滅びの業火
「……」
フェルはポカンと大きく口を開けて驚いている。
「まだ実感できていないよね。そうだ!フェニ、姿を見せてあげて」
「キュ――」
高音の可愛らしい声がした。その声の主であるフェニとはスズメほどの大きさの真っ赤な小鳥である。フェニはフェルの体の中から飛び出してきた。
「キュー、キュキュー」
フェニの発する声は何を言っているのか聞き取れない。しかしフェニの意志はリプロとフェルの脳に直接伝わる。
「この子が私の能力なの」
「そうだよ」
「キュー」
「フェニ、能力の一端を説明してあげて」
「キュー、キュキュキュ」
フェニは燃え上がる翼をパタパタと羽ばたかせながらフェルに説明する。
「私にそんな能力があるの」
「キュキュキュー」
「試してみるの。滅びの業火」
フェルはフェニに教えてもらった通りに右手を伸ばして魔法名を唱える。
亜人は魔法が使えない。それは亜人の魔石が白色だからである。しかし、フェルはフェニックスの能力を授かった時に、フェルの魔石はフェニックスの能力により燃やされて黒へと変色したのであった。フェルは亜人と魔族の混血種となったと言えるだろう。そして、フェルには長い詠唱も必要ない。それはフェニが補助しているからだ。
「すごいの。すごいの」
フェルの手のひらにはサッカーボールほどの炎が激しく燃え上がる。
「キュキュキュー、キュー」
フェニはフェルの炎に油を注ぐように炎を強化する。すると炎の熱風で部屋の中のすべてのモノを灰にした。
「フェニ、あぶないよ」
「キュキュ」
リプロとフェルはフェニが強化した炎に包まれてしまった。しかし、リプロとフェルの体は火傷ひとつ負わない。それはフェニックスの能力に絶対的な炎耐性があるからだ。
「ごめんなさいなの」
責任を感じたフェルはリプロに謝罪する。
「君のせいではないから気にしなくて良いよ」
「うん」
フェルは小さくうなずいた。
「魔法の使い方も理解できたみたいだし、1つ1つ部屋を調べてみよう」
「うん」
リプロたちは部屋の外に出る。部屋の外には手足のない亜人がゴミのように転がっている。その光景を見たフェルは強く拳を握りしめる。そして体中からは炎が燃え盛っていた。フェルは怒りを抑えきれずにフェニックスの炎の能力を暴走させていた。
「たす……けて」
「こ……ろして」
半死状態の亜人たちは助けもしくは安らかな死を求める。
「私にみんなを助けることはできないの?」
フェニックスには無限再生の能力がある。しかしそれは自分への再生であり、他者への再生ではない。フェルは助けを求めるようにリプロのほうを見た。
「もう無理だと思う」
今この場にいるのはリプロとフェルだけである。2人には拷問を受けて瀕死の亜人たちを救う術はない。
「……」
フェルは何もできない悔しさに涙が溢れ出た。
「私が楽にしてあげるの」
フェルにできることはこれ以上苦痛を味あわせないことだけだった。フェルは右手を伸ばして力を込めて魔法名を唱えた。すると右手の手のひらにサッカーボールほどの炎の球が出現した。そしてフェルは炎の球をボウリングの球を投げるように広間の中央へ転がした。
「キュキュキュ、キュー」
フェニが炎の球を強化する。すると、炎の球は転がりながらドンドン大きくなって亜人たちを炎で包み込んで一瞬で消し炭にした。
「絶対に仇を討つの!」
フェルは亜人たちが消し炭になる姿を目を背けずに見ていた。
「よくがんばったね」
リプロはフェルの肩を叩いて勇気ある決断を褒める。
「うん、次は捕まっている同胞を助けるの」
覚悟を決めたフェルは躊躇しない。フェルは次々と扉を燃やして拘束されていた亜人たちを解放しようとする。しかし、全ての亜人は酷い拷問を受けて半死状態だった。死を願う同胞たちにフェルはためらうことなく灰にした。
「フェル、どうする」
「みんなを解放してあげるの」
奴隷として躾された亜人たちは生きた屍だ。特権地域から解放しても元の生活に戻れるか不安がよぎる。しかし、このまま放置するのが幸せだと思えない。だからこそフェルは奴隷として働いている亜人たちを解放することにした。
フェルちゃん頑張るのです!




