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帝国の自動人形

作者: テトラ

宜しくお願いします、誤字、脱字、造語、当て字と数多く有ります

気にせずに流して読んでください

失礼します

レイセント帝国が世界の覇者となり数十年、帝都から南へ数千キロ離れた

田園が広がりのどかな風景が見られる、人口10万人ほどの地方都市に

南セントリア魔道学院は在る、巨大な白い建物群が幾つか立ち並んでいる


その建物群の建物の一室に在る医療事務室

赤茶色の長いクセ毛を腰まで伸ばした小柄な生徒が、目の前に座る女性学院職員の話に

耳をかたむけている


目の前の机の上に積み上げられている分厚い診断報告書を、指さしながら学院職員は

沈痛な表情を浮かべながら、目の前で身を固くし視線が落ち着かず挙動不審の小柄な生徒へと

ゆっくりと話しだす


「病名と言うのは、適当ではないんだけど

 ミラさんは中度魔力認識障害です、簡単に言えば難しい魔法は使えない


 貴方の場合は後天的じゃなくて、先天的魔力認識障害

 治療方法は未だ見つかっておりません、貴方のご両親が持っている魔力認識障害の因子

 おそらく優勢遺伝子だったんでしょう、それが発現したんだと思います 


 優勢というのは、次の世代に発現する可能性が高いということ

 逆に劣勢遺伝子は、発現しずらいということです


 ご両親もおそらく高度な魔法は使えない筈です」


椅子に腰かけていた小柄なミラは、学院職員を見ること無く

小さく頷く


「でミラさんは、蘇生科に進学希望かな?

 私の個人的意見としては、勧めません」


学院職員は目の前に座るミラへと、唾を飛ばすほど大きな声で言い切った

興奮した様子で最後には絶叫した様な様子で、言い終わる


目を血走らせ大きな目を更に見開き、椅子から勢いよく立ち上がった

椅子が、床に倒れ大きな音をたて倒れるが

気にも留めずに、ビシッとミラに指を差す


「ギリギリなんですからねミラさんは、規定では中度魔力認識障害を持つ生徒の蘇生科への推薦は

 ありえないもです、しかし蘇生師が現在皆無だからといって許可するなんて

 学院は生徒を何だと思っているんですか


 蘇生師なんて、全身全霊全てを懸けてやっと認められても

 90%の蘇生師は、婚姻も自由に出来ず

 子供を授かる事も出来ないのよ

 身体なんて、生存本能に因って生殖機能も消滅させる


 あとの10%は、両親が蘇生師で貴族に列なる選ばれた人だけです


 私は個人的には絶対反対、反対

 でもね、蘇生師は必要なのです

 限られ選ばれた人しか、蘇生魔法の恩恵受けられる現状を打破するには

 いたしかた無い事なのかもしれませんが


 貴方の様に、魔力認識障害を持つ魔道師が蘇生魔法を扱うという事は

 魔力が暴走して不測の事態が起きる可能性が高いという事なのに

 しかし貴方を蘇生科へと、推薦しなければいけない事実が恨めしい


 大事な学院生徒が傷つくなんて私はなんて無力なの」



学院職員は倒れていた椅子を、屈み両手を使い元の位置へと直し

大きく息を吐くと、大きな黒い皮の鞄を乱暴に開け

驚きの表情をうかべるミラに

蘇生科への推薦書を突きつけると、不機嫌そうに医療室を後にした













医療室の大きなドアが閉まり、大きな音が響きわたる

ミラはビクっとし、下を向いていた顔をゆっくりと上げると

閉まったドアを見つめる

(ウザイなあの人、もう戻ってくるな)


学院職員に乱暴に突き出された推薦書を、手に取り読み始めると彼女は署名欄で目を留める

(やっぱり保護者のサインが必要、私のサインで誤魔化せないかな

 面倒だし説得するの)



ミラは両手で大きな鞄の口を開けると、推薦書が折り曲がらない様に丁寧に入れる


彼女は、医療室の大きなドアを両手で億劫そうに開けると

何時もは小さな歩幅を大きく広げ、不機嫌そうな表情を浮かべながら歩き去る


ミラは、今は別々に住んでいる両親の説得方法を考えながら

歩き慣れた学院を早足で歩いていく


太陽光が降り注ぎ洒落た造りの、円形のエントランスを通り過ぎ

広葉樹が道の両端に植えられている、大きな道幅の道の左端を

彼女は、真っ直ぐに蛇行する事無く進んでいく


歩いている学院生徒の姿は皆無で、鳩が我が物顔で闊歩している


ミラは大きな黒い鉄製の円形の正門を出ると、金属製の転送装置へと歩みを進める

白色の階段を数段上がり、肩からズリ落ちかけた鞄を肩にかけ直すと

中央に鎮座する転送装置に、ゆっくりと手を置く


ミラの、長いクセ毛の髪の毛がフワッと逆立つ

一瞬眩い光が強く発光すると、その場は無人となった



















要人保護プログラムの対象者である、ミラの姉のミリアは

神と同等とみなされ信仰対象でもある、精霊を制御し仕役する魔法理論を帝国アカデミーで

発表するという暴挙にでて、自宅軟禁生活を20年強いられている


以前は、二重あごで首の存在が確認出来ないほど

脂肪で顔がパンパンに膨れ、目も開けずらそうに何時も目を細めて生活し

顔から首にかけ、ニキビが目立ち、服を着ていても大きな腹が目立つ肥満体形であったが


20年の軟禁生活と心労により、身体全体の肉がそぎ落ち

顔は、骸骨そのものの容姿へと変貌していた


そんな姉の顔を見たくない為に、ミラは蘇生師の道を選択した

24時間監視されている姉と同居している為に、他人の視線に敏感になり


とても正気を保っていられないミラは、蘇生師を目指すという事で

姉がいる家から、直ぐにでも離れたい思いだけでの行動だった


ミラが何時ものように、家へと転送されると家が在ったであろう場所は

大きく抉れ、家の土台も消し飛ばされていた


何故か帝都に住んでいる、父と母が折り重なるように倒れ

誰が見ても、亡くなっている事が分かるほどの惨状がミラの前に広がる


両親の遺体は、頭部から足へと一直線に真っ二つに引き裂かれている

どす黒く変色した血液が、周辺にまき散らされ


今まさにミラの眼前で、何故か姉が宙へ浮かぶとミラの前方で砕け散った

次の瞬間にミラの眉間へと高速の光が放たれた



小さなミラの身体は後方へと飛ばされ転がっていく

(一瞬、私でも見えた姉を握り潰す精霊の姿

 両親も姉さんも居ないこの世界、嫌だ一人にしないで私を

 一人は絶対嫌だ、


 全部、姉さんが悪いのに

 責任とれ、私が無理やり生きかえらせてあげる

 私から全てを奪ったんだから苦しんでよ、姉さん)



ミラは無意識に、目の前で四散したミリアの肉片に意識を向けていた

以前、自室で熱心に読み込んだ蘇生魔法を記憶から引き出す

(姉さん、お前のせいで、私達は死んだんだよ

 行きかえって絶望して後悔して生きなよ、生きかえらせてあげるよ姉さん)



自らの精神世界に深く埋没しながらも、集中力を増して行くミラ

(苦しい、もう私死んでるのに何でこんなに苦しいの

 私の世界は、こんなにも暗く何も無いのかな

 なんで誰も・・・・)


