拝啓、雨上がりのあなたへ
拝啓、雨あがりのあなたへ
すっかりと雨の季節も終わりを告げ、大きな太陽が顔をのぞかせてますね。
私が赤い傘を持つことがどんなに楽しみだったか、雨が降ったらどんなに心を躍らせたか、あなたにはとても想像もつかないことでしょうね。
雨が降らなければあなたと会うこともなくて、私にとってそれは一大事で、会えなくなると考えるだけで胸がキュッと掴まれたように痛くなるのです。
きっと雨を楽しみにしていたのは私だけで、あなたにとっては私は見知らぬ人。
友人でもましてや恋人なんかでもなく、ただ雨の日に「偶然会う人」なんでしょうね。
雨が降らなくなったらあなたはもうあそこには来ませんか?
あなたを一目見ることはできないのですか?
いいえ、雨の日と決めていたのは私だけなのです。
私一人がただ、あなたをお見かけするのを雨の日だけと決めつけていたのです。
あなたは晴れの日も曇りの日も、天気なんて関係なくあそこにいるのかもしれません。
私が勝手に特別にしていたのです。
雨があなたと巡り合わせてくれたのだ、と思い込んで、雨が降ったら一目散に傘をつかんであそこに駆け寄ったのです。
雨は相変わらず私にとって特別なものです。
あの日外に出ていなければ、あの場所を通らなければ、あなたをお見かけすることもなく私は日々を過ごしていたのでしょう。
それは、信じられないことであり、あなたに会うこともなく一生を終えていたのかと考えると、胸が締め付けられるように痛みます。
ああ、雨の季節は終わったのです。
幾度となくあなたを遠くで見て、声をかけることすら叶わず、臆病な自分が情けなく、みっともなく、悔しくて、悲しくてなりません。
どうか、
あぁ、どうか、
私が決意を破ることを許して下さいますか?
雨の日だけあなたをお見かけしに行くと決めた私の勝手なこの取り決めを破ることをあなたは笑って許して下さいますか?
晴れでも曇りでも、初めてあなたをお見かけしたあの場所に私が行くことを許してもらえますか?
いつか、あなたと話す日が来ることを夢みてこの差し出すことの出来ない文を終わります。