野菜のきらいな子だーれ?
ある少年は、野菜が大嫌いでした。
毎日ほとんど野菜を食べません。
にんじんも、ピーマンも、ほうれん草も、
一口も食べずに、こっそりお皿の外へ落とします。
お母さんに注意されても、
「野菜なんて、いらないや」と気にしません。
ある夜、少年が眠っていると、
部屋の中が、やけに静かになりました。
そして、暗闇の中から、声が聞こえてきました。
「……おい」
少年の周りに食べなかった野菜たちが、
ずらりと立っていました。
「お前は、食物連鎖の一番下になった」
野菜たちは、低い声で言いました。
「草をバッタが食べる。
そのバッタをカマキリが食べる。
そのカマキリを、小鳥が食べる。
そして小鳥は、タカに食べられる」
「だが、お前は、我々を食べなかった」
「つまり、お前の方が下だ」
少年は後ずさりました。
「お前は、もう“食べる側”じゃない」
「これからは――
“食べられる側”だ」
野菜たちは、じりじりと近づいてきました。
「お前は、我々に食べられるのだ」
少年は震えました。
「や、やめて……」
「明日から食べるから……全部食べるから……!」
次の日から、少年は、
嫌いだった野菜も、
きちんと食べるようになりました。
あれは、ただの夢だったのでしょうか。
それとも――
あの夜、本当に食べられて、
別の何かと入れかわってしまったのでしょうか。
それは、誰にもわかりません。
ただ一つ確かなのは、
その少年は、もう二度と、
野菜を残さなくなった、ということです。
野菜のきらいな子だーれ?
物語には、よく人が食べられる話が出てきます。
このお話では、その立場を少しだけ逆にしてみました。
いつも食べられる側の野菜が、
もし人を食べ返したら、どうなるのでしょう。
強いと思っていたものと、
弱いと思っていたもの。
その関係を、少しだけ入れ替えて考えてみた物語です。




