、人魚のことだろ?」

「やっぱりイッポだったんだね、若葉の親父さんにチクッたのは!」

 カンナの言葉を岡田くんは否定しなかった。それが答えだとでも言うように。

「岡田くん、どうして? どうしてそんなことを……」

「決まってるじゃないか、浜崎さんを助けるためだよ。僕は浜崎さんが傷つく姿を見たくないから……」

 今にも泣き出しそうな表情で、そう訴える岡田くんの誤解を解こうと私は言葉を探した。すると、

「……なーんてね、きれいごとはここまでだ。なんなら、僕があの化け物を殺したってよかったんだぜ。そうしなかったのは、もっと苦しい目にあわせてやろうと思ってさ。浜崎んとこの親父さん、生物学者なんだろ? 化け物は化け物らしく研究のために切り刻まれて、ネットで世界中の見世物になればいいってね!」

 これがあの岡田くん!? 今までに見たことがない醜い顔で、言葉で、罪悪感のかけらもなく「殺す」と言ったのは、本当に岡田くんなの?

「最低だよ、イッポ。あんたの兄さんはウミカノンに殺されたんじゃない。その反対で人魚を殺そうとしてたんだよ!」

「は? カンナ、おまえなにバカ言ってんの? 兄さんがそんなことするわけないじゃん」

 どういうことなの? 岡田くんのお兄さんがどうしたっていうの?

「幼なじみだと思ってイッポには黙ってたけど、一也はずっと人魚を探してた。なぜだと思う? 六歳の時、ウミカノンに助けられたあたしに一也はこう言ったんだ「惜しいことしたなぁ、カンナ。あいつらの肉食ったら溺れて死ぬこともなくなるんだぜ。なんたって不老不死になるんだからな」ってね。そしてこうも言ったんだ「また人魚に会ったら誰にも言わず俺にすぐ知らせろ」…………って」 

「……ははは、なに言ってんだおまえ。頭おかしいんじゃねーの?」

「頭がおかしかったのは一也の方だよ」

 なに……カンナと岡田くんは何の話をしているの? わからない……なんだか気分が悪くなってきた。

「若葉、帰ろう。言いたいことは全部言ったから」

「待てよカンナ! 僕の兄さんがそんなことするもんかっ。兄さんは化け物に殺されたんだ!」

「ウミカノンを化け物呼ばわりするとバチが当たるよ! それにもし、人魚がイッポの兄さんを殺したんだとしても……それは正当防衛だ」

 吐き捨てるようにカンナはそう言うと、何かわめいている岡田くんを部屋に残し私たちは家を出た。


◆ ◆ ◆


 お腹の赤ちゃんは人間の時間軸の中で順調に育ち、出産予定日の春を迎えた。

 高校は昨年末付けで休学届を提出したが、妊婦姿では卒業式に出席できず退学になったも同然という形で学校を後にした。

 カンナは卒業後も地元に残って喫茶店で働きながら私の出産を見届けるんだと張り切っている。

 岡田くんは東京の大学に進学した。上京する前日に研究所へやって来て、何も言わず安産のお守りを置いて行った。どうやら彼なりの謝罪のつもりらしい。大学では宇宙工学を学ぶそうだ。

 父は無関心を装っているが、所長室の机の下にはおもちゃ屋さんの包装紙に包まれた箱が日ごと増え続けている。

 天国の母へは毎日ささいなことでも報告している。とくに初産への不安は母に語りかけることにより自分への励ましにもなっていた。

 私は身軽なうちに小型船舶の免許を取得し、海へ戻ったナギとは青ケ岬の沖合で会っていた。

「ナギ、次に来る時はふたりになってるかも知れないよ」

 ナギは大きくなった私のお腹に触れ、優しく抱きしめてくれた。


 そして、桜の花が満開になるのを待っていたかのようにマモルは産まれた。

 マモル……約束をマモル人、自然をマモル人、そして家族や友人、恋人をマモル人になってほしいと願い付けた名前。







「マモルーっ! 早く用意しなさい。もう行くわよ」

 今日はマモル、五歳の誕生日。そしてナギに会いに行く日だ。

「おい若葉、今日は海が荒れているから舟を出すのは無理じゃないのか?」

「大丈夫よ、お父さん。何かあったらナギたちが助けてくれるわ」

「おじいちゃん、行ってきま~す!」

 マモルはどこから見ても人間の子供と変わりはなかった。お友達と同じように一年に一歳大きくなり、今年からは幼稚園の年長さんだ。

 ただひとつ、ナギに会う日に限りマモルに変化が現れた。

 目が、目の色がエメラルドグリーングリーンに変わり白眼(はくがん)が無くなる。ナギとそっくりになるのが私には嬉しかった。

 港に着くと停泊中の舟が岸壁にぶつかり不気味な音をたてていた。しかし、これくらいの時化で怯えていたら海流が複雑な青ケ岬近海に出ることなんかできない。

「マモル、しっかりつかまってなさい!」

 私は暴れ馬のように上下する舟を出すと、いつもの地点へ向かった。港の中でさえあの荒れようだ。沖は予想以上に波がうねり舟の舵が思うようにならない。三角波にぶつかりでもしたらこんな小さな舟はひとたまりもないだろう。

 せめて不知火のひとつでも見えればそれを頼りに進めるのだが……。

「おかあさーん! おかあさーん!」

「なに、マモル? お母さん手が離せないのよ!」

 さっきからマモルが何か叫んでいるが、舟のバランスを保つのに精一杯なのと波の音にかき消されて、私にはマモルの声を受け止める余裕が無かった。

 そして、そんな私に届かなければならないはずの声が届くはずも無かった。

「おかあさーん、そっちダメ! そっち、おとーさんが後ろに……!」

 マモルが言わんとしていることを理解した時には、すべてが終わっていた。

「ナギーーーーーーーーッ!!」

 思わず飛び込んだ海中には、モルフォ蝶の羽が舞っていた。ナギの姿はどこにも見えなかったが、舞い落ちる雪のように海底へ向かって沈んでいく青い鱗を追いかけて、私も深く深く……ナギを探して……落ちていく……。



     ◆ ◆ ◆



 そらを見上げると、今日もスペースビークルが軌道を描いて宇宙へと飛び立っていくのが見える。

 海上はスペースポートの建設ラッシュにより埋め立てが進み、砂浜は徐々にその姿を消している今日このごろだ。

 クラスメイトの男子の夢は宇宙飛行士。ほんの数十年前までは幼稚園児が見る夢だと思われていたこの職業も、今では立派な地方公務員の座を得ている。

 俺は将来何になるんだろう。いや、何になりたいんだ?

「浜崎マモルくん! 明日のテスト、英語教えてっ」

 俺をフルネームで呼ぶ学級委員長の川村奈緒は英語が苦手だ。主語と述語の位置関係だけでも理解に苦しむのに、そこへ接続詞が入ってくるとも~何がなんだか! ……だ、そうだ。

「川村、明日の放課後だけど時間ある?」

「明後日のテストは得意の古文だからいいよ、なに?」

「あぁ、やっぱいいわ。忘れてくれ」

「気になるじゃん、なによ!」

「……命日なんだ。明日」

「あ! そっか」

 俺の両親のことは川村だけが知っている。そして一度だけ、俺の目が変化したことも。

「べつにいいって。川村には関係ないことだし」

「あるわよ! だって、浜崎マモルくんの誕生日だもん」

「あ」

 それは、今年も桜が満開の季節。


~ 終わり ~





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