拝啓、晴れの日の君へ
拝啓、晴れの日の君へ
雨の季節が終わりを告げてからはやひと月が過ぎました。
空は青々と晴れ渡り、雲は大きく白く輝き、鳥が悠々と羽ばたいています。
私が雨の日だけではなく晴れの日も曇りの日もあなたと会いたいと望み、そしてそれが現実のものとなったのが二十日ほど前でした。
私は自惚れているのかもしれません。
あなたが私の家の庭で咲く花々や木々を塀の外から愛でているのは、私に会う為なのではないかと、そう考えてしまうのです。
私はあなたが雨の日だけ見に来ていたのも知っていました。
だからあなたが雨の日に赤い傘を差して来るのが見えると、私は裏口から青い傘を差して外に出て、偶然を装って自分の家の木々を塀の外からあなたと同じように見つめていたのです。
雨が終わればあなたはもう来ない、その考えがどんなに私の心を苦しめたことでしょう。
しかし雨の季節が終わってもあなたはやって来ました。
私は雨の時季が終わったらこの想いを捨て去ろう、そう決めていたのです。
そして、あの日あなたはいつもと同じように私の家の青々とした葉の繁る木々を見にやってきました。
ただひとつ違っていたのはあなたが傘を携えていなかったことです。
そう、雨ではなかったのです。
もう諦めようと思った矢先にあなたはやって来ました。
あなたが晴れの日にやってきたことで、私はまたあなたへの想いを胸奥に秘めさせてしまいました。
あなたと会話を交わしたい、だけれども私があなたに話しかけることで、あなたが此処を通らなくなるかもしれない。
そう考えると今のままが良いのかもしれません。
あなたは私があなたのことを想っているなどということを知らずに日々を過ごしているのでしょうね。
私はただこのあなたへの想いを心に秘めるだけでよい。
それが一番良いのかもしれない。
だけど、私は欲深いのです。それだけでは満足がいかないのです。
あなたの声が聴きたい。
傘を持つ白い手やほんのりと紅く染まる頬や、黒い瞳や、きれいに結い上げられた髪を近くで、手を伸ばせば届く距離で見たい、とそう望んでしまうのです。
私は決意しました。
今度あなたが再びここに現れたその時には、あなたに声をかけることを。