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拝啓、名も知らぬ君へ
拝啓、名も知らぬ君へ
私たちが出会ったのは、穏やかに流れる風が髪を運び、山々が緑へと輝く季節でした。
スズメがチュンチュンと愛らしい声で飛び跳ね、南の国から帰ってきた凛々しい燕が低空飛行をしている、そんな日々。
あなたと出会ったあの日は、あいにくの雨でありました。
庭の木が光を浴びてシャンと背筋を伸ばし、空へと向かう様子を見ることができないのは残念ではありましたが、私は雨もまた好きなのです。
雫を受け止めた葉や花がきらきらと輝き、静寂な庭に流れる空が奏でる調べ。
あの日も、いつもと同じように雨が鳴らす音に耳を傾けておりましたが、私はなぜかふと外に出たくなったのです。
青い傘を片手に空を見つめ、空がつくりだす音楽に酔いしれておりました。
そこにあなたがやってきた。
あなたの顔が紅潮していましたのは、あなたのもつ傘のせいだったのでしょうか。
知るのはあの日の空のみでしょう。