攻略難易度Sクラスのダンジョンに住んで3年目なんだけど、最近あんまり誰とも話してないから質問に答える。何かある?
借金を返すため、一攫千金を夢見て攻略難易度Sクラスのダンジョンへ挑んだ俺は、運悪く道に迷った。
出口は見つからず、救助も来ない。
それでも、生きることだけは諦めなかった。
魔物から逃げ回り、水を探し、食べられるものを覚え、気づけば魔物すら寄りつかない奇妙な部屋を住処にして三年。
ある日、照明代わりに使っていた謎の光る石の近くだけスマホの充電が回復し、なぜかWi-Fiまで繋がることに気づく。
最近あんまり誰とも話していなかった俺は、暇つぶしにスレッドを立ててみた。
ピロン。
静かな部屋に通知音が響く。
「お、もう来たか。」
寝転がったままスマホを持ち上げる。
壁にはめ込まれた光る石は、今日も照明として仕事をしてくれている。
岩肌がむき出しの殺風景な部屋で、インテリアとしてもなかなかの存在感だ。
ダンジョンコアなんじゃないかと疑ったこともあるけど、今のところ明るくて巨大な宝石もどきというだけだ。
……いや、スマホが充電されるしWi-Fiも飛んでるから、「明るいだけ」ではないか。
ちなみに俺のスマホ、 ワイヤレス充電なんて付いてない。
なのに勝手に充電される。
意味が分からない。
だが助かる。
携帯バッテリーも持参しなかったのに、充電ケーブルはしっかり持参した。
なのでケーブルは使い所もなく無駄になってしまっているが。
色々と考えたところで俺の憶測でしかない。
まぁ便利だからいい。
どれどれ。
最初の質問は、と。
«Q.
本当に住んでるの?»
「住んでる。」
送信。
«Q.
ネタじゃなく?»
「ネタなら三年も続けない。」
送信。
«Q.ひとり?»
「そ、だからスレ立てた」
送信。
すると次々に通知が鳴り始める。
意外と人がいるもんだな。
«Q.
ずっと『1』って呼ぶの味気ないんだけど。»
「あー……。」
確かに。
俺自身、名無しでスレを立てただけだから、『1』としか呼びようがない。
本名を出す気もないし。
「好きに呼んでくれ。」
そう返してしばらく待つ。
『ダンジョンの人』
『ダンジョンニキ』
『深層管理人』
『WiFiニキ』
『コアの人』
『ダンジョンニート』
『洞の中にも三年』
好き勝手言いやがる。
最後のほうなんて諺パロディだし。
まぁ……。
「ダンジョンニキ」でいいか。
攻略に来る連中ともかぶりにくいし。
なにより一番平和そうだし。
ピロン。
また通知。
«Q.
トイレどうしてる?»
「壁の割れ目から割れ目に勢いよく水流れてるから、そこ。」
送信。
まあ当然の疑問だよなと頷きながら返す。
«Q.
食料は魔物とってるん?»
「携帯食料のドライフルーツ、を光る石の横に置いてたらめっちゃ果物生えてきた」
送信。
これも当たり前に聞きたくなる内容だ。
実際、魔物を食べたことはある。
魔物だから特に他の動物と大差があるということでもなく、普通にただの肉だ。
しかし、調味料やスパイスの類が無い。
火を通しただけの肉を食べる気にはならないので、無理してまで狩って食べないだけだ。
いまのところ労力が見合わない。
ただそれだけ。
«Q.
攻略に来た連中に帰り道を聞けば帰れるのでは?»
「いまは必要性を感じないから、そのうちな。」
送信。
«Q.
魔物に襲われないの?»
