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心頼り  作者: 凛
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5月上旬

「ここ、あたしの部室。」


そう言って旭さんが指さしたのは美術室でした。

「…美術部?」


あらかた一通りの部活を見学した私でさえ、その名前を見ていませんでした。

「そう、美術部。入って入って。」


旭さんに手を引かれて中に入ると、最初に沢山のデッサン、水彩画、模写、平面構成、色んな絵が床に散らばっているのが目に入りました。

どれもクオリティの高いもので、美術的感性の皆無な私でさえ感動した記憶があります。


「…これって…」

美術部の人達の作品ですか?

そう尋ねると、旭さんは少し寂しそうに笑いました。


「違うの。これ全部あたしの作品。」

「え?」

はっとなって周りを見渡すと、教室には私と旭さん以外に誰もいなくて。

よくわからなくなって黙っていると、旭さんが意外な一言を発しました。


「美術部ってね、数年前に廃部になってるの。」

「えっ。」

「漫研とかステンドグラスだとか油絵サークルだとか、色んな部活あるからねー。部員足りなくて廃部になっちゃったみたいなの。」

「えっ。」


それはつまり旭さんは、数年前に無くなった筈の部活に入部しているということで。

「…旭さんは、ほんとに美術部なんですか…?」


無くなった筈の部活に入部できるはずがない。もしかして旭さんはとんでもないことをしているのか?


「そう。でも普通の美術部じゃなくて、ちょっと特殊な美術部員なの。」

「特殊な?」

「うん。あたし、どうしても美術を学ばなくちゃいけないのに美術部が無かったから。ここで作品作って、美術の先生に見せることで一応、正式に部活に入部してないの。」

「あ。」


つまり、旭さんはここで美術の活動をする代わりに、部活の入部をしなくても済んでいるということでした。

あれだけ探しても見つからないのも当たり前でした。旭さんは無くなった筈の美術部に居たのだから。


「そっか… そっか。」

そこで私は随分と安心しました。

と、同時に旭さんを疑っていたことへの罪悪感に苛まれるのです。

旭さんへの罪悪感を感じるのは何度目でしょうか。

私はほとほと自分に呆れました。


「ずっとここに一人でいるから、つまんなくてたまに抜け出しちゃうの。偶然依利ちゃんに会えて良かったなあ」

「私も、…良かったです。先輩とお話出来て。」


その時私は誤解したままだとか、見ているだけで終わらなくて良かったと感じたのです。

旭さんが傍にいて、私なんかと話してくれることが、見ていることよりもとても嬉しいことでした。


「あたしいつもここに一人でいるから…。また来てくれると嬉しいな。」


「はい。」


夕日に照らされていたせいでしょうか

その時の旭さんの笑顔が、消え入りそうな程寂しげで

何か、私の心を頼りにしているような、私にすがっているような

そんな気がして、私はそれから益々彼女のことが頭から離れなくなってしまって


それから私は、放課後は旭さんの元へ頻繁に通うようになりました。

見るたびに、目が合う度に、話すたびに、

どんどん深みにはまっていくように、

もっと彼女のことを知りたい、そう願うようになりました。

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