大型新人現る
203号室の前で、麻衣は一度だけ深呼吸した。
鍵を開ける音と同時に、背後から軽い足音が近づく。
大家「待たせてしまってすみません」
振り返った麻衣の視界に、
強烈な存在感が飛び込んできた。
明るい茶髪。
ばっちり盛られたつけまつ毛。
指先には、光を反射する派手めなネイル。
一言で言って。
麻衣
リナ「こんにちはー!」
声も明るい。
ネイルがきらりと光り、手が軽く振られる。
大家「こちら、管理人の麻衣さんです」
麻衣「あ、はじめまして。管理人の麻衣です」
リナ「よろしくでーす!
私、リナって言います!」
勢いはあるが、笑顔は人懐っこい。
麻衣「今日は203号室の内見ですね」
リナ「そーそー!
てか、廊下めっちゃ明るくないですか?」
入室前に、まずそこを見る。
リナ「夜でも安心じゃん」
麻衣「……最近、LEDに交換したんです」
リナ「え、神ってる」
即断即決の評価。
203号室に入ると、リナはくるっと一周する。
ネイルが、白い壁に映える。
リナ「思ってたより広い〜」
窓を開け、光の入り方を確認する。
リナ「洗濯物、ここ干せる?」
麻衣「はい。ベランダは南向きです」
リナ「ガチで最高じゃん」
言葉は軽い。
だが、視線は床、壁、コンセントの位置へと正確に動く。
麻衣(……ちゃんと見てる)
リナ「ねえねえ」
麻衣「はい?」
リナ「管理人さん、ここ住んでるんですか?」
麻衣「はい。101号室に」
リナ「へー!」
つけまつ毛の奥の目が、少しだけ細くなる。
リナ「じゃ、困ったらすぐ聞けるじゃん」
麻衣「……そうですね」
“便利”ではなく、
“近さ”を確認する視線だった。
内見を終え、玄関へ戻る。
リナ「正直さ」
麻衣「はい」
リナ「最初、古そうって思った」
大家が苦笑する。
リナ「でも中、ちゃんとしてるし、
管理人さんもちゃんとしてる」
ネイルの先で、軽く親指を立てる。
リナ「ここ、アリ寄りのアリかも」
大家「ありがとうございます」
靴を履きながら、リナはもう一度廊下を見る。
LEDの白い光。
影の少ない通路。
リナ「……明るいって、いいね」
そう言って、手を振った。
リナ「じゃ、また連絡しまーす!」
ドアが閉まる。
静かになった203号室で、麻衣は小さく息を吐いた。
麻衣「……リナさん、元気でしたね」
大家「ええ」
大家は、どこか楽しそうだった。
大家「第一印象は派手でも、
中身を見る人ですよ」
麻衣「……はい」
人も、アパートも。
明るくすると、本質が浮かび上がる。
麻衣は、管理人としての自分を、
少しだけ肯定できた気がした。




