4月某日
言葉通り、次の日彼女は私の教室に来ました。
私はまさか本当に本心から彼女が来るとは考えていなかったので、驚きと同時に彼女は変わった人だ、と最初に思いました。
先輩、という歳上であるはずの彼女がわざわざ一年生の私の教室に来る、という事実が私にとっても、周囲の人間にとっても、驚きの対象でしか無かったのです。
入学したてでまだ周りの人間でさえ把握出来ていない時期でしたから、私は注目の的でした。
「あ、あの。先輩こんにちは。」
「どうも、こんにちは。」
彼女は一人で来たようではありませんでした。
彼女の後ろにはこちらに全く興味の無さそうな女の人が一人、けだるそうに廊下を見つめていました。反対に旭さんは随分上機嫌な様子でこちらにニコニコと優しく笑いかけるのです。
私はというとあの高嶺の花である旭さんが、わざわざ年下である私の所へ来てくれていたことへの緊張と嬉しさで妙にドキドキしていました。
「あ、す、すいません。私が行くべきでしたよね」
「良いの。私が来たかったし、それに依利ちゃんだって入学したてで、まだ道順とかよくわかってないでしょ?」
その時私は、彼女の本当の性格を垣間見た気がしたのです。
チャラチャラしているように見えたのは、先輩がとても美人で明るい人だからであって。
本当はこうやって人の立場に立って気配りが出来る、その辺のチャラチャラして自己中な人達とは根底から違ったのです。
その瞬間、私から見た彼女の印象は180度変わり、優しくて安心できるというか、頼れるお姉さんのようだと感じたのです。
そして同時に何だか旭さんに苦手意識を持っていたことに罪悪感を感じました。
「ありがとうございます、先輩」
ポスターを貰ったこと、旭さんの優しいづかいへのお礼、そして旭さんへのささやかな謝罪の言葉を言ったつもりでした。
しかし旭さんは一瞬驚いたように何度か瞬きし、笑いました。
「大丈夫だよ。依利ちゃんは良い子ね。」
そう言って私の頭を数回ポンポンと撫でました。
私は何だか少し恥ずかしいけれど、それよりも嬉しさが勝ってしまっていたのです。