見回り当番
「不意を突かれただけだ」
デットリーは虚勢をはる。
「僕もだ」
「僕も」
「不意打ちとは卑怯だよ」
子供とは親を見て育つものである。
「私にはカァラァ王子殿下が何をしたのかわかりませんでした。歴代最高の魔王と恐れられたシュプリームの子供たちは別格なのかもしれません」
「ラファン、何を怖気づいているのだ!ルシスを殺すことには成功したのだぞ。この好機を逃すと二度とチャンスは訪れないぞ」
「私も緻密に仕組んだ計画を白紙にはしたくはありません。ヤツラに協力させてルシスを魔獣のエサにして計画は順調に進んでいました。しかし、今回のあなたの息子を魔王候補にするためには、あなたの3人の息子の力をアイツらに見せつける必要がありました。しかし、逆に力の差を見せつけられてしまいました。私はルシスにばかり気を取られていましたが、本当の化け物はカァラァだったのかもしれません」
ラファンは私が魔獣のエサとなって死んでいると勘違いしているようだ。
「納得できん!お前は幻影でも見せられたのではないのか」
「お父さん、僕もそう思うよ」
「そうだ。それに違いないよ」
「納得したよ。僕たちがあんな奴に殺されるなんておかしいよ」
デットリーの考えに息子たちも賛同する。
「私は確かに見たのです」
「幻影だ」
デットリーはラファンの言葉を一蹴する。
「幻影じゃないよ」
5人以外の声が聞こえた。
「その声は……リプロ……王子殿下」
「そうだよ」
リプロは笑顔で答える。
「お前!いつからここに居たのだ」
デットリーは取り乱して大声で叫ぶ。
「僕はずっとここに居たよ」
「そんなはずはない。この部屋からお前は出たはずだ」
確かにデットリーたちはリプロたちが部屋から出るのを確認したはずだ。
「あれは僕が見せた幻影だよ」
「やっぱり……全てが幻影だったのか。ラファン、俺たちは死んでなどいなかったのだ。グハハハハハハ、グハハハハハハ」
デットリーは安堵した。
「君たちが死んだのは事実だよ。君たちが見た幻影は、僕が部屋から出る姿とこの部屋の景色だよ。僕はずっと席に座っていたのだよ」
リプロだけは部屋に残ってデットリーたちのやりとりを監視していたのである。
「デットリー、リプロ王子殿下の発言は本当だと思います。それにあなたは大事なことを見落としています。私たちの計画が全てバレてしまったのです」
「……」
デットリーは少し考え込む。
「こんな嘘つきは殺したら良いと思うよ」
「そうだ、そうだ」
「僕がルシファーさんの力を使うよ」
デットリーの3人の息子はリプロのことをなめきっている。
「君たちはとてもの威勢が良いね。好戦的でプライドが高く向上心のある者は魔族としては合格点だよ」
リプロは余裕の笑みを浮かべている。
「でも、自分の実力を理解していない所は親譲りのバカだと思うよ」
リプロはデットリーと3人の息子を挑発する。
「なんだと!その言葉は聞き捨てならんぞ」
デットリーは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「僕の幻影を見抜けなかった時点で君たちは僕に負けているのだよ」
リプロの言っていることは正しい。生殺与奪の権利はリプロにあるのだ。
「……」
デットリーは何も言い返せない。
「コイツ何を言っているのだ」
「そうだ、そうだ」
「僕が殺しても良いかな」
デットリーの3人の息子はリプロの言っていることを理解できていない。
「リプロ王子殿下、誠に申し訳ございません。私はデットリーにそそのかされてやったのです。どうか、お許しください」
ラファンは自分だけでも助かる為に土下座をして謝る。
「貴様、俺たちを裏切るのか!」
「私は本意を述べているだけです」
ラファンは地面に擦り付けた頭を上げずに許しを乞う。
「1つだけ確認したいことがあるのだよ。本当にルシスお姉ちゃんは魔獣のエサになったの」
リプロは無邪気な顔で問う。しかし、ラファンは恐ろしくてリプロの顔を見ることはできない。
「……わかりません」
ラファンは私が死んだと思っているだけで確認はしていない。
「確認をしていないってことだね」
「はい」
「僕とカァラァは魔王という地位には全く興味はないんだ。だから魔王の座を狙っていること自体にはどうでも良いの……でも、ルシスお姉ちゃんへの仕打ちだけは絶対に許せない」
ラファンは異様な空気を感じ取り自分は殺されると覚悟した。それはデットリーも同じだ。
「僕はカァラァのように殺して終わりなどやさしい処分をするつもりはない」
ラファンとデットリーはリプロの放つ禍々しいオーラに生きた心地がしない。
「今年は人界の見回り当番の年だよね」
「はい」
魔界は人界への介入をしない中立の立場をとっているが、5年に1度人界の状況を確認する人界の見回りの当番が実施されている。
「今回は僕が人界へ行くね。君たちの処遇は僕が人界から帰って来た時に判断するよ」
「……わかりました」
ラファンに拒否権はない。リプロは人界の見回りの当番の権利を得て、人界へ赴き私の生存を確認するつもりである。もしも私が死んでいたらラファンたちは死よりも過酷な罰が待っているのであった。
リプロ、私は元気にやっているのです。




