蒼穹の神の手
「ふ……ふざけるな!すぐに中へ入らせろ」
ケレースは怒鳴り上げて強引に町へ入ろうとする。
「お願いします、ケレース様。どうか復唱してください」
門兵は土下座をして懇願した。
「……」
震えながら土下座する門兵の姿を見たケレースは動きが止まる。
「パースリで何があったのだ……。俺に説明してくれ」
門兵はジュピターの手によって合成魔獣に改造されたローガンの極悪非道な支配を伝えた。
「それは本当なのですか?」
「はい。ローガン大司教様に逆らった者は全て殺されて、逆らった者の家族は女子供も奴隷として天空神大教会で奉仕に努めています。ケレース様お願いします。もしも復唱せずには町へ入れば私だけでなく家族も奴隷落ちとなるのです」
ケレースは怒りで拳を握りしめていた。そして、「ローガン様へ絶対に服従します。ローガン様は最高の人物です。ローガン様に全てを捧げます」と3回復唱した。するとケレースは首裏に熱い感触を感じた。
「ガハハハハハハ、ガハハハハハハ、ガハハハハハ」
ケレースが復唱を終えるとローガンの高笑いが聞こえた。
「お……お前が諸悪の根源であるローガンかぁ!」
ケレースの前に姿を見せたのはローガンである。しかし、合成魔獣の姿ではなく普通の人間の姿をしている。
「貴様、頭が高いぞ。平伏しろ」
「ふざけるな!誰がお前になんか……」
ケレースは拒否をするが見えない手がケレースの体を抑え付けて無理やりに平伏させる。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。お前にはその姿がお似合いだぞ」
「お前、私に何をした!」
「お前は俺様に服従の誓を立てただろう」
町へ入るための文言の復唱はローガンへの服従する誓の証であった。
「たかが言葉を述べただけでそんなことができるわけ……」
ケレースは言葉を止めた。
「もしかしてお前は……」
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。さすが天空神12使徒だな。俺様の神力を理解したようだな」
「どうしてお前が神力を授かったのだ。神に選ばれた人間にしか与えられないはずです」
「俺様は神に選ばれた人間だったのだ。苦節27年、やっと俺様の努力が報われて神力が発動したのだ」
田舎町の町長の息子に生まれたローガンは、母の厳しいしつけから逃げ出して自堕落な生活をしていた。それは生まれて27年間変わることはない。
「どうしてだ?お前はジュピターの手によって合成魔獣になったのではないのか」
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。そうだ。俺様は合成魔獣になったことで神力に目覚めたのだ」
合成魔獣とは動物や人間、魔獣などを組み合わせて作られた魔獣のことをさす。合成魔獣の本質は魔獣なので神力に目覚めることなどありえない。
「どうしてですか!どうして運命神モイライ様はこのような下衆に神力を与えたのですか」
ケレースの視界はローガンでなく空を仰いでいた。ケレースにはローガンに神力を与えた人物に心当たりがあるのだ。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。天空神12使徒の時代が終わりこれからは蒼穹の神の手が天空神教の神となるのだ」
「お黙りなさい!私たちこそが天空神教の神と崇められる存在なのです。お前の好きにはさせないのです」
ケレースは必死に食い下がるが平伏した体は自由が効かない。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。みっともない姿だな」
「すぐに私の拘束を解くのです!私はゼーウス法王様の命を受けてパースリへ来たのです」
「ガハハハハハハ、ガハハハハハハ。お前は何もわかっていない。俺様はゼーウスのおっさんから蒼穹の神の手に任命されたのだ」
「ど……どういことですか」
「それは私から説明しましょう」
ケレースは声がする方へ目を向ける。それは周囲ではなく空である。
「……モ……モライス様。どうしてここにいるのですか」
ケレースが空を見上げると大きな白い翼を広げた白髪長髪白眼の真っ白な肌の長身の美しい男がいた。
「あなたこそどうして逃げてきたのでしょうか」
「……」
ケレースは後ろめたい気持ちを隠すためにモライスから目をそらす。
「バッカスは死にました」
「はい」
ケレースは素直にバッカスの死を受け入れる。
「バッカスだけではありません。昨日、各町へ派遣した最強神ジュノ、拳闘神マーズ、美貌神ウェヌスは敗北しました」
「そ……そんな……」
ケレースはすぐには受け入れられない。
「天空神12使徒の力を全世界へ知らしめるはずが、あなたたちは全世界へ恥をさらしたのです。もう天空伸12使徒は必要ないとゼーウス様は判断されました」
「ちょっと待って下さい。もう1度チャンスを下さい」
「あなたたちは失敗作だったのです。今日から蒼穹の神の手が天空神教の神として動いてもらうのです。ローガンさん、後はお任せしますね」
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。今日から俺様の時代だぜぃ」
ローガンが出世しているのです!