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魔王書庫

 私が目を開くと真っ黒の高い天井が見えて、周りには私の3倍以上の高さのある漆黒の本棚に囲まれていた。ここは私の部屋ではない。私はピンク色の天幕付きのキングサイズのベットで、体が沈んでしまうほどのフカフカのマットで寝ていた。今私の背にあるのは堅いマットと少し黄ばんだ古い布団が体にかけられていた。



 「ここは……魔王書庫なのです」


 

 私は自室ではなく、魔王城の地下にある魔王書庫へ連れていかれていた。そういえば私は3歳の誕生日に前世の記憶が蘇ったので、魔界のことを詳しく知るために、魔王書庫へ入り浸っていた。魔王書庫には何万という本があり、しかも魔法の力で、随時新しい情報に更新されるとても便利な書庫である。この世界は全て魔法によって管理されている。あらゆることに魔法が使われているので、電気、ガス、水道などのインフラ整備が全く必要としない。

 私は魔王書庫の本を読むことでこの世界の仕組みを学んだ。しかし、膨大の量の本と随時更新される情報により、学ぶことに終わりはない。魔王書庫には、様々な禁書もあるので、誰でも入れるわけではなく魔王の許可が必要になる。現在は魔王が不在なので魔王補佐官のお母様の許可が必要だ。



 「どうして私は魔王書庫にいるのかしら」



 私は思い出したくないあの言葉を思い出した。



 『このまま死んでくれたら1番いいのに……』



 信じたくない。夢であって欲しい。聞き間違いだ。私はいろんな言葉を自分に投げかけるが魔王書庫で寝かされていることが、あの言葉が現実であったと証明している。



 「違うのです。お部屋を改装しているだけなのです」



 私はまだ現実を受け入れたくはないので、突拍子もない理由をつけてあの言葉をなかったことにしたい。


 

 「開かないのです……」



 ガブリエルの言葉どおりに最低限の生活をできる筋力は戻っていた。私は古い布団から抜け出して魔王書庫の扉の取手へ手をかける。魔王書庫の扉は外開きで、中から開ける時は魔法のカギを必要としない。逆に入る扉を開ける時には必ず魔法のカギが必要となる。魔王書庫の中から扉が開かないということは、魔法によって扉が開かないようにされているのだ。すなわち、私は魔王書庫に幽閉されているのだ。



 『このまま死んでくれたら1番いいのに……』



 再びあの言葉が頭の中で響く。



 「お母様は私の死を望んでいるのかな……」



 お母様に見捨てられて私は生きる気力を失いつつある。



 「違うのです。お母様はそんな酷い人じゃないのです」



 お母様と一緒に過ごした5年間の日々が私に生きる希望を与えた。



 「あの言葉は、お母様が私の魔力がなくなったのを見て混乱した際に発した言葉なのです」



 そうであって欲しい。どうせ考えるのならば、悪いほうへ考えるよりも良いほうへ考えることにした。



 「私を見捨てたのなら、魔王書庫へ閉じ込めないのです」



 私が魔王書庫で本を読むのが好きなことは、お母様はよく知っている。私を魔王書庫へ幽閉したのは、魔力を失った私のことを他の魔族に気付かせないためであろう。



 「早くお母様に知らせないといけないのです」



 私の身に起きたことをお母様に伝えれば誤解を解くことができるはずだ。私はお母様が会いに来るのを待つしかない。良い方へ考えると希望が湧いてくると同時にお腹も空いてきた。



 「お腹が減ったのです」



 私は昨日から何も食べていないのでお腹が減るのは当然だ。ふと魔王書庫のテーブルを見ると食事が用意されていた。魔界の食事は魔獣の肉と魔界で取れる野菜などでできている。テーブルの上にはパンに魔獣の肉をはさんだサンドイッチが置いてあった。魔界にもパンは存在する。魔王書庫の本には料理の本もあり、パンは人界へ遊びに行った魔族がパンの作り方を学んだと記載されていた。

 私はサンドイッチを食べながら、本棚の本へ手を伸ばして、最新の魔界情報を確認することにした。私が手にした本は新聞みたいなものである。この本には、日々の出来事が随時に更新されている。私は恐る恐る今日の記事を読むことにした。



 =緊急速報!ルシス王女殿下は難病を発症した為に魔王城の地下施設にて療養に入る=

 『ルシス王女殿下は、悪魔との契約後に謎の難病が発症して、急遽魔王城の地下施設にて療養生活へ入ることになりました。今のところ、レジーナ王妃殿下、リプロ王子殿下、カァラァ王子殿下からのメッセージはありませんが、そのうち何かしらのメッセージが出されるでしょう』


 

 私は病気で療養中ってことになっていた。たしかにその方が魔界の人々は納得するだろう。


 私が魔王書庫へ幽閉されて1週間が経過した。食事は毎日3食きちんと用意されているが、お母様たちは1度も会いに来てくれていない。やはり私は見放されてしまったのであろうか。




 『トントン、トントン』



 扉を叩く音がした。扉を叩かれるのは食事が運ばれる時だけである。しかし今は食事の時間ではない。もしかしたらお母様が会いに来てくれたのかもしれない。そう思うと私の目には涙があふれ、一目散に扉へ走って行った。



 「お姉ちゃんいるの?リプロだよ」



 扉越しに声が聞こえたがお母様ではなかった。でもリプロが会いに来てくれたことはとても嬉しかった。



 「リプロなの?魔王書庫へ来ても大丈夫なの?」

 「お母様からは固く禁じられているよ。でも、どうしてもお姉ちゃんとお話がしたかったの」


 「そうなのね。でも会いに来てくれてありがとです」

 「うん。お姉ちゃんの声が聞けて嬉しいよ。僕はお姉ちゃんが魔力を失ってもお姉ちゃんが大好きだよ。お姉ちゃんが魔力を失ったのなら僕がお姉ちゃんを守ってあげるよ。その為に毎日悪魔様の能力(スキル)を使いこなせるように、カァラァと一緒に訓練をしているよ。だからお姉ちゃんはこの部屋でゆっくりと休んでいてくれたらいいよ」


 「ありがとうリプロ。私もこの部屋で魔力を取り戻せるようにがんばるのです」



 リプロに真実を告げても動揺すると思ったので真実を告げることはしなかった。



 「お母様は会いに来てくれないのかな?」

 「うん。でもカァラァはすごくお姉ちゃんに会いたがっているよ。でも魔王書庫に行くのは難しくて……」


 「リプロ王子殿下、どうしてこの場所にいるのでしょうか?ここは立ち入り禁止区域です」

 「だってお姉ちゃんとお話をしたいんだもん」


 「お気持ちはわかりますが、魔王書庫へ近づくのは危険だと言われているはずです。今回魔王書庫へ訪れたことは、レジーナ王妃殿下には内緒にしてあげますので、すぐにお戻りください」



 そう言われるとリプロは帰っていった。私はリプロが話している会話で気になる点があった。それは、魔王書庫へ近づくのは危険であるという言葉であった。それはどういう意味を指すのであろうか?この時点では私は重大なことに気付いていなかったのである。

 

 魔王書庫に閉じ込められて1か月が経過した時、私の書庫生活を大きく変える出来事が起きるのであった。



 大事件なのです!



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