ミラの左手が輝きだす、ルーンが螺旋状へと変化し空中へと浮かぶと

蘇生魔法は発動を止め、ミラの身体を包み込んだ





















遠くから、精霊による惨殺を監視していた帝都魔法ギルドに所属する魔導士は

あまりの光景に使い魔である小さなウサギを抱きしめ

震える手を誤魔化す為に、タバコを投げ捨てた


「なあ、今日は一緒に寝るか」


ウサギは拘束から逃れると、耳を大きく動かしマスターである魔導士を

下から見上げる


「マスター、牛蒡の様なモノで私を蹂躙するんですか

 最低ですね」



「糞ウサギ、ふざけるな

 あんなグロいの見たんだよ、怖いだろうが」


ウサギは、白い耳をピクピクと動かし大きく頷く


「マスター、では私が素晴らしい案を提案いたしましょう

 豪遊を行いましょう、帝都魔法ギルドの一番の稼ぎ頭の我が主人が

 下々の方々に、施しをするのです

 主に役立たずの、マスター以外のギルドに所属するクズ魔導士達へ」



「お前毒舌だよ、ギルド内で俺スゲー浮いてるんだぜ

 お前の発言が、俺の人間関係をカオスにしてるんだからな

 聞いてるのか?」


ウサギは伸びをすると、魔導士の身体を地を這うような姿勢から

一瞬で加速し大きく蹴りあげると、彼女のマスターは惨殺現場へと飛ばされて行く


「糞マスター、精霊は立ち去ったので現場へ行きやがれ」



魔導士は空中で体勢を立て直し、廃墟へと着地する

既に惨殺現場へと到着していた、彼の使い魔のウサギが仮死状態のミラを首を傾げながら観察していた


魔導士は、素早く簡易結界を周辺に展開する

(精霊の奴のせいで、高い魔力が残存している)


「天災先生とご両親は死亡、この子は蘇生魔法の詠唱途中で仮死化

 ウサギお前は後始末とギルドへの報告、俺はこの子を助ける」



膝を下りミラを抱えると魔導士は、瞬時に転移魔法を発動し消えさった


ウサギの鼻から赤い血がボタボタと垂れる

(流石マスター、女性には紳士ですね

 今の一連の動作は洗練されていました、軽く私昇天してしまいました)


ウサギは魔導士の結界を砕くと、腕を軽く握りながら周辺の高濃度の魔力を

高速で集束させていく、数分すると真っ黒な魔法石が形成される


(これは闇ですね、後悔、苦悶、諦め、絶望、無、

 マスターの心臓2個分の大きさです)


ウサギは首にある鍵を前方へと突きだし回転させる、空間が歪むとそのまま身体を

めり込ませ、ギルドへと帰還した









南セントリア学院教員塔


ミラを抱きかかえた魔導士は、入り口近くの階段を駆け上がる

4階へと辿り着くと、うす暗い廊下を走り抜ける

大きな足音を響かせながら、ドリー専任講師の部屋にブチ当たる様に駆けこんだ


小柄で額が広く、目をギョロっとした大きな目が抱きかかえられているミラを捉えている


「失礼いたします、先生彼女を助けて下さい」


ドリー講師は頷くと、ミラを抱える魔道士ごと研究室へと移転させる

中央に鎮座する作業台を指さす、魔導士はミラをゆっくりと横たえる


「ルーセント、彼女の繊細な情報を言いたまえ」


(身体の内部から損傷と言うより、酸化しているようだ

 少し圧力を加えると身体の内部から崩れるだろう、さっさとドールにこの子の情報を

 移した方が良いな)


ドリー講師は、大きな革製のソファーに寝そべり大きな欠伸をすると

目を閉じルーセントの言葉に耳を傾ける



「名前はミラ・アイリス

 今現在、仮死状態です蘇生魔法が中途半端に発動し術者本人に発動しています


 あくまでも私見ですが、目の前で家族を精霊に惨殺された異常な状況

 記憶にある蘇生魔法を偶然発動したと思われます


 未熟な知識、身体での無謀な術式発動により既に

 彼女本来の身体での生存は、不可能と思われます


 血縁者の、両親、姉、は既に死亡しております

 父方との縁者は、姉であるミリア嬢のあの例の論文で

 裁判所に届け出がなされ、戸籍から完全に彼女達一家の名前は削除されております 


 母方の方は、叔母にあたる方に既に同意を得ております


 因みに治療費用は全額協会が負担いたします

 なにせ、貴族と関係が一切ない

 優秀な蘇生師の卵ですから、彼女は」



「ルーセント、君の欲情する異性の特徴を素直に言え

 大事な事だから、素直に率直に直感で答えろ」


ルーセントは真剣に研究室の天井を眺め考えを纏めていく


「ロングの真っ赤な髪に、大きな胸、突き上がったヒップ

 一番重要なのは35歳以上の成熟した女性です」


ルーセントは、静かにそしてにやけたダラシナイ表情で語る


ドリー講師は、ゴミを見る様な視線を向ける


「ルーセントは帰宅しなさい、もういいから」



深く頭を下げたルーセントは、研究室を跳びはねる様に後にする

ドリー講師は、ソファーから立ち上がると目を閉じ

自身の手のひらに、魔法陣を描くと虚無の空間へと手を伸ばす


(銀髪、ルーセント何て言ったか?アイツの恋愛対象外になれば何でもいい

 外見年齢16歳)


ドリー講師は、人そのモノに見える

精巧に作り込まれた愛玩用ドールを、虚無空間からゆっくりと引きだし

作業台に寝かされているミラの、隣に横たえる


(随分、容姿が違うがミラ嬢には慣れてもらうとして

 ドールの機能を落して魔導士にカスタマイズ、正確には蘇生師だが


 愛玩用ドール標準機能一部を削除、体液、体温、表情、あとは何を削るか

 まばたき、味覚、排泄、食欲、睡眠、性欲、疑似恋愛機能、


 空いた容量には、自動自己修復機能、脱臭、クリーニング機能、

 飛散魔力集束及び自己活動転換機能、戦闘補助、魔法発動アシスト機能

 超高速二重無詠唱魔法行使及び展開アシスト、二重バックアップ


 全日記憶クリーンアップ、記憶最適化、容量増幅、記憶ファイル索引設定

 パーソナルスペース除菌、無菌機能


 メインシステム使用比率については、50パーセントを

 蘇生魔法、理論考察・詠唱発動についてのプロセスシステム

 30パーセントは、個人戦闘行為についての戦術考察、実戦システム

 20パーセントは、自己進化、自己修復、自動更新システム


 このドールの基本スペックもろもろは、身長169.8センチ、体重48キロ

 戦闘レベルS、耐久性S、俊敏性S、腕力B、思考部分にミラ嬢の思考が

 記録されてる点はマイナスだ、決断、判断にタイムラグが生じる可能性が高い

 しかしその結果、蘇生魔法が使用可能に


 思考と行動については、合理性、理論性を強化し

 感情の起伏を抑制、戦闘時又は緊急時には自動的に感情抑制、合理的論理的

 状態へ移行)



ドリー講師は、目を閉じプラグを幾つも差してあるドールに、手をかざす


幾何学的なルーンを幾重にも重なり合いながら、真横に横たえるミラに発動している

蘇生魔法にも干渉を行う























ミラが研究台の上で目を覚ますと、無言でドリー講師が小さな手鏡を手渡す

近くにある椅子を引き寄せ、鏡を凝視するミラに構う事無く早口に話しはじめた


「私は、君が在籍する南セントリア魔道学院の専任講師であるドリー

 そして、愛玩用ドールの専門家だ

 詳しくは聞かない様に、需要が有るんだから

 私には供給しなけらばならない義務が生じる


 ドールの歴史それは、数十年前レイセント帝国に対してまだ反抗する国々があった時代に

 愛玩用ドールは開発された、

 戦闘を行い高ぶった精神、身体を鎮める為に、男所帯での癒し

 新兵のストレス軽減、遊軍での兵士の・・・・


 そしてレイセント帝国が、この世界の覇者になると状況は少し変わる

 帝国を牛耳る貴族の為に、ドールは進化し今に至る

 もっぱら今は秘書的な働きが中心だ


 そしてミラ、君は今ドールの中に確かに存在している

 機械を操作してると思えばいい、乗り物でもいいが


 ミラ、君の身柄は協会預かりだ

 将来は協会に所属することが決定している


 なぜなら、ドールに君の疑似人格をダウンロード

 要は移植する為に莫大な費用を使ったからだ」


(あれは地味な作業で疲れた、ミラの脳から情報を取り出し数字と記号で

 表記し、ドールに記憶


 ミラ自身が偶然に成功した蘇生魔法、プロセス解明の為に手足の先の細かい神経の

 数値化、表記化、)


