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New Frontier【改稿対象】  作者: 小林汐希
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2話

「あれ? そういえば午前中の便はもう来た?」


 海に突き出した係留デッキ。そこに停泊している小型潜水艇に乗ってメンテナンスをしている少女がインカムを使ってもう一人を呼び出す。


『いいえ。午前の便は運休だそうよ。機材故障だって連絡が入ったから』


 インカムの先からは、落ち着いたやはり少女の声が聞こえてくる。


「ンモー。だから早く整備しなさいって昨日言ったのに……。なんか音が変だったんだから」


 その少女は頭を突っ込んでいた機器室から顔を上げると不機嫌そうに言った。


弥咲(みさき)ったらそんなに怒らないの。ローカルボートじゃそんなに運休もできないだろうし。本当に壊れちゃったんなら仕方ないけど』


 弥咲と呼ばれた少女の前には、先ほどのインカムからの音声だけではなく、空中にホログラムで平面のモニターが映し出されており、そこには声の主が映っていた。


「だって、凪紗(なぎさ)。今日は普通の日じゃないんだよ? 新しい所長が来るって言うのにさ。しかもその便で?」

『それもそうね……。お昼前には着くって言ってたから、奏空(そら)ちゃんも四人分のお昼を用意するって言ってたね。どうすんのかな』


 モニターの向こう側の凪紗という少女も重要なことを思い出したようだ。


『どのみち午後の便が到着するまではおあずけになりそうじゃない。あたしちょっとこのボートの試運転してくるから許可クリアよろしく!』


「はいはい。そういえばちゃんと制服着てなきゃダメじゃない。襟が付いてないわよ」

『誰も見てないんだもん。固いこと言わない』


 凪紗の目の前のモニターに映っている白い半袖ブラウスにチャコールグレーのスラックス姿の弥咲は、工具を片付けるといままで修理していた潜水船に乗り込んだ。


『コントロール、こちら弥咲、これからテスト行きます。コミュニケーションはいかが?』

「こちらALICEコントロール。コミュニケーションは良好」

『了解。では近海航行試験と、高速による到着(アプローチ)試験行うけどOK?』


「そうすると、到着試験だと波が立つわね。まぁその時は連絡するわ」

『おねがーい!』


「付近に航行中の船舶及び航空機は無し。いつでもいいよ」

『了解!』


 その声が終わるか終わらないかのうちに、船は大きなしぶきを上げてデッキを離れた。


「まったく……。相変わらず無茶な操縦するんだから……」


 モニターではなく凪紗がいる管制室からでもその勢いで起きる白波が分かるほどだ。


「ちょっと、あんまり調子に乗って事故ったりしないでよ?」

『はいはい。これから潜行するからレーダーから目を離さないでよ?』

「分かってる」


 言われなくてもこのポートを中心とする三次元レーダーのスイッチは常時つけっぱなしだ。海上に設置されている港には、上空から、海上から、海中からの3つのアプローチの可能性があるから、平面の2次元レーダーでは捕捉しきれないからで、凪紗もそれを見ながら接近許可を出したりするのだが……。


「あれ? 珍しいわね……」


 そのレーダーの中にはこれまで弥咲が乗り回す試験艇くらいしか表示されていなかったのだが、海中から1艘の小さなボートが近づいているのを見つけた。


「このコースだと、うちへの接近コースね。何かあったのかしら?」


 広い海とはいえ海底などの複雑な地形の影響や他の移動物との衝突を避けるために、それぞれのポートには到着と出発コースが設定されている。今のところ弥咲の試験はそのコース外で行われているので、影響はないが注意しておいた方がいいだろう。


 凪紗はレーダーのモニターに表示されたボートにコンタクトを取るようにコンピュータに指示を出す。すぐに設定完了の表示に変わった。


「こちらALICEポートのコントロールです。そちらのコールを教えてください」

『ALICEポート、こちらは第4ハブのタキシング1。現在到着の海中コースを航行中です。許可をお願いします』


「到着ですね。許可します。現在コース外にて試験艇が訓練中です。ニアミスなどに注意してください。到着はオートモードにて行います」

『自動モードで到着、了解』


 こうしておけば、あとは凪紗が指示を出したり相手の操縦士が操縦しなくても、双方のコンピュータ同士が通信し合って自動で接岸まで行ってくれる。この時代でも最新鋭の設備だ。


「奏空ちゃん、お客さまみたいだからデッキまでお出迎えできる?」


 凪紗はもう一人のメンバーを呼び出す。奏空はちょうど昼食の準備をしているところで人数がどうなるか……と考え込んでいたところだった。


「はーい。お出迎えですね」


 奏空は準備を途中でやめて急いでダイニングフロアを飛び出した。


「凪紗ちゃん、お客さまのお名前とかは?」

『今確認中だよ』


 小規模なポートとは言っても、接岸デッキの長さは大型の星間連絡船が到着できるほどはある。


 奏空がぱたぱたと接岸場所に走り寄るのと、海上に浮上した船が到着したのはほぼ同時だった。


「はぁはぁ……。いらっしゃいませぇ。ようこそいらっしゃいました」


 そう言いながらデッキと船の間に板を渡す。

 扉が開いて、中に乗っていたのは意外にも同じくらいの少女だった。


「はい、荷物をお持ちしますね」


 中からキャリーバックを受け取りデッキの上に置く。そしていよいよ本人が降りようとした瞬間……。


「いかん。波が来るぞ!」

「ほえ?」


 船長が叫ぶのと、その少女が振り向くのが同時だった。


「危ない!」


 突然、穏やかだった水面に大きな波が立った。通常の定期便などの船ではびくともしない程度でも、この数人乗りの小さな船ではかなりショックを受けて上下左右にふられる。


 奏空が彼女の手をつかんだまではよかった。しかし少女が後ろに振り向いていたことと、揺れが予想以上に大きかったためか二人ともバランスを崩してしまう。


「きゃー!」

「ほえぇ~!」


 派手に2つの水しぶきが上がった時には、再び海は静けさを取り戻していた。


「大丈夫か?」


 船の上から、船長が覗きこんでいる。


「二人とも大丈夫……。でもお客様が……」


 点検用のステップを使って、先に少女を上がらせて、次に奏空もデッキに上がった。


「二人とも大丈夫!?」

 叫びながら凪紗が猛然と走ってくる。


「はぁはぁ……。もぉ、弥咲のバカぁ……」


 ようやく息が落ち着いてくる頃には、大波を立てた犯人も駆けつけてきた。


「すみません! 怪我はなかったですか!?」

「怪我はないけど、お客様こんなにしちゃってどーすんの?」


 自分も水浸しになってしまった奏空の抗議なので、弥咲も平謝りだ。


「あの……。お客様のお名前とご予定をお伺いしてもよろしいでしょうか? お時間があればお洗濯とこの後の便の調整などをさせていただきますので」


 凪紗がデッキに置いてあった荷物を持ち上げながら尋ねる。荷物はキャリーケース1つだけだが、重量はそれなりにあった。長旅だすると今後の便を確認しなければならないかもしれない。


 しかし、そんな凪紗の予想を全く覆す答えが返ってきた。


「えーとぉ……。今日からお世話になります、松木渚珠ですぅ。よろしくおねがいしますぅ」


「はぃ??」

「はぁ…………?」

「えっとーー?」


 三人は自分たちに頭を下げた少女をぽかんとした様子でみつめた。


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