領主の住む町ラディッシュ
「無事にラディッシュへ到着しました」
「……」
「ありがとう。ソール、マーニ」
「ポロン、ギルドへ直行やぁ~」
「そうですね。早く報酬を貰いに行きましょう」
ロキたちは無事にラディッシュへ到着した。ロキがソールとマーニへお礼の言葉を述べている間にトールとポロンはいの一番で帆馬車から降りてギルドへ向かった。
「トール、ポロン待ちなさい」
ロキは大声で叫ぶが2人の姿は見えなくなった。
「申し訳ありません」
「元気があって良いことですね。私たちも馬車を繋ぎ場に停めてからギルドへ向かいましょう」
「……」
ロキは頭を下げて謝るがソールとマーニは気にはしていない。ソールは町の入り口付近にある大きな繋ぎ場で帆馬車を停めてからギルドへ向かった。
「ヤヌアールさん、先に暴食のトールさんとポロンさんが来たと思うけどギルマスの部屋に居るのかしら」
「……」
ヤヌアールはケモ耳の亜人族の受付嬢だ。
「はい。暴食のお2人ならギルマスのお部屋へ案内しました」
「私たちも入ってもよろしいかしら」
「どうぞ、どうぞ」
『ガタガタ、ガタガタ、ガタガタ、ガタガタ』
ヤヌアールは受付の隣にあるギルドマスターの部屋のドアノブを引っ張る。しかし、扉はカギがかかっているみたいで扉は開かない。
「ヤヌアールさん、その扉は押しドアです」
「……」
ギルマスの部屋の扉には【ヤヌアールさん、この扉は押してくださいね。ディーバより】と紙が貼られている。ディーバは毎回ヤヌアールが扉の開閉に苦戦しているので張り紙をしていた。しかし、おっちょこちょいなヤヌアールは張り紙を見ていない。
「そうでしたわ……」
ヤヌアールは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにして、扉を押そうとした時に扉が開く。
『バタン』
「ぎゃ~~~」
急に扉が開いたので勢いづくヤヌアールは、そのままギルド室へ突っ込んで木製の壁に突っ込んでしまった。
「よっしゃぁ~。飲みにいくでぇ~」
「もちのろんです」
颯爽とトールとポロンが姿を見せた。
「トール、ポロン!待ちなさい」
「待てと言われて待つバカはおらへんねん」
「そうなのです。私たちを止められるものなど何もないのです」
颯爽とトールとポロンはギルドから出て行った。
「本当に申し訳ありません」
「元気があって良いことですね。それよりもヤヌアールさんを助けましょう」
「……」
「は……早く助けてください」
ヤヌアールの頭は壁に突き刺さっていた。ロキは右足を、ソールは左足を、マーニは胴体を掴んでヤヌアールを壁から抜きだした。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「……」
「うちのバカ2人がご迷惑をおかけしました。お体は大丈夫でしょうか?」
ロキは頭を下げて謝る。
「いえいえ、私は亜人族の中でもずば抜けて体が頑丈なので問題はありません」
ヤヌアールは少しも怒ってはいない。力コブを作って元気度をアピールする。
「ヤヌアール、壁の修理代は給料から天引きしておきます」
「ガ――――ン」
ヤヌアールの顔は真っ青になり膝から崩れ落ちる。
「ディーバ様、私が壁の修理代を支払います」
ロキが壁の修理代を立て替えると申し出ると、ヤヌアールの目が煌めいた。
「いえ、今回の件はヤヌアールの不注意が招いた事故です。暴食さんの責任ではありません」
「わかりました」
「え!」
ロキがあっさりとディーバの言葉を受け入れたのでヤヌアールの目は点になる。
「ヤヌアール、そんなところで落ち込んでいる暇があるのならば仕事に戻りなさい」
「わ……かりました」
ヤヌアールは落胆した表情で立ち上がる。しかし、足取りは重そうだ。
「冗談よ、ヤヌアール。壁の修理代はギルドの経費で落としておくわ」
「やったぁ~~」
ヤヌアールの足取りは軽快になる。
『ガチャガチャ、ガチャガチャ』
「ギルドマスター、扉が開きません」
「はぁ~ヤヌアール、扉に張っている紙を読みなさい」
扉には『ヤヌアールさん、この扉は引くと良いのですよ。ディーバより』と書かれている。
「あ!そうでした。ギルドマスターが私のために張り紙をしてくれていたのです。お気遣い感謝致します」
「……そうね」
ヤヌアールは敬礼ポーズをしてディーバにお礼を言うが何度も言っているのでディーバは呆れ顔をしている。そんなディーバの思いも気づかないでヤヌアールは元気にギルマスの部屋から出て行った。
ヤヌアールさん、引いてダメなら押すのです!