「君が蘇生魔法なんて、中途半端に成功させてしまうから

 協会に目をつけられたんだよ、君が今身につけているローブは協会の物だ


 ミラを守る為と、レイセント帝国に存在する魔法ギルドと商人組合の干渉を避ける為」

 

ドリー講師は、一気に話すと椅子へ座りミラに視線を合わせる


「ミラ、君には二つの道がある


 私は、君の身体を調べ上げ蘇生魔法の発動プロセスを解明し

 帝国アカデミーで発表した、報酬を驚くほど頂いたから


 君が望むなら、私が後見人になろう

 協会に行くのも、キャンセル出来るのだがどうする?」



目覚めてから、ずっとドリー講師の話を聞いていたミラは

少しの迷いも無く答える


「先生、私は協会に行きます

 家族も亡くなりましたし、こんな私でも必要とされてるんですよね協会に」



「確かにそうだが、まあ君が選択した事だからな


 結論は、急がなくても良いんだが

 まだ君は、此処の学院の生徒なんだから卒業までよく考えなさい


 まあ今のところ協会に行く考えのようだな君は、それならば

 君の立場は、私の助手兼生徒としておこうその方が私に都合が良い

 ミラしっかり働くように、私の事はマスターと呼んでくれて構わない」


ミラは高くなった目線に戸惑いながら、その場に立つと

ドリー講師に頭を下げる


「これから宜しくお願いします、マスター」


ドリー講師は、軽く頷く


 

















ミラが、ドリー講師の助手を務め忙しい新生活を始めてから数日後

この世の覇者レイセント帝国の帝都から南端に位置する、南セントリア魔道学院


今年も新年度が始まり、ガイダンスが終わり履修届けを提出し多くの生徒が帰宅するなか


帝都から此処南セントリア魔道学院に入学したトールは

図書館へと足を運んでいた


大きなゲート入口近くのパネルに、トールは手をかざすとゲートが開き

図書館へと入ると、1階中央に在る棚の新聞を取り出すと数分、新聞に目を通す


トールは棚に新聞を戻すと、190センチを超える大きな身体を椅子から起こす

奥にある階段へ向かうと、ゆっくりと2階へと向かう



トールの高い目線の先には、椅子に座り読書をするミラの姿が目に入る

銀髪のクセの無い長い髪が、目にかかり視界が狭くなっていたが

特に気にもせず早い速度で、細く白い指でページをめくっていた


(珍しい銀髪、左右対称の顔、まばたきしない目、呼吸していない

 重心の不自然さ、無表情、顔のパーツの位置、形が整いすぎている


 ドールだ、家にいたドールは表情も仕草も人間らしく設定されていたが

 これは、目の先に居るのは

 ドリー博士がこの学院に居るのだから、試作機か?)



ミラの様子を窺っていたトールの、大きな身体が本棚に当たり本が数冊床に落下する


(またやってしまった、大きな身体も不便だ)


トールが腰を屈め本を拾っていると、気配を感じさせず接近したミラが

本をサッとトールに手渡す


「どうぞ」


「有難うございます」

若干上ずった声で、トールは答えた


ミラは先ほど読んでいた本を、左脇に抱えると階段へと向かっていった

トールはミラの後ろ姿を目で追っていた


(気配も足音もしなかった、ドールが読書していた場所からは

 距離もあったのだが、新型の戦闘特化型のドールか

 それとも学院警備の為か


 しかし姉さんのドールは怖かったな、笑顔で近ずいてきて拘束するわ

 マスター命令ですと言って、貞操を奪われそうになるし

 トラウマになっているようだ、今日は早く帰宅しよう)


トールは手の震えを押さえ階段へと向かう 














ドリー講師の研究室


読書をしていたミラに、ドリー講師は声をかける

椅子を進められると腰を下ろすミラ


「協会から、ミラに面会したいと人が訪ねて来たんだがどうする?

 都合が悪いなら、私が代わりに対応するが」


「いえ私、その人に会います」


「そうか」


























ミラは目の前に座る、協会の使者を見ている

長い銀髪を後ろへながし、綺麗に結いあげている男性


「初めましてミラさん、私は協会を代表して挨拶に伺いましたハルトです

 ドリー講師に聞きましたが、将来的には私ども協会へと来て下さると聞いています

 有難うございます、蘇生師である貴方が来てくださるとは」


「あの、まだ私は未熟者ですが

 これから宜しくお願いします」



ハルトが手を差し出すと、ミラは手を握る


「こちらこそ宜しく、ミラさん

 同じ協会でのお仲間になるんですから

 そうだ、ご家族のお話を聞いてもよいですか?」



「構いませんよ、過去の事ですから」


ハルトは姿勢を正し座り直すと、ミラの様子を注意深く窺う


「では、少々お辛い話を聞かせていただきます

 精霊の姿、最後のご家族の様子を聞かせて下さい」


「はい、あの日私は学院から帰宅すると家は崩壊していました

 最初に両親の姿を確認しました、次に姉が精霊に殺害されるところを目撃しました」


「精霊の姿は見ましたか?」



「一瞬ですが確かに見ました、でも私は中度魔力認識障害ですので

 姉の身体を握りつぶす、大きな手だけは見ました」


ミラの、変わる筈が無い表情が変化したように感じたハルトは

話題を変えるべき、協会についての説明をする


「有難う、良い機会ですから協会について説明いたしましょう

 この世界を統治するレイセント帝国には、3つの大きな力を持つ集団が在ります


 魔法ギルド、商人組合、そして私達が所属する協会です

 魔法ギルドとは、戦闘関連のエキスパートです

 武力が必要な時に介入しますが、レイセント帝国がこの世界を統一してからは

 諜報活動を中心に活動しています


 商人組合は、帝国全ての物流を掴んでいます

 彼らが居なければ、帝国は機能を停止するでしょう


 最後に協会ですが、魔法ギルド、商人組合のお手伝いをしています

 構成メンバーは、一芸を持つ優秀な人達です

 まあ、私も協会に所属しているんですがね」



ミラの目の前に座るハルトは、次々に装飾品を手品の様に取り出すと並べる


「ミラさん、どうぞ一つだけお選びください」


ミラは目の間に在る物から、銀時計を手に取る


「ハルトさん、これ頂けますか」


「どうぞ」


ハルトは、銀時計を両手で丁寧に持つとミラの左腕にはめる


「お似合いですよミラさん、銀時計を身につけると総魔力が五割増します

 ドールである、ミラさんにも効果は期待出来ます」



ハルトは目の前に有る装飾品をサッと仕舞う


「ミラさん、今日は簡単な御使いを頼みに来たんですよ私

 帝都に在るダンジョン最深部に、戦神が居るんですが屈服させてください」


「解りました」






















帝都に在るダンジョンへと向かったミラは、ハルトが予め用意していた座標を使い

転移魔法を使い、ダンジョン最深部へと降り立つ


魔鉱石の光を頼りに、ミラは封印が施された奥の部屋へと入る

数歩進むと、魔法陣から剣を構えた戦神が姿を現し


殺気を放つ事無く、ミラへと斬りかかる

ミラが魔法壁を展開し、動きを封じる前に


目の前に迫っていた、戦神の剣が胸部を突き刺していた

同時に大きな手が、ミラの細い首を掴みへし折ろうとする


ミラは自らの身体ごと、四方から魔法壁を素早く展開し

大部分の魔力を費やし発動した


拘束した目の前の、戦神の額へと手を伸ばした

ミラは、素早く呪文を呟く


「無力な私に力を与えよ」


戦神の頭部が僅かに発光し、揺らぎを発見したミラは

何の躊躇も無く、腕を頭部に力ずくで突き入れ

戦神の命の源である、魔法石を握りつぶす


戦神の身体が、光り輝きながら消滅すると

ミラはダンジョンの外へと、転送されていた


(胸部の損傷、首の圧迫痕、人工皮膚、衣類の破損、

 修復の為、セーフモードへ移行

 常時発動機能、スキルを一時停止

 

