神聖魔法
「交換条件ってことですね。それなら次はラファンさんのお話を聞かせてください」
ザトキエルはラファンの腹の内を理解する。
「それでは私のことをお話ししましょう」
ラファンは苦しい胸の内を説明した。
「それはかなり危うい状況ですね」
「はい。アイツは死んでいるはずなのでリプロを葬るしか手はないと思っています。けれど魔界でリプロを殺すのは難しいのです。しかし、私に追い風が吹いたのです。なんとリプロは自ら人界へ来たいと言ってくれたのですよ。私は策を要せずともチャンスが舞い降りてきたのです」
「ほほう。それは大変幸運な出来事ですね。するとラファンさん自ら手を下すのでしょうか」
ザトキエルは微笑みながらラファンに意地悪な質問を投げかける。
「そ……それも悪くはないでしょう。しかし、魔族を倒すには光魔法の進化バージョンである神聖魔法が最適です」
ラファンは意地悪な質問に一瞬顔を曇らせるが冷静さを装う。
「神聖魔法……それが交換条件ってことですね」
「はい。神聖魔法でリプロを暗殺する代わりに魔界の秘宝の1つである【原初の5大魔石】の2つ目をお渡ししましょう」
ラファンは私の暗殺を手助けをする報酬として、ザトキエルに魔界の秘宝である原初の5大魔石の1つをすでに渡していた。
「王女の時は魔力を失っていたので、キマイラを使って容易く葬ることができましたが、今回は簡単に暗殺することはできないでしょう」
「1つでは物足りないということでしょうか」
「そうなります。神聖魔法は光魔法の究極系となります。上位の天使でも使える人物はごくわずかなので、残りの原初の5大魔石を全て頂けなければこの交渉を成立させるのは難しいと思われます」
「……」
ラファンは訝しい顔をして考える。
「ラファンさん、今あなたは人生の岐路に立たされているのですよ。もしも王子が生きて魔界へ戻って来られるとあなたの人生は終了です。よく考えて答えを導き出してくださいね」
ザトキエルはラファンを説き伏せる。
「……。……。……。……わかった」
ラファンは聞き入れるしか選択しはない。
「では、前報酬として今お持ちの魔石を1つもらえないでしょうか」
ラファンは交渉のために原初の5大魔石の1つを用意していた。そのことにザトキエルは気付いている。
「手付金ということですね」
「そうなります」
ザトキエルは自分の策を講じるために早く原初の5大魔石を手に入れたい。
「わかりました。しかし、リプロを絶対に殺せるという証明が欲しいと思います。殺しを頼んでおきながら失礼ですが、いくら魔界にはない魔瘴気が存在しない人界でもリプロには、並みの天使では勝てないでしょう」
「本当にあなたは失礼極まりありませんね。しかし、己の人生を左右する大事な事柄なので、その無礼千万を許しましょう」
ザトキエルは自信ありげに笑みを浮かべる。
「まさか……あなたが手を下すのでしょうか?」
ラファンは唇を震わせながら問う。
「ご冗談を。残念ながら私は神聖魔法を使うことはできません。それよりもラファンさん、お気づきになりませんか」
「何のことでしょうか?」
ラファンは理解できない。
「最高位の魔族が俺様の存在に気付かないとは、俺様が強くなり過ぎたのかな?アハハハハハハ」
「ラファンさん、ご紹介いたしましょう。このお方が上位の天使である座天使ザフキエル様です」
ザトキエルの背後には座天使ザフキエルが立っていたがラファンはまったく気づいていなかった。ザトキエルとザフキエルの容姿体系髪型全て同じだが、ザフキエルの両腕は精巧な機械で出来ていて、背中には大きな4つの翼が生えている。
「い……いつからそこにいたのでしょうか」
「アハハハハハ、アハハハハハ。俺様は最初からずっと居たぞ」
ザフキエルはラファンをあざ笑う。
「ラファンさん、これが神聖魔法の一旦なのですよ」
「聞いたことがあります。神聖魔法を極めた天使は魔族の認識を阻害させることができると……」
魔界随一の知恵者であるラファンだが、天使や神が使う神聖魔法の情報量には乏しいのである。それは天使や神側が神聖魔法の情報を規制して魔族に対策をさせないためである。
「これはあくまで神聖魔法の一端に過ぎない。今の俺様なら魔王シュプリームでさえ瞬殺できるぜ。アハハハハハ、アハハハハハ」
「ザトキエルさん、凄い方を呼んでいただいてありがとうございます」
ラファンは破顔一笑する。
「シュプリームの子供を殺せるとは、これは俺様にとってのご褒美であり復讐だ。お前には感謝しているぞ」
ザフキエルは愉悦の笑みを浮かべた。
ザフキエルはお父様と因縁があるようなのです!




