(未定)(誰が見てちょうだい)(仮題)
「透明人間を信じる?」
ゴミ箱に飛び込んだ男はそう言った。何か悪い夢を見ているかのような表情をしている。事実、そうなのかもしれない。
「ハッ!バカにしやがって。缶バッジは1つ330円よ」
前髪をかき上げながらその茶髪の女は言った。先日シーリングライトを修理したお陰で表情がよく見える。まるで、何か悪い夢を見ているかのような表情だ。
「だから、それを100円で買わせてくれよ。そんなもんだろ普通」
「これの価値は100円では無い。330円だ。これは自らの財布を潤すための値段では無い。そのままの意味だ。この缶バッジが330円の価値を持っている。私はそれをお前から回収し、お前はこれを手に入れる。何故嫌がる」
男は女に唾を吐いた。
「テメェ!」
女はほぼ脊髄反射的に男の股間を蹴り上げて、続けて脳天にチョップを喰らわせた。もちろん男はその場で倒れ込み、呻き、白目をむいている。
「そんなやつにはこうだ!」
女は倒れている男の財布を拾い上げ、そこから330円を取った。それから缶バッジの針を男の腕に刺して満足げにスキップしながらその場を後にした。
「ねぇ、やっぱ俺透明人間だよね」
ゴミ箱に飛び込んだ男は、目の前で繰り広げられたくだらない男女の戦いを見終え、それでもなお誰にも話しかけられない恐怖から、自分が透明人間であることを確信した。