表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家賃3ヶ月分滞納してたら何故だか私が管理人に  作者: うみのうさぎ
管理人になりました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

仕事始め

管理人になった翌朝、麻衣はアパートの共用廊下に立っていた。

 手には、大家から渡されたバケツとモップ。


 就職浪人。

 家賃滞納者。

 そして今日から——管理人。


麻衣「……まずは、掃除、だよね」


 誰に言うでもなく呟いて、モップを水に浸す。

 廊下の床は思ったよりも汚れていた。古いチラシ、髪の毛、乾いた泥。


 しゃがみこんでゴミを拾っていると、背後で階段を下りる足音がした。


遥「……」


 202号室の遥だった。

 大学へ向かう途中らしく、きちんとした服装をしている。


 遥は一瞬、麻衣を見て、すぐに視線を逸らした。


麻衣「あ、おはようございます」


 声をかけたものの、返事は少し遅れた。


遥「……おはよう、ございます」


 敬語。

 昨日までより、明らかに遠慮がちな声だった。


 遥はそれ以上何も言わず、足早にアパートを出ていく。

 その背中を見送りながら、麻衣はモップを握り直した。


麻衣「……あれ?」


 何だろうこの違和感。


 ———


 一方で、102号室のドアは勢いよく開いた。


茜「麻衣さーん!」


 制服姿の茜が、目を輝かせて廊下に飛び出してくる。


麻衣「茜ちゃん? どうしたの」


茜「聞いたよ! 麻衣さん、管理人さんになったんでしょ?」


麻衣「う、うん……まあ、一応」


茜「やったー!」


 ガッツポーズまで決めて、心から嬉しそうだった。


麻衣「そんなに喜ぶことかな……」


茜「だってさ!」


 茜は一歩近づいて、声を落とす。


茜「夜に廊下の電気ちょっと暗いとか、

  ゴミ置き場のネットがズレてるとか、

  今まで誰に言えばいいかわからなかったんだもん」


麻衣「あ……」


茜「それに、管理人さんが麻衣さんなら、相談しやすいし!」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


麻衣「……そっか。じゃあ、気になることあったら言って」


茜「うん! あ、じゃあさっそく!」


 茜は楽しそうに話し始める。

 廊下のきしみ、ポストの立て付け、空室の噂。


 麻衣はモップを脇に置き、真剣に聞いた。


 ———


 同じアパート。

 同じ朝。


 遥は、麻衣の姿を「こうならないための未来」として心に刻み、距離を取る。

 茜は、麻衣の存在を「頼れる今」として、近づいてくる。


 その違いに、麻衣はまだ気づいていない。


 ただ一つだけ、確かなことがあった。


 このアパートで、

 管理人の仕事は、掃除以上に“人との距離”を扱う仕事なのだということ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