明るい場所に人は集う
共用通路の天井で、最後の照明が切り替わった。
ぱっと、白く明るい光が広がる。
以前の黄色がかった蛍光灯とは違い、影が少ない。
麻衣「……明るい」
思わず、そう呟いた。
夜になると少し不安だった通路が、
今は見違えるほどはっきりしている。
麻衣は脚立を降り、照明を見上げた。
麻衣「LED、すごいな……」
交換しただけ。
それだけなのに、アパートの印象が変わった気がした。
そのとき、ポケットのスマホが震える。
麻衣「……大家さん?」
通話ボタンを押す。
麻衣「はい、麻衣です」
大家『ああ、ちょうどいいところに』
電話越しの声は、どこか弾んでいた。
大家『今、部屋の内見希望者が来ていましてね』
麻衣「内見……?」
一瞬、言葉を反芻する。
麻衣「空室の、ですか?」
大家『ええ。203号室です』
203号室。
ずっと空いていた部屋。
大家『照明が明るくなって、
共用部が綺麗になっているって、不動産屋から聞いたそうで』
胸の奥が、きゅっと締まる。
麻衣「……それで、私を?」
大家『管理人として、立ち会ってもらえますか』
“管理人として”。
その言葉が、少し前よりも自然に受け取れた。
麻衣「……わかりました。すぐ行きます」
大家『助かります』
通話が切れる。
麻衣はスマホを見つめたまま、しばらく動かなかった。
——内見。
——新しい住人。
このアパートに、人が増える。
麻衣「……ちゃんと、できるかな」
不安はある。
でも、逃げたい気持ちは、なかった。
———
脚立を片付けていると、後ろから声がした。
茜「麻衣さーん!」
麻衣「茜ちゃん?」
茜「廊下、めっちゃ明るい!」
きょろきょろと見回して、感心したように言う。
茜「夜でも安心だね」
麻衣「そう言ってもらえると、助かる」
茜「……あ、どこ行くの?」
麻衣「内見の立ち会い」
茜「えっ!」
茜は目を輝かせた。
茜「新しい人来るの!?」
麻衣「来るかもしれない、だけ」
茜「そっか……」
少し残念そうにしつつ、すぐ笑う。
茜「でもさ」
麻衣「うん?」
茜「麻衣さんが管理人になってから、
アパート、変わってきたよ」
その言葉に、足が止まる。
麻衣「……ありがとう」
短く答えるのが、精一杯だった。
———
玄関を出る直前、202号室の前を通る。
ドアの向こうに、人の気配。
遥は、明るくなった通路を一瞬だけ見て、
静かに目を伏せた。
遥(……人、来るんだ)
理由はわからない。
けれど、胸の奥が少しだけ、ざわついた。
———
灯りが変わると、
見えるものが増える。
見えるようになると、
人は、近づいてくる。