 修復開始、終了まで1分30秒、1分

 30秒、15秒、10秒、3、2、1


 完全修復完了、常時発動機能、スキル再起動


 全システム、スキャン開始

 終了まで、1分、30秒、3,2,1

 以上無し

  

 クリーニング機能スタート、ちり、ほこり、除去開始

 無菌、無臭を確認


 平常モードへ移行、3,2,1、完了)



修復の為に、ダンジョンの入口に座り込んでいた

ミラは、ゆっくりと立ち上がる


(戦神との戦闘終了、最適化へ移行

 拘束魔法障壁、展開発動10%アップ、耐久性10%アップ、腕力10%アップ

 俊敏性10%アップ、


 蘇生師、治療師、共通スキル、心眼、

 再取得により、精度向上、特定詠唱無し


 戦闘情報統合完了)


ミラは、此方を見つめる監視役の白い猫に近ずき一言告げると

ダンジョンを立ち去った













南セントリア魔法学院


トールは、友人2人と歩いていた

「トール、あの人綺麗だったな何時も図書館に居るよな」


トールの視線の先には2人の女性の後ろ姿


「そうだな、悪い俺

 知り合いに挨拶に行って来るわ」



トールは駆け足で立ち去ってしまう


「シド、お前が図書館で見かけたのはドリー講師の助手だ

 

 そして、トールが走ってまで会いにいったのが

 リーディングという、学院生徒が自主的に活動する団体の女性会員だ」



シドに親切に説明したのは、両手に大きな黒い皮の鞄を抱えたリーフ


「リーフ、助手の人はまたの機会にして

 今日はリーディングって所に見学に行こう

 トールの行動を見れば、多くの綺麗な女性が居る筈だ」



「僕は行かない、興味無いから」


シドは立ち去ろうとする、リーフの持つ2つの鞄を持ち

リーフを引きずりながら、トールが向かった方向へと向かう
















丁度その頃、図書館で読書をしていたミラに話しかける男性


「こんにちは、学院広報の写真を撮ってるんだけど

 モデルになってくれるかい?」


「私でよろしければ」


「有難う、じゃあ早速」


カメラを構えると無表情のミラがレンズを見つめる


(素材は良いんだけど~)


「ポーズは取らなくて良いから、普通に本読んでいていいよ」


ミラの後ろ姿を、数枚撮るカメラマン


「有難う、助かったよ」


「お役に立てて、何よりです」



















ミラが協会の依頼を達成した数日後


ドリー講師は、基本課程の学院生徒の前で講義を始めた

ミラは助手として、資料を配る





















右前列に座る生徒は、従者の男の腕を抓りあげる

「お嬢様、何かご用でしょうか」


手招きする、偉そうな実際雇用主の主人へと近ずくと耳をかたむける

「真ん中後列に居る、男どもが邪魔」


「直ぐに対処いたします」


従者は、後列で騒ぐ学院生徒の後ろに回り込むと

次々に意識を刈り取る、ドリー講師の声だけが部屋に響く


















講義を終えた、ドリー講師は中央真ん中の席に座る

トール達三人の前に立つ


トールは、大きな体を屈みこませ寝ている

シドも同じく顔を伏せて、眠りこけていた


唯一起きている、リーフへと視線を合わせドリー講師は話しかけた


「君達に、基本課程の連絡役をして欲しくてね」


「構いませんが、何故僕らが選ばれたんですか?」


「君らは、三人でよく行動している

 それと目立つ、トールは身体が大きい


 シドは毎日派手な色に髪を染めてくる

 最後にリーフ、君は両肩に鞄を掛けながら歩いているね


 2つの黒い鞄に、多くの本を詰め込むほどの読書家だそうだね

 助手が、推薦したんだよ特に君の事をね」


 リーフは前に居るミラを見た、彼女は視線にきずくと

 頭を軽く下げた   













トール達三人が、ドリー専任講師の講義での連絡役に指名された数ヵ月後


彼らは南セントリア魔法学院郊外での共同演習が行われている

演習施設の前に居る


演習が始まると、頑丈な筈の魔法壁が大きく揺れる

内部からは、悲鳴や叫び声が時折聞こえる



トール達は、人影が全く無い魔法壁の外で魔法壁の強度補給をしていた

「リーフ、俺らは何でこんな事してるんだ」


「それは、今回の演習で仮想の敵役をして下さる天の民が

 我々、人を遥かに凌駕する魔法を連発してるからだよ


 いくら南セントリアが畑しか無いと言っても

 危険だから、僕らが先生に頼まれ魔法壁を補強してる


 魔法が苦手なトールが、頑張ってるんだから

 シドも僕に魔力を早く提供しろ」


リーフへと、手を向け魔力を送り出し苦しそうに立つトールと同じように

シドも、リーフへと魔力を送り始める


何時もは、トールとシドが中心になり行動するが

魔法壁を補強する作業は、魔法の扱いが上手いリーフが

2人の魔力提供を受けながら、魔法壁の強化作業を続ける
















同じように、ドリー講師に依頼された学院生徒が居た


「お嬢様、負傷者を中央広場に集めました」


従者の青年が、額に汗を浮かべながら疲れた表情で報告する


「御苦労さま」


杖を持った少女は、長い黒髪が逆立つほどの膨大な魔力を放出する

巨大な魔法陣が、広場を覆い尽くし治癒魔法が傷ついた学院生徒に降り注ぐ


数分経過すると、傷が癒えた帝国中央から演習に参加した魔法学院生徒達が

次々に戦線復帰して行く




























その頃ミラは、天の民の魔法で蹂躙された

死体の山に囲まれていた


ミラは遺体へ、手をかざす

僅かに光る指先から、魔力が放出していく


(蘇生魔法は、本来ドールだと扱えないはずだから

 私が主体的に動かないと)


ミラは、遺体の上に砕けた命の破片を再構成し形作る

蘇生した学院生徒を、ドリー講師は杖を振るい転移装置へと押し込んでいた


「ミラ、もっと早く蘇生魔法をしなさい

 質より量ですよ、多少彼らの寿命が以前より短くなって蘇生しても

 怨まれませんよ、


 哀れな死体のままでは、彼らが苦しそうですから早く蘇生させなさい」



「はい、マスター」


ミラは、黙々と蘇生魔法を試みた


72時間休みなく連続で行われた

天の民と帝都中央の魔法学院生徒の長い演習が終わり

遂には、遺体の山が無くなった頃



ミラは、暗い夜空を見つめていた

(蘇生魔法行使により酷使した、末しょう神経

 蘇生魔法展開発動器官、スキャン開始

 

 エラ-なし、自動発動機能、スキル共に正常作動中


 演習での長時間蘇生魔法行使結果

 蘇生魔法再取得により、展開、発動、高速化、魔力使用量小


 連続魔力使用率70%アップ、周辺魔力掌握自己吸収率70%アップ

 蘇生魔法連続展開発動効率40%アップ、持続的反復行動率35%アップ

 総魔力、瞬間最大魔力20%アップ、蘇生魔法効率40%アップ)



