プロローグ:勇者の俺と魔王の少女
ついにココまできた……。
敵を打ち倒しダンジョンを攻略して数多くの仲間との出会いや別れがあった。
そうして今、俺は魔王城の前にいる。
込み上げてくる武者震いを押さえ込み気合を入れるために俺は声を張り上げ魔王城に突撃していった。
「行くぞおおぉおぉおお!!」
三分後……。
「おぉ、勇者よ死んでしまうとは情けない」
どこぞの神父にそんな事を言われて俺は今置かれている状況を理解したが、認めたくなくて聞いた。
「あの……神父様。一つお聞きしたいのですがなぜ俺は死んだのでしょうか?」
「おぬしは一人で魔王城に乗り込み魔王と対峙して……一撃で殺されたんじゃ。」
俺が慇懃な態度で聞いてみると神父は答えを返してくれたが、その内容は聞き捨てならないものだった。
「……ちょっと待ってください。さっきのセリフもう一度言ってくれませんか?」
「おぬしは魔王城に乗り込み」
「いえ、その後です」
「魔王と対峙して」
「もうちょっとだけ後のほうのセリフです」
「……」
「ちょっとすぎるだろ! どこに三点リーダーを聞きなおす勇者がいるんだよ! 最後だよ! 最後の一文だよ!!」
つい焦れて怒ってしまった俺だがクソ神父は顔色一つ変えずに言葉を返しやがった。
「魔王に一撃で殺されたんじゃ」
「そう! それだよ! レベル百にして、最強装備を揃え、アイテムやらなんやらも全て入念に準備をしたのになんで一撃で殺されてるんだよ!!」
「さぁ~? 所詮、勇者の実力なんてその程度って事じゃねーの?」
「このジジイ……! いつか必ず殺す……!」
あまりの理不尽さに俺は怒りを抑え切れなかったがその言葉を聞いたクソジジイは聖職者のくせに教会の中でタバコをふかしながら更に俺の精神を逆撫でするような事を言ってきたので俺の怒りは限界を超えた。
「クソ! 納得いかねぇ! 俺を殺した魔王に会わせやがれ!!」
意味の無い叫びと解っていたが俺は叫ばずにはいられなかった。
「きゃう!」
あまりの怒りっぷりにそのうちヤクザやチンピラになりそうだった俺は我に返る。
声のした方を振り向いてみると何も無い教会の入り口で少女が転んでいた。
俺はどんなに小さな事でも助けるのが勇者だともう一度強く思って怒りを心の奥底に追いやると少女に駆け寄り抱き起こしてあげることにする。
「大丈夫か?」
「あ……はい、大丈夫です」
抱き起こしてみるとその少女が可憐な容姿をしている事がわかった。
亜麻色の髪を腰まで伸ばしその髪は光を受けることでキラキラと輝く。
そして、瞳は海を連想させるような綺麗なコバルトブルーを携えている。
純白のワンピースに身を包んでおり清楚な雰囲気を醸し出している。
「どうした? そこの神父になんか用か?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが……」
俺はその格好から祈りを捧げに来た民間人かと思ったのだがどうやらそうではないようだ。
なら、この少女がココに来た理由はなんなのだろうと考えていると少女の方から声をかけてきた。
「あの……呼ばれたから急いで出て来たのですが……」
「呼ばれた? 呼ばれたって一体誰にだ?」
少女の態度から気弱で人見知りなおとなしい子なんだろうなと判断した俺は比較的優しい声音で語りかけたつもりなのだがそれはあまり少女に対し功をなさなかったのかさらにおどおどし始めてしまう。
「あの……その……」
「……」
「えっと……あの、ですね……」
「……」
「あ、あうあう……」
「い、いや、嫌なら無理に言わなくてもいいんだぞ?」
「あ……! いえ、言います! やらせてください!」
俺が少し心配になるほどおどおどしていた少女だが俺が気を遣って声をかけるとハッっとしたように顔を上げて自分の体の前でグッと手を握ってやる気を見せてくれた。
その姿が微笑ましく思えてついつい俺は微笑んでしまう。
「? どうかしましたか?」
「ふふっ……いや、なんでもないさ」
「まぁ、そう言うのでしたらいいのですが……」
少女は少し疑問に思ったらしいが特にそれ以上の追及はしてこなかった。
まだ少し緩んでしまう頬を隠しながら俺は少女に言葉をかけてみる。
「それより、言いたいことがあったら言っていいぞ」
「はい、では今から言います!」
そうすると少女は輝くような笑顔を見せてくれてそのまま俺に……勇者に対し言った。
「初めまして、クロスさん。私はリリィ・ロード・スカルラット。あなたを殺した魔王です。」