隣人
麻衣さんから聞いた新しい住人の特徴は
つけまつ毛。
派手なネイル。
物事の内面をしっかり見る“ギャル”。
——まさか。
ドアが開く。
遥「……リナ?」
リナが振り返る。
リナ「あ」
一瞬の沈黙。
リナ「……遥?」
大学の講義室で何度も見た顔。
話したことはほとんどないけれど、
同じ学部、同じ学年。
——同級生。
遥「……203号室、ですか」
リナ「そ。今日から住む」
さらっと言うが、
遥の頭は一気に騒がしくなる。
遥
リナは周囲を見回し、廊下の照明を見上げた。
リナ「ここ、前より明るくなったらしいね」
遥「……管理人さんが」
言いかけて、口をつぐむ。
——麻衣。
就職浪人。
管理人。
“反面教師”にしようと距離を置いた相手。
リナ「へー」
リナはネイルの先で段ボールを叩く。
リナ「管理人、いい人だよね」
遥「……え?」
リナ「ちゃんとしてるし。
説明も丁寧だった」
遥は、胸の奥が少しだけざわつく。
遥「……そうですか」
そのとき、101号室のドアが開いた。
麻衣「引っ越し、お疲れさまです」
麻衣だった。
作業着姿。
手には共用部のチェック表。
リナ「あ、管理人さん!」
リナは一気に距離を詰める。
リナ「今日からよろしくお願いします!」
麻衣「こちらこそ。
何かあれば、いつでも声かけてください」
そのやり取りを、
遥は横で見ていた。
遥(……普通だ)
特別でも、媚びでもない。
ただ、ちゃんと管理人をしている。
リナ「ねえねえ」
麻衣「はい?」
リナ「隣、同級生なんですよ。
大学の」
麻衣「そうなんですか」
麻衣が遥を見る。
麻衣「……これから、よろしくね」
遥「……はい」
視線が合う。
その瞬間、
遥は自分が避けていた側だったことを思い出す。
——麻衣を。
勝手に。
一方的に。
リナは段ボールを抱え直し、笑った。
リナ「なんかさ」
遥「?」
リナ「このアパート、
思ったより当たりかも」
その言葉は軽い。
けれど、遥の胸には重く残った。
遥(……私は、何を見ていたんだろう)
ギャルだから適当。
就職浪人だから失敗。
——そう決めつけていたのは、自分だった。
203号室のドアが閉まる。
廊下の明るいLEDの下で、
遥は立ち尽くしたまま、
初めて自分の考えを疑った。