ドリー講師は、演習を終えた天の民との会合を終えると

早々に学院へと帰還していた


今回の演習の目的は、貴族議員に選ばれる事が無い

貴族血縁者を篩にかける事が主題だった


将来彼らの中から、魔法ギルド、商人組合、協会へと所属する事となる















南セントリアでの演習が、無事に終わってから数日後


ドリー専任講師の研究室、ミラは部屋の隅で何時もの様に読書をしていた

突然大きな揺れが起き、外では目を開けているのも辛いほど眩しい閃光と

耳を塞ぎたくなるほどの爆音が鳴り響き、大気が大きく揺れた


南セントリア魔法学院の外壁を囲むように、巨大な魔法壁が発動し

学院全てを覆い尽くす


よろめいたドリー講師は、窓に近寄り外の様子を窺う

(方向は魔法研究所だが、此処から50キロは離れている

 と言う事は大事故が起きたのだろう)



「ミラ、研究所で事故が発生したようだ

 学院は、魔法壁で守られているから安心していい


 暫くは此処で待機することになるだろう」


「死者が出ていなければ良いですが」


ドリー講師は頷く

(おそらく、研究所周辺は焦土だろうな

 住民の生存は絶望的だろう)

 























魔法研究所崩壊から、数時間経過した頃


ルーセントが所属する魔法ギルドは、レイテシア帝国に依頼され

帝都から、魔法ギルドに所属する多くの魔導士が崩壊した魔法研究所での職員救助と

高濃度の魔力飛散を結界を使い、浄化作業を行っていた


ルーセントは、既定の結界での浄化作業を終えると連絡員に報告すると

周辺住民の捜索を開始した


魔法研究所を中心に、50キロ圏内は焦土になっていた

見渡す限り、建物も見当たらず人の気配が無い


ルーセントは、魔法研究所から少しずつ移転魔法を使い移動していた

人の気配を探っていた使い魔のウサギが、長い耳を澄ませる



「どうした、ウサギ生存者か?」



「黙ってください、マスター」


ウサギは、腰を低くしずめると足で地面を一蹴りした

大地が大きく揺れ、視界がひらけると今にも消えそうな魔法壁を発見する


ルーセントは、軽く手で魔法壁に触れ解除する

気絶した魔導士と幼い二人の子供を発見した


「ウサギ、ギルドへの連絡を頼む

 俺は、三人を病院に運ぶから」


「いってらっしゃいませ、マスター」


小さな白いウサギが、頭を小さく垂らす

口からは、涎が糸をひきゆっくりと落下した


(いけないいけない、ついマスターの真剣な表情に見とれて

 口から涎が、私としたことが)


ルーセントは、移転魔法を発動させると直ぐにその場から

姿が、消えさった


ウサギは、暫く身を悶えさせると首にかかる鍵を使い

空間を開くと身体を、ゆっくりと押し込め

その場から消え去る



























魔法研究所の崩壊事故から、数日後の南セントリア魔法学院


「ミラ、我が学院生徒のシドが救出されたそうだ

 実家に帰宅した時に、事故に巻き込まれたらしい


 幼い弟、妹を魔法壁で守り抜いたそうだ

 だが、魔法研究所から放出された

 高濃度の魔力が、身体に取り込まれ意識が戻らないらしい」


ミラは、本から視線を外すと

基本課程を受講する学院名簿を手に取り確認する


 「マスター、シドは基本課程の受講者です

  暫くは、休学でしょうね」



「そうだな」


(シドか、研究者に解剖されなければ良いが)


「そう言えばミラ、何故学院名簿を確認したんだ?

 ドールである君の記憶ならば、確認するほどの事でも無いだろう」



「マスター、私は時々シド達三人を見るのです

 私に友人が居れば、あんな感じになるのかと想像してしまうのです


 ドールである私がですが、ですから私の考えをマスターに知られるのが

 何となく気恥ずかしいので、シド達をあまり詳しく知らない様に

 振る舞う為に、学院名簿を確認する仕草をしました」



「別に気にすることは無い、君はミラの人格を受け継いでいるのだから

 人間的な行動をとる事は、可笑しな行動では無い」


(良い傾向なのかもしれない、彼女にとっては)


ミラの、本来感情を表す事が無い瞳が

言葉をかけた、ドリー講師を見つめていた

     


























シドが、魔法研究所の事故で救助された数日後の

南セントリア魔法学院


疲れた表情を浮かべるトールは、新聞記事を読むリーフの前へ座る


リーフは、トールを見ること無く新聞記事を読み続ける

「リーフ、ドリー講師に確認してきたんだが、シドは

 レイテシア帝国中央特務部に、引き抜かれたようだ」


到底納得していない、表情をするトール

リーフは、視線を正面に座る友人へと向ける


「トール、シドは高濃度の魔力を身体に受けながらも

 魔法壁を張り、弟、妹を必死に守った

 おそらく、その極限状態でポテンシャルが上がったんだろうね

 

