拝啓、雨上がりの君へ
拝啓、雨あがりの君へ
雨の季節は終わりを告げ、山々や木々は黄や紅の衣を纏い、秋の薫りを迎え入れようと準備を始めました。
あなたは如何お過ごしでしょうか。
すっかり傘など不要となった今では私のあの青い傘は暫く役目がないので、隅で静かに眠っております。
あなたの赤い傘もしばしの休息をとっていることと存じます。
空からの恵みは少なくなりましたが、私は前のように落ち込むことはなくなりました。
なぜなら、この世には愛でるものが溢れていて、例え雨が降らなくても、この晴れ渡った青空や、衣替えを済ませた木々たちを見ることが私の喜びになるからです。
そして、あなたもきっと同じなのだと、私は思っております。
雨の日だけのあなたとの出会いが今ではその限りではなくなりました。
傘を持って外に出ることはなくなりましたが、今では頻繁にあなたとの出会いの場所に足を運ぶ所存であります。
私の顔を隠すものがなくなったことは少々気恥ずかしい気もしますが、逆に言えばあなたの顔を隠すものもなくなったということなのです。
あぁ、私はあんなにもはっきりとあなたの顔を見たことを後悔しております。
目も鼻も口も、一つ一つしっかりと思い出すことが出来るのです。傘がないことを悔いているのです。あなたの顔をはっきりと覚えていなければ、私はこんなにも胸の痛みを覚えることがなかったでしょう。
ああ、あなたはどんな声で話すのでしょうか。どんな顔で笑うのでしょうか。
今度、私があなたと出会った時、私があなたに話しかけることを許して下さいますか。