修業
私が魔王書庫へ監禁されてから1カ月が経過した。今日も1日中魔王書庫の本を読み漁って1日が終り堅いマットの上で眠りに着いた。
「お嬢さん、こんなところに閉じ込められていたのですね」
私へ話しかける声でハッと目を覚ます。目を覚ますとそこは魔王書庫ではなかった。足元には雲のような真っ白なフワフワの地面、地面からはチョコレートの木が生い茂り葉はビスケットでできている。空はピンク色で、カラフルな包み紙に包まれたアメ玉が降っている。
「うん、これは夢ね」
魔界にはお菓子が存在しないので、前世の記憶がある私は、お菓子が欲しくてお菓子の夢を見ることが多かった。
「お嬢さん、私の話を聞いていますか」
夢の中でしつこく私に声をかける人がいるようだ。
「今は楽しい夢を見ているのよ。ちょっと静かにしてくれませんか」
ここは私の夢の中だ。今は魔界では食べることができないお菓子を食べる時間だ。
「私です。ミカエルです。お嬢さんに用があって夢の中へお邪魔したのです」
「え!ミカエル様なの?なぜ、私の夢の中にミカエル様がいるのでしょうか?」
「浄化された魔石が体と馴染むのが1か月ほどかかります。そろそろ、お嬢さんが私たちの力を使いこなすための修業をする必要あると思い夢の中へ訪れたのですが、大変なことになっているようですね」
「てへへへ、私……監禁されちゃいました」
私は笑って説明する。
「申し訳ございません。私達が力を与えたことで、辛い思いをさせているのですね」
「いえ、そんなことはないですよ。監禁されたのは悪魔との契約に失敗した私の責任です。ミカエル様達は何も悪くはありません。それどころか私に力を授けてくださった恩人です。お母様にはきちんと説明できなかったことが心苦しいですが、魔王書庫でのんびり本を読んでスローライフを満喫しています」
私は現状を悔やむことでなく前向きに考えるようにしている。『魔王の子供に転生した少女は悪魔が怖くて魔王書庫に監禁される。しかし、魔王書庫でスローライフを満喫するのだ』と新たな主題を用意したのである。
「ハハハハハ、本当に面白いお嬢さんだね。でも残念ながら魔王書庫でスローライフを満喫することはできませんよ。私はお嬢さんにハードライフを提供するためにきたのです」
「望むところです。でも、夢の中で何をするのですか?」
ここは夢の中、今話している内容でさえ私の妄想かもしれない。
「実はここは夢の世界ではないのです。ここはアリエルの力である森羅万象で作り出された異空間なのです。天界に住む私たちは直接魔界へ訪れることは不可能ですが、力を与えたお嬢さんの夢の中を経由して異空間へ招待したのです」
「私の夢だけど夢じゃないってこと?」
「そのようにとらえてもらっても問題はないでしょう。では続きを説明します。この異空間は厳密には、お嬢さんの肉体ではなく魂のみが招待されているのです。そして、異空間でどのような過酷な修行をしても、現実世界の肉体には反映はされません」
「それなら意味ないじゃん」
私は思わず愚痴ってしまった。
「厳密に説明すると浄化されて魔力を失った白い魔石には反映されないということです」
「どういうこと?」
私はミカエルの厳密な説明でも理解できなかった。
「簡単に説明すると3年後に、魔石が金色に変貌して魔力が戻った時に、修業した成果が体に宿るのです」
「理解できました」
私は元気良く手を上げて理解したことを示す。
ミカエルからの提案はとてもありがたい話である。何もしないで3年後に7大天使様の力を授かっても、それを完全に自分の力として使いこなすにはかなりの月日が必要となるだろう。私は下調べをするために、魔王書庫で天使の力を調べたが全く記載がなく途方に暮れていた。餅は餅屋に聞けとの言葉通りに、天使の力のことは天使に聞けば良いのである。
「では明日より毎日13時から20時まで修業を行いたいと思います。今回は夢を経由して訪れましたが、明日からは瞑想をして待っていてください。そうすれば、時間になると異空間へと魂を誘導したいと思います。説明はこれで終了となります。明日からがんばりましょう」
そう告げるとミカエルの姿が消えて私は目を覚ました。私は3年間1人で、魔王書庫で本を読み続ける生活を送るものだと思っていたのでとても嬉しかった。それは修業ができる喜びと言うよりも誰かと一緒に過ごせる時間があることの喜びでもある。明日からはどんな修業が待ち受けているのかと考えると嬉しくてたまらなかった。
翌日、私は12時55分には瞑想を開始して修業に挑んだ。
修業の内容は、1年間は天使の力の勉強と基礎体力・筋力の鍛練、魔力操作の練習だった。2年目からは実際に魔力を使った力の特訓と力の応用であった。自分なりに授かった力をいかに変化させ自分のものにするかの訓練である。3年目は実戦経験だ。天使達が連れてきた天界に住む神獣たちとの戦いである。そして、3年目の最後の1か月間は最終試験として、7代天使とのタイマンバトルである。魔王の子供である私は、生まれ持ってのポテンシャルの高さで、様々なことをスポンジのように吸収しつつ、アレンジもしていった。私の成長の速さには7大天使も驚きの顔を隠せなかった。
そして最終試験の日、私は天使様とのタイマンバトルにも圧勝してしまった。
「お嬢ちゃん……強すぎだ」
疲れ果てた顔でラファエルは言う。
「本当は最終試験は、8歳となる1か月前に行われるはずだったのに、半年も早く最終試験を行うことになるとはね……」
ミカエルは嬉しそうに言った。
「もしかしたら私達7人と同時に戦っても勝ってしまうのかもしれないね」
と笑いながらガブリエルが言った。
「その話し面白そうです。それならば、8歳となる2日前に7対1で決闘をしましょう!それまでの半年間は異空間を自由に使ってください」
「はい、ミカエル様。天使様達の指導のおかげで私はこんなにも強くなることができました。あとの半年間は1人で訓練をおこないます。そして、天使様達の期待に答える結果を示したいと思います」
そして8歳をむかえる2日前、7大天使との決闘が行われた。もちろん私は7大天使相手に勝利をおさめるのであった。7大天使達は私が勝利したことをとても喜んでくれた。
この3年間私は、明後日の運命の日のために日々たゆまぬ努力をしていた。毎日7時から13時までは、魔王書庫の本を読み知識の探求に精を出し、13時から20時までは、天使の指導のもと修業をした。だから20時に現実世界へ戻るとご飯も食べずに寝てしまっていた。そんな過酷な生活もやっと終焉を迎える。しかし、運命の8歳の誕生日の前日に私は人界へと追放された。
なんでこうなるの?