 帝国がそんな人材を離すはずがない

 帝国特務部は、特に優秀な集団らしいよ


 まあ、シドは生きてるんだから

 問題無いよ、大事なのは魔法研究所の事故の当日に


 貴族議員の、上院、下院でそれぞれ20名近い議員が辞職した

 魔法研究所の事故が起きなければ、この議員大量辞職が

 新聞の一面を飾っただろうね


 まあ、偶然って事も否定は出来ないけどね」


「流石に、それだけで都市を消滅させるとは思わないが

 魔法研究所職員の死傷者は0で、住民達が100万人近い死者なんて」


「そうだね、まあ魔法研究所の職員が被害に遭わないのは

 魔法の研究をする理由だから、安全対策は万全にしていたんだろう


 しかし何故、魔法研究所の施設と住民達に壊滅的被害が出たんだろうか」





























シドが正式に、レイテシア帝国中央特務部に所属し数ヵ月後


魔法研究所での事故についての、公聴会が帝都で行われた

ミラは、多忙なドリー専任講師の代わりに公聴会へと来ていた


遺族として、唯一この場に来ていたシドは

ミラを見かけると歩み寄る


「ミラさん、お久しぶりです

 ドリー先生の、基本課程を受講していたシドです」


ミラは以前、同じ位の目線だったシドを見上げた

「お元気そうで何よりです、

 背、伸びたんですね」



シドは照れくさそうに、話しはじめる


「いやー、まさかまだ身長が伸びるなんて思わなかったですよ

 トールは、知ってますよねミラさん


 あいつは、もっと背が高いですけどね」



ミラは、前方にあるテレビを指さす

シドが視線を向けると

特別室の公聴会での、カメラの映像が突如乱れた



「ミラさん、様子を見てきます」


シドは、別の階に在る特別室へと駆けて行く

ミラは、特別室での異常を近くにいた事故処理委員会の関係者に伝えると

特別室へ行く為に、階段を駆け上がる



ミラが、大きなドアを開けると真っ赤な色が視界を染める

シドは惨殺された遺体を、屈みながら注意深く観察していた


「ミラさんダメでした、この特別室に居た人々は既に亡くなっています」


暫くすると、特別室のドアが開き

長く黒い黒髪を、きっちり頭部の真ん中で綺麗に分けた女性を

先頭にして、特別室へと捜査員が足を踏み入れた


「第一発見者のシド執行官を、連行しなさい」



先ず視界に入った、シドを呆れた目で見ると

次に、ミラへと近ずいた女性はオリビア参事官


シドは、数人の捜査員に拘束され特別室から引きずり出された

「お騒がせしました部下のシドが、貴方はミラさんですよね

 その協会のローブ、シドと面識が有るようですから


 私は、シドの上司のオリビアです」


「ミラと申します、何故拘束までするんですか?」


捜査員達は、オリビア参事官に確認すると

遺体を、部屋から次々に転移魔法で移転させていく


黒くなった血痕が、赤い絨毯にこびりつき乾燥し始めている

座り込み、絨毯を凝視していたオリビア参事官は

ミラへと振り返る


「シド執行官を、疑っている理由ではありません

 第一発見者ですから、詳しく些細な事でも検討する為です

 記憶が薄れないうちに、素早く移動させる為の拘束という事ですね 


 彼は、少し執行官としての自覚が足りないようですから

 少し緊張感を、持ってほしいものです


 失礼ですが、愛玩用ドールである貴方では

 証言としては、不十分ですからこのような対処を


 そう言えば、ミラさんは協会へは何時頃

 正式に所属されるんですか?」



「学院が、新年度を迎えるまでには協会へと行きます

 何時までも、学院に居るわけにはいきませんから」


「正式に協会に所属されたならば、ドールである貴方でも

 証言は、公式に採用されますから


 では、また合いましょうミラさん、遺体の確認をしますので

 ドリー博士に宜しくお伝えください」


オリビア参事官は、特別室を後にした 


































ミラは、新年度が始まる前にドリー専任講師に

南セントリア学院を休学する事を伝え、正式に協会へと所属する事を伝えた


研究室の椅子に腰かけたドリー専任講師は、ミラに考え直すように説得した

協会への借入金も、講師自らが立て替えると伝えるが

ミラの考えは変わらず、しかたなくドリー講師は学院に休学届を提出させた


何時でもミラに帰る場所が在ると伝える為に、彼なりの精一杯のやり方が

学院に彼女の学籍を残す事だった








ミラは結局、ドリー専任講師に押し切られ学院に休学届を提出すると

レイテシア帝国の中央に在る、帝都魔法ギルド本部へと向かった


大きな塔である、魔法ギルドへと入り

1階正面に座る、ギルド職員に協会の場所を尋ねると

ギルドの事務員が、協会の仕事も兼任していた


予め預けられていた、協会からミラへの依頼書を

その場で読み聞かせたギルド職員は

塔のかたすみに在る、移転装置の場所を差し示す


辺境の村へと赴く事になった、ミラは早速塔を出た

















ミラが歩くたびに揺れる、クセの無い腰まで伸びた長い銀髪をボ~っと

帝都魔法ギルドを立ち去る、後ろ姿を見る一羽と一人が居た


瀕死のミラを抱きかかえ、ドリー専任講師の研究室に運び込んだ

帝都魔法ギルド一番の稼ぎ頭のルーセントと使い魔のウサギ


「マスター、人形が行ってしまいますよ」


「そうだな、俺は彼女を助ける為に

 でも駄目だったよ、あれは本当の彼女じゃない」


真剣な表情は超絶な美系に変化するが、普段はダメダメで

今は俯くルーセントを、ウサギは近ずくと耳を強く引っ張る


「何だよ、俺は結局彼女を救えなかったんだよ」


「糞マスター、例え姿が代わろうが記憶が電子化され疑似人格に変わろうが

 あの人形はミラ、生きているのです」


顔を上げたルーセントは、頷く


「有難うウサギ、少し楽になったよ

 でもな~ミラの容姿はどう見ても10代にしか見えない


 ドリー先生は、俺の女性の好みの正反対の容姿のドールに

 ミラの疑似人格を移すなんて、性格が歪んでるよな


 チラッと、研究室を見たが他にもドールのパターンは有ったのに」


(マスターも、十分歪んでますよ)


ウサギは、ため息をついた










ミラは帝都を離れ、移転魔法を数回唱えると険しい山を登り

急な山道を下り、漸く村への道が見えてくる


人影に近ずくミラは、案内人の姿を確認した

浅黒い肌に、小柄な体を持つゴブリンが急かせる様に手招きをしている


「アンタが協会の人だな、歩きながら説明する

 ついてこい」


ミラは、ゴブリンの横に並び村への道を進む

ゴブリンはツンツンと、ミラを指でつつくと

荷車を指さす


「アンタさあ、非力なゴブリンが荷車を押してる理由よ

 何かさ~思わない」


「すいません、お手伝いします」


ミラは、小さな道幅の山道を進む

荷車を、後ろから両手で押していく


「言われる前に、やらなきゃな

 アンタは協会の人間なんだから、しっかり自覚しろよ」


「はい、あの私はミラと言います協会所属です

 お名前聞いても良いですか」


「俺は、見ての通りゴブリン族のアースだ

 商人組合に所属している」


数分歩くと、門番が居る村の入り口へと辿り着く

アースの姿を見つけると、3メートル近い巨大なオークの門番が敬礼する


「御苦労様です、アース様

 後は私が、後ろの方も有難う御座います」


「頼むよ、何時もの所に」


門番は頷くとアースから荷車を預かり、ゆっくりと村の中へと押して行く


「ミラ、村長に挨拶に行くぞ」


頷くミラを連れ、アースは村へと入る

木造の大きな造りの家が、たち並ぶ村の中を歩いて行く


アースの姿を見かけると、村に住むオーク達は手を振ったり

会釈をしたりと、親しそうな様子を見せる


少しだけ高台に立つ村長の家へと着き、アースは大きな扉を

ノックすると中から、応答がある


アースに続きミラも、村長宅へと入る

巨大な椅子に座っていた、村長が立ち上がるとアースと手を交わす


「御苦労さまアース、後ろの方は協会の人だね」


「そうです、村長

 彼女が、新しくこの村の担当になった者です」


ミラは、村長へと近ずくと顔を見上げ

確りと目を合わせ、手を交わす


視線が交差し、互いの手を握り合う

村長の巨大な手に力が加わる、暫くするとミラと村長は同時に手を離した

(ランス村長との固い握手により、握力2%アップ)


「初めまして、協会から赴任しましたミラと申します」


深く頭を下げるミラ


「お手数お掛けします、この村で村長を務めていますランスです

 何も無い村ですが、ここには大自然が有りますから

 楽しんでいただきたい」


二人の様子を窺っていた、アースはランスにミラを任せると

村にある、店舗へと向かう


ランスに、椅子を勧められたミラは腰かけた


「ランス村長、私はこの村で治療行為をすると聞いていますが

 不慣れなもので、ですが一生懸命努めさせていただきます」


「宜しく頼みます、なにぶん辺境の村ですから

 まあ、我々オークの身体は頑丈ですから

 ここで、確りと経験を積んでいただきたい


 診療所の用意はしております、ご安心ください」



「宜しくお願いします、ランス村長」




















ランス村長に挨拶を終えると、ミラは用意された診療所へと向かう

村の住人がオーク族である為に、巨大で分厚い木製ドアを開けると

診療所へと入った


翌日の朝早い時間に、初めての患者が訪れた

ミラは、ドアを開けると大きなオークを招き入れた


頑丈そうな木製の椅子に、3メートル近いオークが慎重に腰かけた

正面に座ったミラは、早速問診をはじめた


「おはようございます、今日はどうしましたか?