「最初は死ぬほど襲われた。」
本当に死ぬかと思った。
水もない。
寝る場所もない。
飯もない。
毎日が死神と鬼ごっこだった。
たった一つだけ良かったことがある。
それは、薄っすらとダンジョン内が明るいということだけだ。
もちろん松明やライトなどがあれば良いのだが、無くても真っ暗にはならないので助かった。
無我夢中で逃げ回り、ある日この部屋にたどり着いた。
見つけた時にも感じたことだが、この部屋は他の通路や空間とは何かが違った。
魔物が一匹も入ってこない。
むしろ、この部屋に近寄りたがらないといった感じだ。
理由は今でも分からない。
だから寝床を作って、火を起こして、棚まで作った。
過去にここを訪れた者たちが捨てたか残していったものが落ちている。
品質にこだわらなければ材料には意外に困らない。
どうせすぐに離れると思っていたし。
仮住まいのつもりだったし。
そのはずだった。
気づけば三年。
……今じゃ普通に家である。
ピロン。
«Q.
寒い?暑い?»
「超適温。」
送信。
«Q.
今度遊びに行っていい?»
「生きて辿り着けたら歓迎するぜ。」
送信。
そのときだった。
「おーーーい!! 誰かいるのかーーーっ!?」
思わずため息が漏れる。
また来た。
「水を……頼む……!」
相変わらず声がデカい。
静かなダンジョンに響き渡るからやめてほしい。
「はいはい、今行く。」
石の水瓶を持って部屋を出る。
今日は冒険者か。
生きてここまで来られたなら運がいい方だ。
水と引き換えに干し肉をひとつ受け取り、部屋へ戻る。
お礼はいつか必ずすると力強く言ってたが、それを断り干し肉にしてもらった。
申し訳なさそうな顔をしていたが、ここではこれが正解なのだ。
きっと彼らと会うことは二度とない。
これまでのように。
それよりも。
しつこいようだが、ほんとに静かにしてほしい。
この部屋の周囲にも魔物は近寄ってこないのだが、うるさくするとさすがに魔物も寄ってくる。
唯一のウォーキングコースを脅かすのはやめてもらいたい。
長期滞在者の健康維持の邪魔をしないでほしいものだ。
そんな事を考えながらスマホを見る。
通知はまだ増えていた。
«Q.
そこ、攻略しないの»
「いまは必要性を感じない。」
送信。
«Q.
暇じゃね?»
「ネット繋がるし、果物使って酒が作れないか挑戦中。」
送信。
«Q.
ずっとそこで暮らすの?»
「ずっとかは分からない。けどいまはそれを考える必要性を感じない。」
送信。
«Q.
家族のこと気にならない?»
「メールしといたからたぶん大丈夫。」
送信。
«Q.
魔王に会えた?»
「もっと奥とか下に行かなきゃ会えないと思うし、会う必要性を感じない。」
送信。
«Q.
来たやつにお宝わけてもらえば?»
「ここに来るやつボロボロすぎてお宝はおろか命も怪しい。」
送信。
«Q.
風呂に入りたくならない?»
「入りたい。そう答えると思ったろうが、源泉みたいなのがある。めちゃくちゃ気持ちいい。」
送信。
«Q.
石は光りっぱなし?寝れなくね?»
「冒険者からもらったマントをかぶせて寝る。それまでは慣れなかったが寝れてはいた。」
送信。
「……さて。」
最近あんまり誰とも話してなかったからな。
少しくらい、話し相手がいるのも悪くない。
しばらく話し相手には事欠きそうにないし、ウォーキングしてひとっ風呂浴びるか。
控え目にハミングしながら歩き出す。
スマホはいつものように光る石の横へ置いておく。
魔物が近寄ってこないとはいえ、ダンジョン内での歩きスマホは本当に危険だ。
気づけば、これもダンジョン暮らしの日課になっていた。
ダンジョン生活の一部になりつつあるのかもしれないが、その話はまたいつか。
次の質問は、なんだろう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
楽曲版はこちら。
「攻略難易度Sクラスのダンジョンに住んで3年目なんだけど、最近あんまり誰とも話してないから質問に答える。何かある?」
https://www.youtube.com/watch?v=sdo_xE64RF8&list=PLotKldLgKicwR2mtugcEaagtiPB-VXA-X&index=134




