天国への階段
リプロがアドバンスゾーンの特権地域へ入ると、景色は一変した。そこは天国と地獄が併存する場所だった。特権地域にはゴミどころかチリ1つ落ちていない、キラキラと光る道が整備されて、真っ白な綺麗な豪邸が立ち並んでいる。そして、真っ白な服を着た亜人が掃除用具を持って道や豪邸を清掃していた。
「亜人さんがいるのだ」
特権地域には亜人がいた。しかも1人ではなくたくさんの亜人が掃除に従事している。
「あの〜すみません」
リプロは亜人に声をかける。
「……」
しかし、亜人はリプロの声に全く反応せず掃除を一心不乱にしている。
「あの〜すみません。少し話を聞いてください」
「……」
やはり亜人はリプロの声に反応しない。
「おいおい君、ここは特権地域ですよ。どうやってここへ入って来たのですか」
リプロに声をかけたのは人の好さそうな目の細いスリムな男性だ。
「ほら!」
リプロは幻影で特級神の証を見せる。
「見ない顔ですね。君はここの住人ではないでしょう。どこから来たのですか」
男性はリプロの怪しい行動を見て声を掛けてきたのだ。
「お姉ちゃんが行方不明になったので探しているの」
リプロは人界の町の名前など知らないので別の話題へ変更する。
「そうですか……。でもここ最近新しい住人は増えていませんよ。残念ながらここには君のお姉さんはいないようですね」
男性はリプロにすこし同情をして親切に教えてくれた。しかし、リプロが知りたいのは人間ではない。
「ありがとうございます。別の町を探してみます。ところで町の掃除をしている亜人さんはなぜ僕の話を聞いてくれないのですか」
「ハハハハハハ、そんなの当たり前ですよ。アイツらは劣等種族の亜人です。高潔なる私たちと会話をする権利などありませんので、舌と声帯を切断して喋られないように処置をしています」
住人はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら饒舌に説明する。
「そうなんだ。あの亜人さんたちはどこから来たのかな?」
「君は本当に何も知らないのですね?親御さんはどのような教育をしているのか心配してしまいます」
「ご心配ありがとうございます」
「仕方ないですね。私が君に教えてあげましょう。アイツらはすぐに死んでしまうから定期的に採取されてパースリへ運ばれてくるのですよ」
「運ばれる?」
「そうです。ゴミである亜人を回収するのも天空神教の教えの1つです。天空神軍は各地に住む亜人たちを捕獲して、私たちの世話をするという名誉ある仕事を与えてあげているのです。それなのにアイツらは、すぐに死んでしまいますので定期的に亜人を運搬しているのです。たしか2日前にも数名の亜人が運搬されてましたね」
「今回運ばれた亜人さんの中に、僕と同じ背丈の女の子の亜人さんは居ましたか?」
「あぁ、居ましたよ。可愛らしい亜人は調教のしがいがあり私もやりがいを感じています」
男性が嬉しそうに話す姿を見たリプロは強く拳を握りしめながら怒りを抑える。
「その連れて来られた女の子の亜人さんはどこにいるのですか」
「この先の奥にあるファームゾーンですよ。運搬された亜人は1か月ほど調教して身の程を教えてあげるのです。自分の立場を理解した亜人は、晴れて私たちの奴隷として働くことができるのですよ」
「そうなんですね。少し興味がありますのでファームゾーンへ行ってみます」
「ハハハハハ、ハハハハハ。その年から亜人をいたぶりたいなんて君は素質がありますよ。私もちょうどあの亜人をいたぶりに行くつもりだったので一緒に行きましょう。私の名はウィアードー、よろしくね」
「……僕はリプロだよ」
リプロは歯を食いしばって答えた。
「リプロ君、私が亜人の調教のやり方を教えてあげましょう」
「は~い」
リプロは無邪気な笑顔で返事をするが、内心はぐつぐつと煮えたぎっていた。
ウィアードーはファームゾーンへ着くまでの間、終始亜人の悪口と天空神教の素晴らしさをリプロに話し続けた。一方、リプロは怒りを抑えることに集中していたので会話の中身が全く入ってこなかった。
「殺したらダメだ。殺したらダメだ」
リプロは念仏のように心で唱えながら冷静さを保つ。
「あれが世界に誇ることができる亜人調教施設天国への階段です」
ウィアードーは愉悦の笑みを浮かべた。
ファームゾーンの敷地内にある天国への階段は真っ白な玉ねぎの形をした建物である。パースリへ連れて来られた亜人は天国への階段で監禁されて教育を受けることになる。
「僕も入ることができるのですか」
「もちろんです。特級神の証のある敬虔なる信者には、劣等種族である亜人を自由に扱う権利があるのですよ」
リプロは今すぐにでも天国への階段をぶち壊して亜人の子の素性を確認したい。しかし、天界と交わした人界へ介入しないという条約を守るためにおとなしく良い子を演じる。
「リプロ君、心が躍りますよね」
「はい」
大きな玉ねぎ型の亜人強制施設である天国への階段には門番などいない。特権地域の住人ならばいつでも自由に出入りできる。2人が扉の前に立つと扉は自動で開く。するとそこには大小さまざまな大きさの鉄の檻が無数に並べられていた。
とっても悪趣味な場所に来たようなのです。




