ローガンサマ
「ガハハハハハ、ガハハハハハ……、ガ……」
バッカスの高笑いが徐々に小さくなっていく。
「ど……どうしてワシは横を向いてるのだ?」
バッカスは自分の視界の違和感を感じる。
「あれ?おかしいぞ。体が動かない……。それに……」
バッカスは視界だけでなく体の感覚も感じなくなり、次第に目の前がだんだんと暗くなる。
「……」
そして、最後には声も出せなくなった。
「このおっさんしぶといねん」
「そうね。巨人化して全ての機能にバフがかかっていたのかもね」
そこには縮小してもとの姿に戻ったバッカスの胴体と顔が離れた状態で転がっていた。
「お前は役者やのうぉ~」
「破壊者をやめて演劇の道にでも進もうかしら」
ロキはノリノリで返答をする。
「キャキャキャ、それもええやん」
「それで、いつ私の作戦に気付いたの?」
ロキは真剣な眼差しでトールを見る。
「お前はルシスの魔石の改造で氷水属性を手に入れたやろ」
「そうね。体内に入ったアルコールはすぐに水で薄めて浄化したわ。でも、そこで一計思い付いたのよ」
「そやな。それにバッカスは騙せてもあの演技では俺は騙されへんで」
「さっきは役者と褒めてくれたのに!」
ロキは少しムッとする。
「あれはお前にしては上出来やという意味やろ」
「そうね。私は演劇の道を諦めるわ」
さらにロキの機嫌が悪くなる。
「はぁ~。でもルシスのおかげで俺ら強くなれたやん」
「そうね。昨日までの私たちならバッカスに一方的にボコられてたわね」
ロキは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「そやな。バフでアイツの体は鋼鉄よりも堅くなっていたはずやろ。それを一瞬で頭を斬り落とすとは驚きや」
「これもルシスちゃんが2属性にしてくれたおかげよ。首を凍らせた後に炎の剣で焼き斬ったのよ」
バッカスがトールに気を取られている一瞬で、ロキはバッカスの首を急激に凍らせてから炎を纏った剣で頭を斬り落とした。バフのかかっていたバッカスはすぐに死ぬことはなく30秒ほど意識はあったが、自分が死んだことには最後まで気付くことはなかった。今回の勝利はロキの名演技が決め手となった。
「さてと、もう1人おったやろ」
「もう、姿が見えないわ」
ケレースはバッカスの勝利を信じてた。しかし、もしものことを考えて一目散に逃げていた。この判断は正しかったと言えるだろう。
「追いかけるか?」
トールは面倒くさそうに問う。
「行き先はわかっているわ。修業を終えたらパースリへ向かいましょう」
「そやな。第1階層をクリアーしたらパースリで最終決戦やな」
ロキとトールはまだ修業の途中である。今はケレースを追うよりも第1階層をクリアーすることの方が大事だと考えていた。
「キャベッジへ戻りましょう」
ロキとトールは天空神軍を退けてキャベッジへ戻り再び修業を再開した。
「バッカス、後は任せたぜ。俺は最悪の事態を想定して先にパースリへ戻るぜ。これはお前を信用していないのではなく万が一に備えての行動であることを理解してくれ」
ケレースは言い訳をしてシュティルの森から逃げ出した。それから時間は過ぎて夕方にはパースリへ到着した。
「ローガンサマ……」
ケレースがパースリへ入る門に大きく掲げられている看板を見て驚いていた。
「これはどういうことだ」
ケレースは門兵に問う。
「この町の新たなる大司教様となったローガンサマが町の名前をローガンサマに改名したのです」
「……」
ケレースは一瞬言葉を失った。
「ちょっと待て。お前は何をいっているのだ?この町はパースリで大司教はスキャラブ大司教様だろ」
「それは昨日までの話です。今はローガン大司教様が統治するローガンサマとなりました」
「お前は俺をバカにしているのか?」
ケレースは門兵の言葉を信じることができない。
「そのようなことは一切ありません」
門兵は真実のみを告げている。
「お前と話しても無駄だ。俺を町へ入らせろ」
「わかりました。それでしたら、ローガン様へ絶対に服従します。ローガン様は最高の人物です。ローガン様に全てを捧げますと大声で3回復唱してください」
「……」
ケレースは唖然とする。
「ケレース様、この文言を復唱しないと町へ入れないのです」
これはローガンが決めたルールなのであった。
ローガンはやりたい放題しているのです!