 お名前もお聞かせください」


「エストと申します、実は三日ほど便が出ません

 こんな事初めてなんで、不安になりまして」


「そうですね、そこの診察台の上でよつんばになってください」


エストは立ち上がり、診察台の上へと上ると臀部を突き出すような体勢になり

よつんばになる


「エストさん、直ぐ終わりますから

 力を抜いてください」


「お願いします、先生」


ミラは、煮沸した薄い手袋をした右手を

エストの肛門へと、ゆっくりと突き入れ手首まで突っ込み

排便衝動を促す


「どうですか?エストさん」


「先生、そろそろ出そうです」


ミラは右手を引き抜くと、手袋を外し

ふたをした、金属製の箱へと放り込む


「お疲れ様ですエストさん、終了しましたよ

 診療所のトイレを使ってくださいね」


「有難うございました先生、失礼します」


エストは、診察台を下りると

ミラへと会釈すると、臀部を抑えながら診察室を後にした


















ミラが診療所で、診察を続けていると時々患者が訪れた


患者ランゴの場合


「ランゴさん、どんな症状ですか」


「最近、目が白く靄がかかったようで見えにくいのです」


「少し眼を見てますね」


ミラは、ランゴの眼球に光りを当てていく

「ランゴさん、簡単に終わりますので診察台に仰向きになってください」


ランゴが診察台に仰向きになると、ミラは大きな身体のランゴを確りと

診察台に、ゴム製のバンドを使い固定する

頭部も、バンドで固定するとミラはメスを手に取る


(診察室無菌状態確認、生物内部視覚化機能発動)



「目は開けたままで構いません、ランゴさん」

ミラは、ランゴに麻酔を打つとメスで

眼球の薄膜を、円形に切り取る


切り取った箇所へは、薄いレンズをはめ込む

ミラは、ランゴの左右両目の治療を素早く終了させた


「どうですか?ランゴさん良く見えるでしょう」

ランゴは、大きく頷く



「先生、凄いですよ

 こんなに見えるようになるなんて、有難う」


ランゴは、大きな両手でミラの手を握り頭を下げる


「大げさですね、ランゴさんは」




























患者サロメの場合



「サロメさん、どんな症状ですか?」


「夜に良く寝れないんです、頭が痛くて

 それに心臓がドクドクと早く脈を打つんです」


「そうですか、少し脈を測ってみますね

 サロメさん」


ミラは、丸太の様な太さの手首に手を置くと脈を測る

そしてサロメを診察台へと寝かせる


「サロメさん、寝てても良いですからね」


「お願いします、先生」


ミラは、目を閉じたサロメへと手をかざす

(道具作成、形状、長い繊維)


ミラは、サロメの血管内部へと長い繊維を転移させると

血管の内部に、へばり付く老廃物を絡ませながら取り除く作業を続ける


数回、繊維を取換えながら血管内部の老廃物の全てを取り除く

数十分後、目を覚ますサロメ


「サロメさん、少し楽になりましたか?」


「はい、心臓のドキドキが治まりました」


ミラは、サロメへと小瓶に入った薬を二本手渡す


「あまり眠れない時に、飲んでください

 この薬はですね、血管を大きくして血を流れ易くします


 でこちらは、睡眠を促進する薬です

 よく眠らないと、どうしても心臓に負担がかかりますからね

 睡眠を上手く取れれば、身体の調子もよくなりますから」


「有難う御座います、先生」

 
























患者カビの場合


「カビさん、お身体の調子はどうですか?」


「先生、膝が痛くて出歩くのも大変で」


ミラは、カビを支え診療台へと仰向けに寝かせる

(生物内部把握、道具作成 人工軟骨)


ミラは移転魔法を使い、カビの両足の膝内部のすり減った軟骨の隙間へと

人工軟骨をはめ込む


ミラは、起き上がったカビに数回その場で屈伸をさせた


「先生、膝の痛みがやわらいでいますよ

 有難う」


「良かったです、その調子なら問題無さそうですね」

















患者テラの場合



「先生、家の屋根から落ちてから身体が時々痺れまして」


「では、診察台にうつ伏せに寝て下さいテラさん」


(生物内部視覚化、近距離移転魔法発動)


ミラは、小石ほどの大きさの骨を確認すると

うつ伏せのテラの背中へと近ずく


屋根から落下して骨折した時に、脊髄を抑えつけていた骨の欠片を移転魔法を使い

取り除く


「テラさん、手足の痺れはどうですか?」


テラは、身体を起こすと大きな手足をゆっくりと動かす


「調子が良いです、痺れは無いですよ先生」
















患者ブルの場合


ブルは、診察室へ入ってからも大きなくしゃみを繰り返す


「すいません先生、この時期になるとくしゃみが止まらなくて」


ブルの鼻は真っ赤に腫れ、目も真っ赤になっていた

「辛いですよね、早速治療しましょうブルさん」


(道具作成、素材鉄、形状大きなヘラ)

ミラは、手に出現させた鉄製のヘラに手を触れ加熱する


十分ヘラを加熱させたミラは、ブルの大きな鼻の穴を見上げると

鼻の中の膜を、熱した鉄製のヘラでジュと抑えつけて焼きつけた

診察室には、焦げくさい臭いが漂うが直ぐに自動消臭される


「もう終わりましたよブルさん、これで半年ほどはくしゃみが出続ける

 と言う事は無いですよ」


「先生有難う」


ブルは大きな鼻を指でさすり、ミラに渡された手鏡を覗きこみ

鼻の中を注視した































(ここ数日の治療行為により、生物内部視覚化精度70%アップ

 道具作成効率50%アップ、繊細作業効率90%アップ

 外科的治療行為効率80%アップ


 酷使した、眼球周辺神経、両手末しょう神経スキャン開始

 異常なし 


 無菌無臭機能常時発動範囲拡大)

























