終わらない雨
「グハハハハハハ、グハハハハハハ。ちょ～気持ちええぇ～」
渦の中からは前後に顔のある巨漢で４本の腕を持つ男が現れた。もちろん2つの顔はロックとライスである。体は合成されたことにより２ｍを越えモジャモジャの体毛で全身が覆われていた。ロックとライスは共に神技を獲得した剣技と武術の達人である。そのうえ青の魔石を埋め込まれたことにより魔法が使えるようになった。魔法は幼い頃からの修行が必要となるが、ガイアが埋め込んだ青色の魔石には３つの魔法がインプットされており、合成魔獣は魔法名で魔法を発動することができる。
「ライロックスさん、笑っていないで早く消化活動をして下さい」
「がってん承知のすけ」
ジュピターの造る合成魔獣と違ってガイアの造る合成魔獣は、人間を掛け合わせると話すことができる。今回は2人の人間を合成したので脳が２つあり意志も２つある。しかし、優先権は能力が高い方に与えられるので、ライスに優先権があるようだ。ライロックスは偉大なる力を得たことで気分が高揚している。ライロックスはスキップをしながら燃えている屋敷のほうへ向かった。
「あれは何なの？」
「フェル、あの翼の生えた人間は神人だと思うよ」
リプロとフェルは次々と家を燃やしていたが、ガイアが空から降りてきたのを確認すると身を隠して覗き見をしていた。
「神人？」
「フェルは神人を知らないのだね。神人は原初の神と呼ばれる天界に住む５人の神から神力という異形の能力を与えられた人間のことを指すのだよ」
「あの人は悪い人なの？」
「そうだね。神から与えられた能力を悪用しているようだね。これは協定違反だと思うなぁ」
リプロは神人が人間を合成魔獣にしている様子を見て、人界へ介入しないという協定に違反していると感じた。
「協定違反？」
フェルには意味がわからない。
「まぁいいか！僕も違反しちゃったからね」
リプロがフェルに能力を与えた行為も違反行為にあたるだろう。しかし、フェルを見捨てることはできなかった。
「そもそも神人の存在自体がダメなんだよ。ラファンは何をやっているのだろう」
リプロはブツブツと愚痴をこぼす。
「リプロさん、協定違反とはどういうことなの？」
「フェル、その話はきかなかったことにしてね」
リプロが魔族であることは内緒の話だ。
「うん」
フェルは素直にリプロの指示に従った。
「フェル、アイツをどうしようか？」
「天空神教は亜人を誘拐しては奴隷にしているので退治したいの」
「それは良いことだよ。フェニ、フェルのサポートを任せたよ」
「キューキュキュ」
フェニは嬉しそうに返事をした。
「グハハハハハハ、グハハハハハハ。俺の氷魔法で消火してやるぜ！壮大な氷、壮大な氷、壮大な氷、壮大な氷」
ライロックスが魔法名を唱えるとライロックスの頭上に1cmほどの氷が4つ浮かび上がる。その氷はメキメキと音を立てながらみるみると大きくなる。10秒ほど経過すると直径1mの氷の球が出来上がった。ライロックスは1mの氷を4本の手で掴み、屋敷へ放り投げる。
「壮大な氷、壮大な氷、壮大な氷、壮大な氷」
ライロックスは次々と氷の球を作って燃え上がる屋敷へ放り投げて消火活動をする。しかし、フェルの滅びの業火は消えることなく激しく燃え上がる。滅びの業火はライロックスをあざ笑うかのように次々と屋敷を灰にする。
「ライロックスさん、あの炎は普通の火ではないようですね」
「…………。グハハハハハハ、グハハハハハハ」
ライロックスは意味が理解できないので笑ってごまかす。
「おそらくネズミが潜入したのでしょう」
「はい。あとで亜人に駆除させます」
「……」
ガイアは少し無言になる。
「ライロックスさん、ネズミの駆除は後にして鎮火を優先させましょう」
「がってん承知の助」
ライロックスは、鎮火は理解できたので4つの腕で力コブを作って嬉しそうにポーズする。
「あの火はパッシブ魔法では消火できないので、1年に1度しか使用できないアルティメット魔法で鎮火すると良いでしょう」
「がってん承知の助」
ライロックスは3つの魔法が使える。パッシブ魔法の壮大な氷、タクティカル魔法の素敵な水、アルティメット魔法の終わらない雨がある。
ライロックスはアルティメット魔法名を唱える。
「終わらない雨」
急に空は黒い雲に覆われて無数の稲光が輝くと滝のような雨が大地に降り注ぐ。これは雨というよりも空が海に変わり海が地面に落下したと表現した方が正しいだろう。数秒で人間の姿が見えなくなるほど町は浸水した。しかし、浸水した中でも滅びの業火は消えることなく激しく燃え上がっていた。
パースリが水没したのです！
