フェプロ
逃げる暇もなく一瞬でパースリの町は水没した。しかし終わらない雨は終わらない。終わらない雨はパースリだけでなく辺り一帯を浸水させて強大な湖を形成する。
「フェル、大丈夫だったね」
「うん」
リプロは翼を広げて終わらない雨を突き抜けて、上空1000mの高さまで到達した。フェルもフェニの指示を受けて炎の翼を広げてリプロの後を追った。
「君たちが諸悪の根源だったのですね」
2人が上空に達するとガイアが腕を組んで待ち受けていた。
「雨を止めるの」
フェルは怒りを込めて怒鳴る。
「ハハハハハハハハ、ゼーウス様の大事な町を燃やしたおかたが何をおっしゃっているのでしょうか。これは神を冒涜した罰なのです。あなたは罪を認めて自害することをお勧めします」
「わ……私のせい……」
フェルの顔が青ざめる。自分のした行いで多くの同胞を水死させたのである。
「それなら君も自害しないといけないよ」
リプロはガイアに問う。
「ハハハハハハハ、私は何もしていません。パースリの住人を水死させたのはライロックスです。もうじき彼も自分の罪を認めて水死するでしょう。これは大きな力を得た者の因果応報なのです。さぁ、あなたも潔く自害すると良いでしょう。そうすれば、あなたのエゴで死んだ同胞も天国へと旅立つことができるというものでしょう」
「リプロさん、私は悪いことをしたの」
フェルは自責の念に囚われる。
「あの合成魔獣を造ったのは君だよね。君の指示であの町を水没させて多くの生き物の命を奪った。報いを受けるのは君だよ。フェル、アイツの言葉に惑わされたらダメだよ。確かに大きな力を得た者は、その力の使い方に責任を持つ必要があると思う。でも、それは弱者を守る責任ではないよ。すべての事柄は多くの犠牲の上に成り立つものであり、その犠牲の1つ1つに責任を取っていたら何も変えることはできない。今回多くのフェルの同胞の命が消えて行った。その命を次に繋げることがフェルの責任だよ。こんなことで挫けていたらダメだ。命を失った同胞の分もフェルは強く生きる必要があるのだよ」
「私の責任……」
「ハハハハハハハ、それは責任逃れというのだよ。あなたのせいで罪のない多くの亜人と人間が死んだ。強さとは弱者を守るためにあるものです。弱者を見殺しにする力などあってはならないのです」
ガイアは気持ちよさげに力説する。
「黙るの」
「はい?同胞殺しの大罪人が何か言いましたか?」
ガイアはフェルを煽る。
「あなたを殺すことが私の責任なの」
「はい?脆弱な亜人族が何か言いましたか?」
ガイアは嘲るように言う。
「私は弱いの。とても弱いの。今にも壊れそうなの。でも私は自分の行いに責任を取るの」
フェルの心はたゆっている。争いを好まない亜人族、いきなり大きな力を得て、そして魔族の魔石になったことで心と体は不安定である。そんな不安定なフェルにガイアの言葉は重くのしかかる。自分のしたことは正義だったのか……。それとも驕りだったのか……。でも、リプロの言葉で覚悟を決める。この世界では亜人族の温厚な性格は気の弱さとして蔑まれる。亜人族の尊厳を守るためにフェルは力で正義を勝ち取るしかないと悟ったのである。
「炎の監獄」
フェルは魔法名を唱える。すると炎の監獄が出現してガイアを閉じ込める。
「キュキュキュキュ――」
フェニがフェルの魔法を強化する。すると炎の監獄はガイアを焼き尽くすように小さくなる。
「ハハハハハハハ、こんなチンケな魔法で私を殺すのは不可能なのです」
ガイアは体を収縮させて炎の監獄の隙間から脱出する。
「次は私の番ですね。万物合成」
ガイアは魔法名を唱える。するとリプロとフェルの間に光の渦が現れた。光の渦は眩い光を輝かせながらどんどん大きくなりリプロとフェルを飲み込んだ。
「ハハハハハハ、ハハハハハハ。劣等種族である亜人が空を飛び魔法を使っているのはとても気がかりです。どういう経緯でそのような力を得たのかきちんと説明してもらうことにしましょう。さぁフェプロさん、あなたの秘密を教えてください」
光の渦は全身がバラバラに砕けたリプロとフェルの死体を吐き出した。
「残念ですね。私としたことが合成に失敗したようです」
ガイアはしょんぼりとした顔をした。
リプロとフェルがバットエンドを迎えたのです!




