分身体
「私は対象者の名前を知ることができれば合成魔獣を造ることができるのです。本当の私であればあの亜人たちを合成魔獣にして、亜人が空を飛び魔法を使えた秘密を暴くことができたのに非常に残念です」
空に浮かぶ巨大な島【天穹の大地ルミナス】。その島の中心部には真っ白な大理石で作られた巨大な神殿がある。その神殿の部屋のベットで横になっているのが本物のガイアである。ガイアは合成魔獣を造るように自分の分身体を創造することができる。分身体の言動、意志、映像は本物のガイアと繋がっている。
「……。おかしいです。分身体の共感が途絶えたようです」
ガイアに届いていた分身体の情報が全く共感できなくなった。
「故障でしょうか?いえ、私の合成魔法は完璧です。何かトラブルでも発生したのでしょうか……。仕方ありませんね、新たな分身体をパースリへ送りましょう」
ガイアは天穹の大地ルミナスから出ることはない。面倒なことは全て自分の分身体へ押し付ける。
「仇を討ったの」
「フェル、残念ながらこれは偽物だよ」
ガイアが見ていたのはリプロが作り出した幻影であった。実際はガイアの分身体は炎の監獄からでることができずに燃え尽きた。
「に・せ・も・の」
「そうだよ。あれは神人が造った合成魔獣、本体は神人が住む天穹の大地ルミナスにいるはずだよ」
「仇を討てなくてとってもくやしい~の」
ライロックスが死んだので終わらない雨は止まったがすぐには水が消えることはない。パースリにできた大きな湖面には、亜人の奴隷とパースリに住む住人の水死体が浮いている。
「フェル、アイツを殺しても死んだ同胞は戻って来ない。平和を愛して戦いをしないことは素晴らしいことだよ。でも、善意の盾は悪意の矛に簡単に潰されてしまうのだよ」
「……」
フェルもわかっている。無力では暴力には勝つことはできない。力なき者に誰も恐れることはない。
「私が強くなるの。私がみんなを守るの。リプロさん、私を強くして欲しいの」
「そうだね。僕も能力を与えた責任があるからね。でも、1日だけだよ」
「うん」
フェルは嬉しくて笑顔になる。
「ここにはルシスお姉ちゃんは居なかった。ルシスお姉ちゃんどこ行ったのかな」
リプロは大事な使命がある。しかし、フェルに能力を与えた責任を取ることにした。
「リプロさん、お姉さんを探しているの」
「そうだよ。でも、ここにも居なかった」
リプロは寂し気な顔をする。その顔を見たフェルも感染したように悲しげな顔をした。
「でも、大丈夫だよ。どこに居るのかわからないけどルシスお姉ちゃんなら元気にしているはずだよ」
リプロはフェルに心配をかけないように元気な笑顔をみせる。その笑顔はフェルにだけではなく自分自身への言い聞かせでもある。
「私は迷惑をかけていないの」
フェルは責任を感じている。
「かけていないよ。フェル、僕が君に魔法を教えてあげる時間は少ししかないよ。気分を切り替えて特訓をしよう」
「うん」
フェルはリプロの優しさを素直に受け入れる。今は自分が強く成長した姿を見せることがリプロへの恩返しとなることを知っているからである。2人は修業をするためにパースリを後にした。リプロとフェルがパースリを去って30分後にガイアの分身体が到着した。
「どこにも分身体の姿がないようです」
ガイアは上空からパースリを隈なく探すが分身体を見つけることはできなかった。
「出来損ないだったということでしょう。さてと町は崩壊しているようなので帰るとしましょう」
「ガイア様、ガイア様、ガイア様」
ガイアを呼ぶ声が聞こえる。ガイアは声の聞こえる方へと目を向ける。するとケレースが木に捕まって手を振っていた。
「おや!ケレースさんではあ~りませんか。あなたはとてもしぶといですね」
ガイアはめんどくさそうな顔をして、ケレースの近くまで下降した。
「ガイア様、助けてください」
「これくらいのことで私を頼らないで下さい」
「突然水が町を飲み込んで全てを破壊したのです。私ではどうすることもできません」
終わらない雨は災害級の大魔法だ。一瞬で町1つを水没させるほどの大雨を降らしたので、人や家そして天空神大教会さえも水圧で潰されて流されてしまった。ケレースは運よく大木に捕まって難を逃れた。
「わかりました。あなたは新しい合成魔獣の素材になって頂きましょう」
「ちょ……ちょっと待って下さい。私は天空神12使徒の豊穣神ケレースです」
「わかっていますよ。役立たずの天空神12使徒ですよね」
「……」
ケレースは何も言い返せない。
「私が造り出したキマイラを殺させたことの責任をとってもらいます。あなたは私が造り出す合成魔獣の素材になることで、今回の失態をチャラにしてあげましょう」
「い……嫌だぁ~」
ケレースは悲鳴を上げるがガイアに逆らうことなどできない。ケレースはガイアに首を掴まれて運ばれていった。
ケレースの運命はいかに……。