さらに数日後、辺境の村の診療所に珍しい者が訪れた

ミラの正面に座るのは、黒いマントを纏った骸骨剣士


「あの先生、結婚してください」


「考えさせてください」


特に表情を変えること無く、単調な声で答えを返すミラ

彼女と骸骨剣士が、無言で長い時間お互いを見つめ合っていると

突然、頭を抱え込み落ちこむ骸骨剣士


「いや~、そのリアクションは無いですよ先生

 普通の女性は、悲鳴を上げて走り去るんですけど」


「なるほど、普通はそのような態度を求婚された若い女性はするのですね

 もう一回お願い出来ますか、クロウさん」




「まあ次の機会にお願いします、その件は

 今日の本題なんですが、イメチェンを是非したいのです普通の顔に成りたいんですよ」


「任せて下さい、クロウさん」


ミラは、クロウの骨だけの顔にまず、眼球、舌、

次に筋繊維を張り着けながら、形を整えると人工皮膚を取りつけ

眉、まつ毛、と作業を続け人間の顔へと徐々に近ずいていく


最後に頭部に一本一本髪の毛を植えていく

ミラに渡された手鏡を、覗きこんでいるのは長い金髪を肩まで伸ばしている

平凡な童顔の青年


「先生、普通の顔だよ有難う

 うん良いね、何処にでも居そうな顔だ」


クロウは、嬉しそうに手鏡を見つめると、

角度を変えながら、表情を変えていく



















ある夜、診療所に商人組合所属のゴブリン族のアースが尋ねて来た

オーク用の椅子に座るアースは、足が床から離れ落ち着かない様子だった


「久しぶりだな、ミラ

 同じ村に住んでるんだから、うちの店に買い物に来い」



「近いうちに伺いますね、アースさん」


「お前休んでるのか?診療所の灯りは何時もついてるぞ」


「私ドールですから、休まなくても大丈夫ですよ

 ご心配かけてすいません、アースさん」


「店に来て何か買えよ、感謝してるのなら

 早いうちな」


アースは椅子から、軽やかに床へと降りると診療所から

足早に出ていった



















翌日、ミラは約束を守る為に村唯一の店舗を訪れていた

商人組合に所属するアースの店には、いたる所に商品が陳列されている


辺境の村には、多くのオーク族が生活しているので商品である調味料が入った瓶も

巨大な大きさだった


「こんにちは、アースさん

 良いお店ですね、商品も沢山有って圧倒されます」


「やっと来たかミラ、まあ確かに沢山あるな

 利益はほとんど出ないがな


 今日は、光りの巨木って所に案内してやるよ

 ついて来い」



小柄な店の主人は、ミラの返事を待たずに軽い足取りで歩いて行く

ミラは、アースの背中を追いかける


確りと踏み固まれたうえに、石をひきつめ舗装された道を

二人は歩いて行く


陽気な門番に声をかけ村を出ると、狭い道幅の山道を進んで行く

アースは短剣を振るい、歩行に邪魔な草をはらう


徐々に歩くペースが上がり、前方に大きな巨木が目に入る

「ミラ、デカイだろう」


「はい、大きいです」


アースが巨木の前に座ると、ミラも隣に腰かけて巨木を見上げる

太陽光があまり降り注がない森の中、巨木が淡く金色に発光する光景は

とてもこの世では無いような、幻想的な空間を作り出していた


「ミラ、この巨木が村に住んでいるオーク族を生み出しているんだ

 彼らは寿命が尽きると光となり、天に召される


 そして前世の知識を持ったまま、この巨木の元に産み落とされるんだ」


「そうなんですか、だから村の方々は理知深いんですね

 納得です、


 アースさん、これだけ綺麗な場所だと観光地に出来ますよね」


「俺も考えたんだが、多くの者が訪れると

 それだけ多くの問題も起こるんだよ、この場所はこのままが一番良いんだよ


 村の住人の為にもな」





























ミラがアースに、森の巨木を案内された日から数日後

時々、森へと足を運ぶようになったミラ


時刻は夕方、帰り道で骸骨剣士のクロウと出会った

以前にミラが診療所で取りつけた、人工皮膚や顔のパーツは無くなっていた


「こんにちはミラさん、すいません少しドジをしまして顔が無くなりまして」


「構いませんよ、どうします?直しますか?」


「いえ、このままで

 今日は貴方と、手合わせしに参りました


 アースさん、私の恩人なんですが

 ミラさんが、鍛練の相手を探してると聞き参上したしだいです」


「では、そこでお願いします」


二人は、少し拓けた場所へと辿り着く

黒いマントを纏う骸骨剣士のクロウは、ミラと向き合う

マントを両手で掴むと、一瞬で骸骨であったクロウは人間の少年へと変わる

手には、2メートルほどの漆黒の長剣を構えていた素っ裸で


「ミラさん、何時でも良いですよ」


ミラは、目の前に立つ裸の少年に頷く

(武器製作、長剣、属性、光属性)


ミラが手を下げると、一本の剣が出現する僅かに光が漂う剣が

彼女は、両手で確りと長剣を握る


(耐久度、中、操作性、高)


「行きます」


ミラは、目の前に立つクロウへと火炎を放ち彼の視界を防ぐと

ガラ空きの、クロウの背中へ回り込むと剣を突き刺すが手応えは無く


ミラが振り向くと、既に回避不可能なクロウの長剣が彼女に迫る

ミラは、剣先を黒い長剣に這わせ剣筋を曲げようと試みる


クロウの漆黒の剣が振るわれると、ミラの持つ剣は真っ二つに割れ砕け散る

左の親指が切り落とされ、そして右肘を深く大きく切り裂いた


右腕をダラッと垂らした、ミラの首筋には長剣が浅く触れていた

「強いんですねクロウさん、また何時の日か相手してください」


「是非」


クロウが武装を解くと、一瞬でもとの黒いマントを纏った骸骨が立っていた






























ミラはクロウが立ち去り、完全に姿が見え無くなるまでその場から一歩も動かずにいた

(自動修復完了、全システムスキャン終了、


 自動準瞬間回復機能取得、身体の93%未満の損傷、消滅なら

 一瞬で回復させ戦闘行為が可能、ただし戦闘能力50%ダウン

 更に身体の表層、表面の修復はせず、身体の内部工程を優先的に修復


 骨格強度、400%アップ、反射行動、200%アップ

 剣術、70%アップ、回避、700%アップ、俊敏性、10%アップ

 見切り、10%アップ、物体認識速度、900%アップ、)































骸骨剣士クロウの過去


クロウには、過去の記憶が無い

彼の最初の記憶は、赤、どす黒い赤


クロウが最初に目覚め視界に入ったのは、苦しみ苦悶の表情を浮かべる人々の顔

床も天井も壁も、すべて四方全てが苦しみ抜いた顔のどす黒い赤のデスマスクだった


老人、若者、赤ん坊、男も女も、クロウは悲鳴を上げ飛び起きると足を縺れさせながら

懸命に出口を探す


クロウが立ち止り視線を上げる、固い大きな門で出口は厳重に閉ざされていた

裸であり何も手に持っていない、彼は素手で鉄製の門を何度も叩く


声を上げ、何回も何回も門を叩き続ける

暫く門を叩き続けると、その場に座り込んでしまう

誰も居ない、クロウただ一人だけが居る空間で声が空しく響く、


誰かの声が大勢の声が殺せ、殺せ、殺せ、クロウは立ち上がり辺りを見回すが誰も居ない

両手で耳を防ぐが声は響き続ける、クロウの心へと



大きな門が突如開くと、巨大な獣がクロウへと飛びかかる

彼の両肩を前足で押さえつけると、大きな口を開け歯で頭部を噛み砕く


クロウの身体は獣に飲みこまれ噛み砕かれた

固い門が再び閉じられると獣は消え去り、クロウの身体はゼロから再生されていく


苦痛に耐えのたうち回る、漸く身体が再生を終えるとその場に気絶して倒れ込む

目を覚ますと彼は身体を見まわす


そして、門が開き獣がクロウへと襲いかかる

彼の左腕を噛み砕く、逃げ出す彼を追いつめると壁際へと追いつめると

突進し、血まみれのクロウを一飲みする


何千何百回と身体を何度も獣に食われ、身体を再生される痛たみに耐えながら

クロウは、鉄製の門から放たれる獣から逃れる為に必死で走る


息が切れ足がもつれるように転び、体力が尽きると何度も獣に食われた

しかし少しだけ速く走れ動いている事実に、クロウは気がつく


何百、何千と繰り返される苦痛に耐え身体の再生を終えた彼は

その場で足に力を込める、とにかく全力で走った


無意識のうちに、体内にある魔力を下半身へと集めていたクロウは

普段より少しだけ早く走れる感覚を、身体へと覚え込ませる


そしてまた、巨大な門が開く彼は獣から走り逃げ続ける

もう駄目だと立ち止ったクロウは、初めて獣へと立ち向かうが

何も出来ずに、頭部を噛みちぎられ身体は叩きつけられた


クロウは、殺せ殺せと頭に響く声で目が覚め立ち上がる

必死で身体に覚え込ませた彼の力を、魔力を全身へと循環させた


門が開くと同時に、獣とクロウは動き出す

必死で走り目の前へと迫る、黒い巨体に体当たりする


彼は、身体が壊れるのを気にすること無く突進を繰り返す

しかし無傷な獣を見て、彼は落胆してしまう息が切れただ立ち尽くしていると

彼は突き飛ばされ、足から噛み切られた


繰り返される獣との対峙に、クロウはただ立ち尽くす

正面を見つめていた彼の目が、身体が無意識に反応する

振り下ろされた大きな前足を見ると、無意識に魔力で身体を守ろうとする


衝撃に身構えていたクロウ、いつの間にか手には漆黒の長剣を持っていた

振り下ろされた前足を、長剣で受け止めていた


彼は勝負の時だと感じ、満身創痍で動きが鈍くなった身体を必死に

無我夢中で剣を振るう、長剣に身体を取られながら息も切れる

身体が重くなり視界がかすれていく、意識が無くなりそうになり

立っているだけでも辛くなる


クロウは動きを止めると、確りと両手で長剣を握り直す


間をおかず一直線に突っ込んできた獣から、目を離さない一瞬脱力すると

彼は、気合いを込め魔力を循環させる、力を放出し漆黒の長剣に纏わせると

素早く振り抜く、


クロウの視界へと、真っ二つに切り裂かれた獣が目に入る


彼が次に目にした光景は森の中だった、太陽の光と風を久しぶりに感じただ立ち尽くす


「あんた迷子か?」


荷車を押す、ゴブリン族のアースが下から骸骨の彼を見上げ尋ねる

「そんなところです」


「そうか、村まで案内してやるから

 この荷物運んでくれ」



「やらせていただきます」

アースが軽やかに歩く後ろを、黒いマントを纏った骸骨が荷車を慣れていない不格好な姿勢で

狭く進みにくい、舗装されていない山道を押し進んで行く 

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