再生と炎の悪魔フェニックス
ウィアードーが扉を開くと、頭に一本の白い角が生えた金色の髪の女の子が両手両足を釘に打ち付けられて壁へ磔にされていた。顔は原型がわからないほど大きく腫れて、全身には鞭で打たれた無数の傷、言葉で表現することができないほどの凌辱を受けたことは一目でわかった。リプロは一目見てその女の子が私ではないと気付いたが、理性を抑えることはできなかった。それは、その女の子に私の面影を投影してしまったからである。リプロはウィアードーを消し炭にすると壁へ磔にされた女の子のもとへ行き、女の子を丁寧に壁から外して床へ寝かせた。
「あ……あぁ……あ」
女の子の歯はすべて抜かれていて、舌も半分斬り落とされていた。それでも女の子は何かを訴えるかのように声を発する。
「死にたいの？それとも生きたいの」
リプロは女の子に問いかける。
「あぁ……あぁぁ」
女の子は最後の力を振り絞るように声を上げた。その声はリプロには生きたいと聞こえた。
「君の意志はわかったよ。僕の力の一端を君にあげるよ」
リプロの体からどす黒いオーラが発生する。そのどす黒いオーラは女の子の口の中へ入って行く。すると女の子の体は黒く変色して、ブクブクと沸騰したかのように皮膚が煮えたぎる。その姿は痛々しくて見ていられない。黒い泡が体中から湧き出て、女の子の体はスライムのような液状となる。完全な液状になると泡は消え去り、女の子は光沢のある不気味に黒く輝くスライムとなった。
「もう少しの我慢だよ」
リプロは優しく声を掛ける。黒いスライムはゆっくりと動き出し形が変容していく。15分ほど経過すると液状のスライムは浅黒い肌の可愛らしい女の子の形になっていた。
「ルシスお姉ちゃん……」
リプロは思わず小さい声で呟いた。リプロが声を上げるのも当然だ。その亜人の容姿は私によく似ていた。
「もう、大丈夫だよ」
リプロは込み上げる気持ちを抑えて女の子に声をかける。
「……」
女の子は大きな緑色の瞳で自分の体をじっと見る。
「元に戻っているの」
ズタボロにされた体が元の姿に戻っていることに気付いた女の子は、大粒の涙を浮かべながら喜んでいる。そしてリプロの方を見る。
「あなたが助けてくれたの」
女の子は可愛らしい声でリプロに問う。
「そうだよ」
リプロは笑みを浮かべて答える。
「ありがとうなの」
「気にしなくても良いよ。よかったら君の名を教えてくれるかな？」
「私はフェルなの」
「僕はリプロだよ。フェルはこれからどうしたいの？」
「家に帰りたいの」
「そうなんだ。それなら僕が家まで送ってあげるよ」
「本当なの」
「もちろんだよ」
「ありがとうなの」
フェルは安堵の笑みを浮かべた。
「ここには1人で連れて来られたのかな」
「うん。森で木の実拾いをしていたら人間に襲われたの」
フェルは1人で森の中で木の実拾いをしていたところを人間に誘拐されてパースリへ連行された。天空神教は各地で亜人を誘拐して、天国への階段へ連れて来て極悪非道な行為を繰り返していた。天国への階段で躾をされた一部の亜人は奴隷としてアドバンスゾーンで働かされるが、ほとんどの亜人は酷い拷問を受けて死ぬことの方が多い。
「そうだったんだ。でももう安心してね」
「うん。あの～、ここへ連れて来られた他の亜人も助けることはできるの」
フェルは他の亜人たちも助けたいと思った。
「それはできないよ」
リプロは首を横に振ってフェルの願いを断った。これは仕方のないことである。リプロは魔族であり人界への介入は許されていない。ウィアードーは消し炭にして存在自体を抹消して殺害の証拠を消し去った。しかし、アドバンスゾーンの全ての亜人を解放すれば大問題である。人界での争いは人界で対処しなければならない。
「ごめんなさいなの」
フェルは自分がわがままを言っていると理解した。
「僕の代わりに君がみんなを助けてあげれば良いのだよ」
リプロの言葉にフェルは目を大きくしてビックリしている。
「無理なの」
フェルに同胞を助ける力などない。それはリプロも知っているだろう。
「君にならできるよ」
リプロはニコリと笑みを浮かべる。
「無理なの。絶対に無理なの」
フェルは大きく首を横に振る。亜人族は劣等種族。そう呼ばれるのは理由がある。亜人族のほとんどは非力で魔法が使えない。亜人族は温厚で戦いを好まない種族ゆえに人間よりも弱くなったのだ。
「大丈夫だよ。君には僕の力を少しだけ分けてあげたよ」
「……」
フェルはキョトンとした。
「君には再生と炎の悪魔フェニックスの能力をわけてあげたのだよ」
リプロが契約した悪魔の1人はフェニックスである。リプロは半死状態の亜人の女の子を救う為にフェニックスの能力の一部を与えたのである。フェルはフェニックスの再生力で元の姿に戻ったのである。しかし、フェニックスの能力は再生力だけではない。炎を自由に扱える能力も備わっている。
フェルはフェニックスの能力で強くなったのです！
