無敵の領域
「1号ちゃ~~~ん」
ロキは1号との死別を涙を流しながら叫ぶ。
「茶番やろ」
トールは冷静に突っ込む。
「トール、1号ちゃんの仇を討ちましょう」
「いつまで続けるねん。アイツはすぐに復活するやろ」
「トール、1号ちゃんの決死の覚悟を冒涜するような発言をしたらダメよ。私たちは1号ちゃんの勇士を目に焼き付けて全力であの巨人をぶったおすのよ」
「へい、へい、へい」
トールはだるそうに返事をするがロキは真剣だ。
「ケレース、お前は避難しろ」
「わかりました」
ケレースは馬に乗り全力で駆け出した。
「はぁ~、はぁ~」
バッカスは荒い息をする。
「ロキ、アイツ何か仕掛けるみたいやで」
「そうね。気を付けましょう」
ロキたちとバッカスの距離は400mほどだ。2人はまだ安全範囲と捉えていたが、バッカスの射程範囲に入ってしまっている。
「かかってこいや!」
バッカスは辺りの木をなぎ倒すほどの大声を上げてロキとトールを挑発する。
「ロキ、これはあれやん」
トールは異変に気付いた。
「そ……う……」
しかし、ロキは顔を真っ赤にして千鳥足でふらつき始める。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。ワシの作った酒の世界はどうだ」
バッカスの能力である酒の世界とは、バッカスを中心に半径500m内の酸素をアルコール度数98%の酸素へ変えることができる。それは呼吸をするだけで酔っ払いになり、正常な判断ができなくなり、立っていることさえ難しくなり戦闘不能状態に陥るのである。
「ロキ、大丈夫か」
「……うっ」
ロキは完全に酔いつぶれてしまい吐き気をもよおす。
「しゃ~ない。俺がアイツをやったるで」
ロキはよっぱらいとなったがトールは何も変わらない。
「おい!お前はどうしてシラフなのだ?」
一向に酔う気配のないトールの姿を見たバッカスは動揺している。
「キャキャキャキャ、キャキャキャキャ。これくらいで酔うわけないやろが。酔うどころか逆に調子がええわ」
酒の世界でまともに動けるのは大酒豪であるバッカスしか存在しないはずだった。しかし、トールは顔色を全く変えずに笑っている。
「お前もかなりいける口やったんやな」
「そやな。俺の血は酒でできているねん」
トールは余裕の笑みを浮かべる。
「そうか。お前が大酒飲みであることは認めようではないか」
「サンキューやで、それで今から俺とやるか」
トールはハンマを担ぎ上げてバルカンを挑発する。
「酔っていれば気持ちよく死ねたのに……。酒豪であることを後悔させてやるわ」
「お前こそキャベッジへ手を出そうとしたことを後悔させてやる。雷速」
トールが魔法名を唱えると姿が消えた。
「そこじゃボケ」
バッカスは巨大な拳を振り落とす。
「図体がでかいわりに俊敏やんけ」
バッカスは寸分の狂いもなくトールの頭上に拳を振り落としたがトールは寸前のところで回避した。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ。ワシは酒の世界の中では無敵なのだ」
バッカスは酒の世界の中ではバフの効果がかかる。お神酒を多量に飲んで巨人化したバッカスは酒の世界の中では無敵と言っても過言ではないのだろう。
「ほな酒の世界の効果が切れるのを待てばいいだけのことやん」
トールの判断は正しい。バッカスの酒の世界が保てるのは30分である。30分間逃げ切ればチャンスは訪れる。
「ガハハハハハハ、ガハハハハハハ。お前はコイツを見捨てて逃げるのか」
バッカスがドスンとジャンプをする。その瞬間トールも姿を消す。
「そこや」
バッカスはジャンプして着地する瞬間に地面へ拳を叩きつける。またしても寸前のところでトールは回避をする。
「ロキに手を出したら殺すぞ」
バッカスのすぐそばに倒れているロキがいる。
「殺せるもんなら殺してくれや」
バッカスは大きな拳を振り上げてロキを襲う。
「させるか!」
トールはハンマを振り上げてバッカスに突進する。
「バカかお前は」
バッカスはトールが向かって来ることはわかっていた。振り上げた拳は軌道を変えてトールに向かって放たれた。
「ガハハハハハ、ガハハハハハ」
バッカスの渾身の一撃がさく裂した。
あっけない結末なのです。




