瞬間移動
気付くと部屋にはリプロの姿はない。
「デットリー、先ほどまでリプロ王子殿下はこの場所にいましたよね」
「そうだな。いつの間にか消えていた……」
ラファンとデットリーは部屋を見渡すがリプロの姿はない。
「どこからどこまでが幻影だったのでしょうか」
「俺がわかるわけないだろ」
デットリーは逆ギレする。
「突出した魔力量を保持していたルシス王女殿下にばかり気を取られていましたが、2人の王子殿下も桁外れの力を持っていると考えてよろしいでしょう。もし、ルシス王女殿下が死んでいれば私たちは無間地獄の苦しみを体験することになるでしょう」
ラファンは涙目で話す。
「お父さん、あいつどこへ消えたの?僕はあんなやつ全然怖くないよ」
「そうだ、そうだ」
「ルシファーさんと契約した僕のが絶対に強いよ」
デットリーの3人の息子は事の重大さに全く気付いていない能天気野郎だ。
「お前たちは先に帰れ」
デットリーは強めの口調で息子たちへ帰るように伝えると、息子たちは小声で文句を言いながら部屋を出て行った。
「ラファン、アイツが生きている可能性はあるのか」
「計画通りに進んでいれば、ルシス王女殿下は神人が作った合成魔獣キマイラに食い殺されているはずなので生きている可能性は0%です」
実は合成魔獣キマイラはキャベッジを襲う為ではなく私を殺すことが真の目的であった。
「シュプリームが魔界から去り、魔王候補筆頭のルシスの魔力がなくなり、やっと俺達の時代が来ると思ったのに……。どうして失敗したのだ!」
デットリーは大声で叫ぶ。
「………………」
ラファンはデットリーに近寄り耳打ちをする。するとデットリーはニヤリと笑った。そして、2人は無言で部屋を出て行った。
『トントン、トントン』
「カァラァ、僕だよ、リプロだよ」
『バタン』
扉は自動ドアのように自動に開く。カァラァの部屋は全面が黒塗りになっていて、私と一緒に撮った写真が壁中に貼ってある。
「リプロお兄ちゃん、どうだったの?」
「やっぱりアイツらが画策してルシスお姉ちゃんを人界へ追放したみたいだよ」
「ぶっ殺す!」
カァラァの目は殺意に満ちている。
「カァラァ、ダメだよ殺しちゃ。死んで終わらすなんて優し過ぎるよ」
リプロは狂気に満ちた目で微笑む。
「でも、僕は我慢できないよ」
「その気持ちはすごくわかるよ。でも僕に任せてよ」
「……うん」
カァラァは小さく頷く。
「計画通り人界の見回り当番の大役を僕が奪って来たよ」
「ほんと!」
「うん。でもお母様には絶対に内緒だよ」
「言わないよ」
人界の見回り当番はシュプリームが魔王の頃よりずっとラファンが行っている。転送魔術に長けているラファンが一番最適なのは言うまでもない。
「さっそく明日にでも人界へ言ってくるので、お母様にはバレないようにお願いするね」
「うん。絶対にルシスお姉ちゃんは生きているよね」
カァラァは涙を浮かべて訴える。
「魔力を失ってもルシスお姉ちゃんには叡智の力があるから問題ないよ」
「そうだよね。ルシスお姉ちゃんは昔から僕たちにいろんなことを教えてくれた奇天烈な天才だよね」
私は前世の記憶が蘇ってからは、2人の弟を楽しませるためにトランプなど前世で遊んだ道具やおもちゃを作ってよく遊んだものだ。私にとってはありふれたモノでも、2人には新鮮で貴重な体験だったようだ。あの何気ない遊びが2人の弟の心を鷲掴みにしていたことなど私は知るよしもなかった。
「人界の見回り当番の日程は2日間と短いけど絶対にルシスお姉ちゃんを見つけて来るね」
「うん。絶対見つけて来てね」
リプロとカァラァは期待に胸が躍った。
そして次の日。
「ラファン、ルシスお姉ちゃんを転送した場所に送ってね」
「今回の人界の見回り当番の場所は人界の空の領域となっています。リプロ王子殿下はルシス王女殿下を転送したオリュンポス王国へ向かわれるのであれば、私が空の領域の見回りをしてきてもよろしいでしょうか?」
ラファンは頭を下げてお願いする。
「僕の邪魔をしなければ問題ないよ」
リプロはラファンの意見を聞き入れる。リプロにとってラファンがどのような行動をしようが気には留めない。しかし、その行動が私に関わることであれば烈火の如く怒り狂うのだろう。
「では、ルシス王女殿下を転送したオリュンポス王国の転送ポイントへお送りします」
ラファンはリプロの手を握る。
「瞬間移動」
ラファンが魔法名を唱えると2人の姿は消えた。
リプロが人界へ来るのです!私と会えるのでしょうか?




