ピエロ
風呂上がりのビールは最高だ。
俺は今日もデスクワークをこなし、そんな自分に乾杯するために冷蔵庫からビールを取り出す。
つまみが切れていることが、気持ちを萎えさせるが、今から買いにいこうとも思わない。
仕方なくビール片手にソファーに向かう。
安いソファーに腰を落とし、テレビを付ける。お気に入りの番組が流れていたので、嬉しかった。
ふと、視線を右に向ける。
やはりあいつは今日もいる。
ピエロ。
そうピエロ。
赤い鼻に白塗りの顔。奇抜なファッションを見に纏い、皆を笑わかす道化。
奴がそこにいる。
もう大分前からそこにいるので、最近は慣れてきた。話しかけようとは思わないが。
奴は、数ヶ月前から俺の家のソファーに座ってテレビを見ている。
消しても見ている。
番組に文句も言わない。ただ見ている。
初めて見たときはどうしようかと思ったが、不思議と誰かに相談しようとは思わなかった。警察に連絡しようともしなかった。
そして今に至る。
食べ物が減っている気配はなく。何かが無くなっているわけでもない。
そうなるとなんだこいつという気持ちが沸いてこなくもないが、こいつはなにもしない。
文字通りなにもしない。
生物かも分かんないし、食事を必要とするのかも。
でもまあ。
今はソファーの一角で、テレビ向かって座っているだけだ。
危害は、加えて来ないとおもう。
× × ×
ピエロが消えた。
普通に考えたら良いことだが、逆に怖かった。
今までいたのが普通だと思ってた。動かないと思っていたピエロが消えたのだ。
動いた?
身の危険を、その時初めて感じた。
あのピエロは、今この瞬間にも、俺を狙っているかも知れない。
すぐ後ろにいるかも。
嘲笑っているかも。
怖い怖い怖い。
俺は誰かにこの事を伝えようとした。
ポケットを探り、周辺を確認。寝室を確認。しかしどこにも携帯はない。
携帯がないなら直接ここから出て伝えにいこう。俺はドアに向かった。
が、ドアは開かない。鍵は開いてるし、中から開けれない鍵ほど使えないものはない。
俺はマジックをしているんじゃないんだ。
この際だ、ドア位壊してもいいだろう。と、ドアを壊すものを探す。
でも、この部屋にもう物は存在しなかった。
有るとしたら、あのソファーとテレビ。
そしてそこにピエロはいた。
テレビを見てはいない。
俺を見ている。
じっと。
テレビには俺が写っていた。
頭だけ。
「うわぁ!」
急いでドアを開けようとするが、開かない。
今も見てるんだろうか。
殺される。
なんでずっとあいつをほっておいたのか。
自分を攻めることしか、今の俺には出来ない。
× × ×
という夢をみた。
ピエロが消えるという夢であって、ピエロはそこにいる。
やっぱりテレビを見ていて、動かない。
俺を見ない。
まあピエロだしな。
そう思って、今日も会社に行く。
平凡な日常だな。
米浜孝二は、今日も会社に行く。
~電車で十五分。大きくはなく、給料は低い。休みは少ないし、楽しくない。上司は怖い。ピエロよりもずっと~