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心頼り  作者: 凛
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5月上旬

それから私と旭さんが直接会うことはなく、私が一方的に彼女を見つけて只見ている、ということの繰り返しでした。

旭さんはいつ見ても美人で、常に私の憧れの的でした。

私は授業中もぼんやりと旭さんのことを考えるのです。

旭さんの笑顔、旭さんの声、旭さんの優しさ。

ですが彼女に遭遇する度に、逃げてしまう自分もいたのです。

旭さんをまるで女優のように持ち上げておきながら、そのたびに自分が逃げているような感覚に陥っていました。

また、旭さんに対する罪悪感を抱くのです。

そんな相談を持ち掛けると、椿は旭ともっと仲良くなればいいじゃない、と笑いました。


そんな生活を送っているうちに、あっという間に4月が終わりを告げようとしていました。

「もう桜も散ってしまいましたね。葉桜も少しはあるけれど…」

椿が部室の窓から少し身を乗り出してそこから見える桜の木々を眺めていました。椿の表情は少し悲しそうで、

けだるそうにパイプ椅子に座って様子を見ていた司の表情も、少し悲しさを帯びていたように感じました。

「あたしの入学式の時は桜、満開だったのに。」

私の呟きに椿はぼんやりと、うーん、というように返事をしました。

「綺麗なものの形が崩れるのって、何か…見たくないよな」

それまで黙っていた柚希が急に喋りだしたせいか、司がチッと舌打ちをしました。それに驚いたのか柚希のパイプ椅子がガタガタと音を立てる音が聞こえました。

私も確かに、それまで美しかったものが壊れるところは見たくはありませんでした。だから柚希の発言に特に何も意見しませんでした。

ですがそこで司が口を開きました。

「俺は別に嫌いじゃねんだよ。…綺麗なものが壊れる瞬間、むしろそれが一番綺麗な瞬間だと思う」


司の発言は当時の私にはよく理解できませんでした。

そこで椿が次に口を開きました。

「確かにね。そういう瞬間も悪くはないと思います」

「なんで?」

そう言ったのは私ではなく、柚希だったかと思います。

椿は一つ笑うと葉桜を眺めながら言いました。

「積み上げて来た美しさよりも、その美しさが欠ける瞬間のほうが美しいというのは、古来から日本人は深く感じていたように思えるんです。…私もそう思うんです。」


椿は視線を此方に向けて、にこりと笑いました。

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